091 魔眼のバロル1:指輪
ヴォルクたちの奮闘により、俺たちは眷族どもの間をすり抜け、バロルのもとに到達した。
俺たちが接近しても、バロルは玉座に座ったまま。
笑みを浮かべ、俺たちを見下ろす。
額の目はまだ、厚いまぶたに覆われていた。
俺たちなど眼中にないのか、バロルはなにもしてこない。
挙げっぱなしの右手が周期的に光り、そのたびに眷族が生まれる。
「あれはっ――」
「指輪よ」
正確には、右手ではなく、嵌められた指輪が光っていた。
どうやら、あの指輪で眷族を召喚しているみたいだ。
「左手にも指輪してます」
右手には銀の指輪。
そして、左手には金の指輪。
銀の指輪は眷族召喚。
だとしたら、金の指輪の効果は――。
「大丈夫。倒し方は知ってるから」
聖女らしい顔つきで、ディズが言う。
「まずは右手。ロイル、ぶっ放して。サンディも詠唱に入って。全力でいいから」
「う、ん」
「はいっ!」
あの指輪がある限り、『紅の牙』がどれだけ眷族を倒しても終わりがない。
眷族召喚を止めるのが最優先だ。
先ほどは壁に塞がれたが、この距離なら――。
『――【すべてを穿つ】』
バロルの右手に向けて、全力の魔弾を放つ。
身体の中から、ごっそりと魔力が抜け落ちる感覚に、少しふらつく。
さっきから強力な魔法を連発している。
これほど大量の魔力を消費したのは初めてだ。
これがディズの言ってた「魔法を使うと魔力が減る」ってことか。
初めての体験に、俺は戸惑う。
だが、それだけの魔力を込めた甲斐があった。
魔弾は狙い通りに右手に命中。
大きく抉る傷を作った。
指輪にも傷ができている。
――いけるッ!
しんどいかもしれないが、こうやって削っていけば、いずれ倒せるッ!
「安心するのは、まだ早いよ」
ディズは厳しい視線をバロルに向けたままだ。
そして、その通り――希望は簡単に壊された。
バロルは左手を挙げる。
その指にはめられた金の指輪が光ると同時に、右手の傷がみるみるとふさがっていく。
回復能力を備えた強敵。
たしかに、テンプレだが……実際に対峙すると絶望感が途轍もない。
――魔法は使える回数に上限があるのよ。
ディズの言葉が頭をよぎる。
全力の【すべてを穿つ】が後どれくらい撃てるかわからない。
「バロルの魔力は膨大。それでも、削っていくしか方法はないわ」
「う、ん」
「大丈夫。バロルの回復も無限じゃないよ。指輪が壊れるのが先か、こっちの魔力が尽きるのが先か。こっから先は根比べだね」
「どう……すれ、ば?」
「回復手段を最初に断つのがセオリー。でも、左の指輪は壊せないから、使用不能になるまで使わせるしかない。だから――最初は右手よ」
「わか……った」
ここまで具体的な指示が出せるのだ、ディズは本当に倒し方を知っているのだろう。
聖女しか知らない、その方法を。
「その機が来たら、私が聖女としての務めを果たすよ。まずはロイルが主砲。任せたよ」
「ああ」
だったら、それを信じて、自分ができることをやるだけだ。
そのとき、サンディの詠唱が終わった。
現時点で彼女が撃てる最高火力。
長い長い詠唱を終えて、今、それが発動される。
『――サンダー・レイン』
太い雷撃が幾条も、バロルの右手に落ちる。
俺の魔弾ほどではないが、たしかなダメージを与えている。
「師匠には及びませんけど、私だってできますっ!」
魔力回復ポーションを飲みながら、サンディは胸を張る。
「ぶっ倒れるまで、撃ちまくってやりますよっ!」
肉の焦げる不快な匂いが鼻をつく。
それでも、バロルは動じた様子もない。
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
魔弾の二連発をお見舞いする。
バロルの手に穴が開く。
――まだまだっ!
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
バロルの手首から先が消失した――。
次回――『魔眼のバロル2:反撃』




