090 バロルの眷族(下)
次々と増える眷族――。
それを見て、ヴォルクが指示を出す。
「ザコは俺たち『紅の牙』に任せろ。三人は気にせずバロルに向かえ」
「俺が最初に飛び込んで撹乱する。オルソたちは後からついて来い」
「ラカルティは悪魔狙い」
「ルナールはハーピーを落とせ」
「残りは俺とオルソだ」
「未知の強敵だが、ロイルの障壁があるから問題ない。暴れるぞッ!」
言い終わるや、ヴォルクは全力で駆け出す。
『紅の牙』の三人も走るが、ヴォルクとの距離は開いていく。
言葉通りに、ヴォルクは一人で眷族たちの中に飛び込み、暴れ始めた。
悪意に目をギラつかせる毛むくじゃらの巨人――トロルが四体。
翼をはためかせ、宙に浮かぶ鳥人間――ハーピーが三体。
紫色の筋肉が盛り上がり、山羊の頭を持つ悪魔――デーモンが二体。
眷族たちは『伝説の幻獣辞典』に描かれていた姿そのものだった。
トロルが膂力に任せて巨大な棍棒を振り回し――。
ハーピーが鋭く尖った羽根を空から連射し――。
デーモンは二本の黒い槍を巧みに操る――。
だが、ヴォルクは疾風となってその間隙を縫って進み、暴風となって硬く鋭い爪で斬り裂く。
防御無視の全力攻撃だ。
それでも、ヴォルクは持ち前の素早さでかわし、敵の攻撃は二、三度かすっただけだ。
本来ならかすっただけでも大ダメージを受ける攻撃だが、俺の【絶対不可侵遷移空間】がそれを無効化する。
「へへっ、すげーな。思いっきり暴れられるぜ」
【絶対不可侵遷移空間】の効果を確認したヴォルクは、さらに激しく、加速する。
跳び上がったヴォルクの爪がトロルの目を貫いたとき、『紅の牙』の三人が追いついた。
熊人のオルソはその巨大な体躯に真っ赤なカイトシールドを前に突き出し、デーモンに体当たりをぶちかます。
【絶対不可侵遷移空間】で強化された攻撃は、デーモンの槍でも止められず、衝突したデーモンは弾き飛ばされた。
「派手にぶっ飛んだのう。これは気持ちいいわい」
オルソに向かって二体のトロルが殺到する。
彼は慌てる様子もなく、モーニングスターを叩きつけた。
狐人ルナールとリザードマンのラカルティ。
魔法職の二人は数メートル後ろでスタンバイ。
普通の魔法は距離による威力の減衰が大きいそうだ。
なので、ここまで近づく必要がある。
数十キロ先まで届く俺の攻撃魔法とは違うのだ。
二人に向かってハーピーが羽根矢の雨を降らせる。
しかし、それも【絶対不可侵遷移空間】が無効化する。
地上の敵も二人に近づこうとするが、ヴォルクとオルソが牽制し、それを許さない。
「詠唱に集中できるわね」
「うむ」
『舞えよ、燃えよ。炎よ息吹け、灼熱の業火となりて――』
『光の精霊よ。我が呼び声に応えよ。我に力を与えよ――』
二人は詠唱を開始する。
俺のとは違い、意味を持った詠唱だ。
詠唱は秩序を構築し、魔力に意味を与える。
練り上げられた魔力が詠唱によって変換され、具現化される。
『――ラピッド・フレイム』
ルナールが振るう短杖に合わせて無数の火矢がハーピーの翼を貫く。
『――シャイニング・ピュリファイ』
ラカルティが錫杖で地を突くと、浄化の光に包まれたデーモンが苦しみの声を上げる。
「おらっ、かかって来いよっ。Aランクの底意地見せてやる」
ヴォルクの吼える声を背中に、俺たちはその横を通りぬけ、バロルの足元にたどり着いた。
次回――『魔眼のバロル1:指輪』
明後日の更新です。




