089 バロルの眷族(上)
迫り来る眷族どもに向かって、俺は魔弾を連射する――。
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
さっきと違い、人間を巻き込む恐れはない。
それに、あわよくば、後ろのバロルにダメージを与えられる。
手加減は無用だ。
俺は全力で魔弾を撃ちまくった。
演出は不要なので、魔弾に色はつけていない。
見えない魔弾が眷族に次々と衝突し――。
穴を開け。
四肢を弾き飛ばし。
存在そのものを抹消する。
「トロルの変異種に、あれは悪魔ね。デーモンかしら?」
「ハーピーの上位種もいますね」
「どれもAランクか、それ以上じゃな」
「だが、そいつらも……」
「ああ、全滅だ……」
「さすがは師匠ですっ」
魔弾連射の後には、眷族たちは一匹残らず死に絶えていた。
良かった。
眷族を一撃で倒せないと、バロルと戦うどころじゃないからな。
「だけど……」
「無傷だな」
一方、バロルはノーダメージ。
何発かは眷族を貫通し、バロルまで届いた。
だが、それでも、ダメージは与えられていない。
やはり、もっと近い距離から直接当てないとダメなようだ。
「本当に、倒せるのか?」
「バケモンだな」
「古き神々……」
広がりかけた動揺を沈めようと、俺は詠唱を開始する。
厳かに、重厚に。
吾は命ず――。
堅固。
固持。
結合。
連結。
流動。
不動。
吸収。
発散。
其が在る可き姿也――。
『――【絶対不可侵遷移空間】』
全員の身体が黄金色に包まれる――。
「おおっ」
「スゴいです」
「アイツもすげえが、ロイルもすげえな」
「これなら、十分戦える気がするわ」
時間が惜しいので、詠唱は短縮したが、十分な効果があった。
皆の顔から動揺は消え、自信が取って代わる。
そこにディズが小声で話しかけてきた。
「まだ、魔力は大丈夫?」
「う、ん。 少し……減った……感じ」
魔力が減ったと実感するのは初めてで少し戸惑う。
だが、感覚的にはまだまだ十分に余裕が感じられる。
「ロイルの魔力は最後の切り札になるわ。使いすぎないでね」
「わた、った」
「ヤバそうだったら教えてね」
「う、ん」
ディズの拳が肩をコツンと叩く。
そこにヴォルクが吼え――。
「さあ、行くぞッ!」
俺たちは駈け出した――。
さっき、魔動車から飛び降りて戦うヴォルクの姿を見たばかりなので、俺には分かる。
ヴォルクのペースは全力でない。
他のみんなに合わせてペースを落としているのだ。
ヴォルクに続いて、ディズとオルソの物理職。
その次が、サンディ、ルナール、ラカルティの魔法職。
俺は最後尾だ。
金属鎧をガチャガチャ言わせながら走って行くが――みんなとの距離はどんどん離れていく。
これが上位冒険者か……。
魔法職の三人でも、これだけ速く走れるんだ。
自分の至らなさに忸怩たる思いでいると――。
「ロイル、無理すんなよっ。お前は砲台だ。『全力で走って、魔法を撃てません』じゃ困るからな。自分のペースでついて来い」
そうだ。
俺は自分の役目を思い出す。
できないことはしょうがない。
できることをやるだけだ。
俺は息の上がらない程度でついて行く。
玉座に座ったバロルがこちらを見ている。
眷族を全滅させられたというのに、バロルの表情は変わらない。
不気味な笑みを浮かべたままだ。
バロルはゆっくりと右手を挙げた。
その手が光る――。
手が光る度に、一体、また、一体と、眷族が生まれてくる。
バロルとの距離は500メートルを切った。
だが、その500メートルが遠い。
そこに到達するまで、さらに召喚されるだろう。
「なッ!」
「急げっ!」
敵の数が出そろう前に、少しでも速く到達しようと、ヴォルクたちは速度を上げる。
俺はその速さについて行けない。
だけど、俺には魔法がある。
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
『――【すべてを穿つ】』
フレンドリー・ファイアしないように、山なりの軌道で撃つ。
魔弾は生まれたばかりの眷族を一体ずつ倒していく――。
「ナイスだ、ロイル!」
「また生まれる前に、突っ込むぞッ!」
次回――『バロルの眷族(下)』




