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087 森の中心部

「なあ、ディズ――」


 ディズにヴォルクが真剣な声をかけた。

 だが、その後に言葉は続かない。

 二人の視線がぶつかり合うだけだ。


 しばらくそうしてから、ヴォルクは小さくうなずいた。


「わかった。お前を信じる。みんなもそれでいいな?」


 もちろん、反対の声は上がらなかった。


「ありがとっ」


 フッと笑みを浮かべるディズは、やはり、どこか寂しそうだった。


「よし、そうと決まれば、ボヤボヤしてらんねえが……魔動車は入れなそうだな」

「これ以上は大きくできないよ」


 ディズが開けた穴は人ひとりが通れるくらいのサイズだ。


「しかたねえ、歩いて行くしかねえな。なあ、騎士さん」


 ヴォルクは御者を務めていた騎士に話しかける。


「そう簡単にくたばるつもりはねえが、万が一ってこともある。アンタはこの情報をペルスに伝えてくれ」


 寡黙な騎士は黙ってうなずいた。

 魔動車に乗り込んだ彼は、Uターンして戻って行った――。


「さあ、俺たちも行くぞ」


 ヴォルクを先頭に穴をくぐり抜ける。


 穴を越えた瞬間――空気が変わった。


「なんですか、この邪悪な魔力は……」


 他の誰よりも魔力に敏感なサンディが最初に声を上げた。


「気味わりぃな」

「イヤじゃのう」

「不快ね……」

「うむ」


 他の面々も察したようだ。

 一方、ディズはなにか知っているのか、あまり驚いていないようだった。


「バロルの……魔力…………1キロ……先。強い……モンスター……何十体も」


 中に入ってようやく、【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】が働き出した。

 敵は1キロ先に固まっているが、動きはない。

 悠々と俺たちを待ち構えているようだ。


 それにしても、信じられないほど強大で禍々しい魔力だ――。


 圧倒的な存在。

 生物としての格の違いがひしひしと伝わってくる。

 俺たちが尻込みしていると、バロルが――えた。


――ヴィィィリリリィィィリリリィィィ。


 途端――信じられないほど強力な魔力の波が襲ってくる。


『――【絶対不可侵オムニノ・ノモレスト・遷移空間(トランジ・ロゥクス)】』


 反射的に最大出力で全員を守るように魔障壁を張る。

 いきなり襲われることも想定していたので、なんとか間に合った。


 魔障壁は――ギリギリ耐えられた。


 荒れ狂う魔力波から俺たちを守りきって、ガラスが割れるように粉々になった。


 そして、魔力波が去った後の光景を見て、俺たちは絶句する――。


 更地だ。


 密集して生えていた森の木々はすべて消失。

 俺たちが入ってきた壁の内側全部が更地になっていた。


 そして、見通しのよくなったその先には――。


「バロル……」


 誰かのつぶやきが漏れる。


 1キロ先だというのが信じられない大きさ。

 王座のような装飾がほどこされた巨大な椅子に座り、俺たちを見下ろす魔眼のバロル。

 さっき見たときと変わらず、精神をざわめかせる笑みを浮かべている。

 そして、その周りには無数のモンスター。

 街道や森にいた変異種なんかよりも、はるかに強いモンスター。

 バロルの眷族だろうか……。


 静かなバロルとは対照的に、眷族どもは威嚇するようなうなり声

を上げた。

 向こうもやる気満々のようだ。


 眷族どもは一丸となり、土煙を立てながら、波となって押し寄せる。

 距離があるので、ぶつかるまでは少しの猶予がある。

 我らがリーダーの判断は――。


「おう、ロイル、さっきの防御魔法はノータイムでも撃てるか?」

「う、ん」

「じゃあ、先に攻撃だ」

「わか、った」

「撃ち終わったら、全員に障壁を張ってくれ」

「サンディとルナールはロイルの着弾後、様子を見てから撃ち漏らしを掃討だっ!」

「わかりました」「わかった」

「ラカルティは回復魔法スタンバイ」

「うむ」

「オルソとディズはいつでも飛び出せるようにしとけよっ!」

「おうっ」「おっけ」

「いくぞッ! ロイル、デカイのぶちかましてやれっ!」


 俺は前方の敵を見据え、魔法をぶっ放す――。

次回――『サラクン15:激戦』


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