085 森の奥へ
【精確な死を】でモンスターを一体ずつ撃ち落としていく。
狙いをつける速さではサンディやルナールには及ばないが、俺の魔力弾は確実に相手を仕留めていく。
なんとか、師匠としての体面は保てそうだ。
魔動車が森の奥に進むにつれ、戦闘はまばらになっていく。
そして、ある線を境に、急に静かになった。
遠くから戦いの音が伝わってくるが、ここまで来るとモンスターは一体も存在していない。
魔動車が木を突き倒して進む音だけが森にこだまする。
不気味な空気だった。
嵐の前の静けさか、不吉への入り口か。
魔動車はガタゴトと俺たちを運んでいく――。
やがて、追いついてきたヴォルクは魔動車と並走し、フワッと宙に身を任すと、軽やかに着地する。
衝撃を感じさせない、鮮やかな着地だった。
「よっと。いいウォーミングアップだったな」
続いて、ディズも魔動車に飛び乗る。
「ただいま〜」
その顔は軽く火照り、上機嫌だ。
二人とも、疲れは一切感じられない。
変異種相手の戦闘は、彼らにとっては準備運動くらいだったのだろう。
魔法職の三人はポーションを飲んで、魔力を回復中だ。
俺はたいして魔力消費していないので、ポーションは飲まなかった。
俺たちの援護によって、森の中で戦闘中のモンスターたちは、だいぶ数を減らした。
全滅とまではいかなかったが、後は騎士と冒険者たちに任せて問題ないだろう。
後は、いよいよ、本命である魔眼のバロル――。
「やけに静かだな。ロイル、感じられるか?」
ヴォルクの問いに俺は首を横に振る。
相変わらず、見えない壁に阻まれ、その内部は探知できない。
不思議な壁だ。
物理的な壁ではない。
だが、魔力による壁でもない。
見知らぬ力による壁だった。
その壁に向かって魔動車は進んで行く――。
「おら、見えてきたぞッ!」
五百メートルほどに近づくと、壁が視認できるようになった。
玉虫色に輝く壁だ。
天高くまで伸びている。
幻想的な光景に皆、目を奪われる。
だが、この壁の向こうには――。
「ロイル、なにかわかるか?」
俺はまた、首を振る。
ここまで近づいても、【世界を覆う見えざる手】は壁に吸収され、中まで届かない。
「いったん、止めた方が良さそうだな」
ヴォルクの言葉に、みんな頷く。
得体のしれない壁だ。
このまま、突っ込むのは危険すぎる。
「騎士さん。壁の手前で止めてくれ」
「わかった」
魔動車が壁の数メートル手前で停車すると、俺たちは次々と降り立った。
なにが起こるかわからない。
皆、臨戦態勢で壁を凝視している。
そんな中、恐れ知らずのヴォルクが近づいていって壁に手で触れる。
「たしかに、壁だな……」
ペタペタと触り、押しこんだり、軽く殴りつけたりしている。
だが、壁は変わりなく、侵入者を拒み続けていた。
「壊さなきゃ入れなそうだが、魔法は――」
ヴォルクが俺を見るが、俺は首を横に振る。
さっき、遠距離から放った魔弾は壁に無効化された。
あのときの手応えからすると、至近距離からでも同じ結果になるだろう。
「ロイルがダメなら、魔法は無理か。おい、オルソ――」
「ああ、やってみよう」
熊人であるオルソはカイトシールドをマジック・バッグにしまい込み、代わりに巨大なハンマーを取り出した。
そのまま、壁まで近づき、腰を落として、ハンマーを構える。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」
大声で気合いを入れる。
そして、大きく振りかぶり――。
「――必撃入魂ッ!!!」
オルソのハンマーが壁を強打する。
激しい振動が空気を震わせ、ビリビリとした余波が肌に伝わってくる。
だが――それだけだった。
壁には傷ひとつついていない。
「最大火力じゃったんだがのう……」
「オルソでダメなら、物理も無理か……」
魔法もダメ、物理攻撃もダメ。
打つ手なしだ。
ヴォルクの困り顔がみんなに伝染する。
困惑の中、ただ一人、ディズが動き出した――。
次回――『壁』
明後日の更新です。




