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082 サラクン14:二人の指揮官

 サラクン騎士団長フェニルとの面会を終えたディン騎士団の二人は、天幕を離れ斜面を下る。

 高台から戦場を眺めつつ、副官がペルスに語りかける。


「どうやら、バロルには気がついていないようですな」

「ああ、ここからでは見えないようだ」


 森の木々から頭を覗かすバロル。

 不思議なことに、高台になっているこの場所からは、その姿がまったく見えなかった。


「サラクンの騎士なんか、眼中にないってところなんですかね?」

「さあ、魔物の考えはわからん」

「教えなくてよかったんですか?」

「この戦況だ。知ったところで混乱するだけ。知らないなら、その方がいい」

「それにしても、ありゃあ、ダメですな」

「トップがアレの割りにはよく戦っている」

「きっと副官が優秀なんでしょう。俺みたいに」

「冗談はよせ」

「言い過ぎましたね」

「貴様ほど優秀な副官が他にいるか」

「隊長……」

「私は剣を振ることしかできない。戦い方を考えるのは貴様の仕事だ。頼りにしているぞ」


 ペルスは知っていた。

 リーダーに必要なのは、剣技でも、頭脳でもないことを。

 リーダーに欠かせないのは求心力だ。

 部下が信頼し、命令とあらば死をも厭わない。

 それこそがリーダーに求められる資質だ。


 信頼を得るには、まず、相手を信頼しなければならない。

 人は信頼を向けられてこそ、それに応えようとするのだ。

 ペルスから信頼を示された副官は、あらためて「この人のために死のう」と決心した。


「それで、どうしますか? お茶を濁しても文句は言われませんが」


 義理を果たすための参戦。

 それが彼らに課された使命だ。


 サラクン側のトップに顔見せを済ませた以上、後はかたちだけでも戦う姿勢を見せればそれで十分だ。

 危地に飛び込んで、兵を損ねる必要はない。


「貴様はどう考える?」

「この戦いでサラクンは大いに弱体化するでしょう。我らの武威を示しておくことが、今後を考えると最良かと」

「じゃあ、いつも通りに暴れるとするか」


 二人は顔を見合わせて笑みを交わす。

 余裕を感じさせる笑みだった。


 二人は斜面を下っていく。

 副官は鋭い目つきで戦場を観察し、どこに加わるかを考えていた。


 やがて二人は仲間たちと合流する。

 総勢17名。

 戦場の規模に対して、その数はあまりにも少ない。


 だが、彼らはディン騎士団が誇る精鋭。

 誰もが、臆することなく、闘志をみなぎらせていた。


 今回は騎馬は連れていない。

 だが、馬上でなくても、彼らは強い。


「出番だ。ひと暴れするぞ」


 ペルスの言葉に、鬨の声が上がる。

 先頭を駈け出した彼女に、16人も後を続いた――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 一方、ペルスと副官が出た後の天幕内では――。


「あはははは」


 天幕内にヒダントの哄笑が響き渡る。

 彼は腹を抱えて笑っていた。


「戦局は? ねえ、戦局は?」


 フェニルを指指して小馬鹿にする。

 フェニルは耐え切れず、腕を振り上げる。


 だが――そこでなんとか思い留まった。

 今は、まだ、殴れない。


「どうしたの? 殴るの? 殴らないの?」


 煽るだけ煽ってから、ヒダントは笑いを収め、真剣な顔つきになる。


「相変わらず非論理的ですね。ここで私を殴ってもなにも変わらない。いえ、むしろ、状況は悪化するだけです。私がへそを曲げたらどうなるか、わかっていますか? 身体を動かす前に、脳みそを動かしてくださいよ」


 フェニルは黙り込むしかなかった。

 ヒダントの言う通りだったからだ。


「いい加減、ビビってないで落ち着いて下さい。援軍も来たし、騎士たちも頑張っている。もちろん、我が魔技師団も素晴らしい活躍を果たしています」


 ヒダントの言葉には感情がなかった。

 研究報告を述べるのと同じ平坦さだった。


「アレの到着まで後一時間もないですよ。それまで粘れば――」


 ヒダントはフェニルを見つめたまま、口元を緩める。


「――我々の勝ちですよ」


 彼らは勘違いをしていた。

 魔眼のバロルの存在に気づいていなかったからだ。


 高台に儲けられた本営。

 この位置からならば、バロルの頭部が見えるはずだ。

 それなのに、誰もそれを見たものはいない。

 コイツらに顔を見せる必要ない――バロルがそう考えたのかどうかはわからない。

 いずれにしろ、本営の人間も、街道沿いで戦う騎士たちもバロルの姿は見えなかった。


 それゆえ、勘違いした。

 変異種オーガたちを倒せば、戦いが終わると――。

次回――『森を駆ける』


ロイル視点に戻ります。


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