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079 突入、ウルドの森

「こっ、これが師匠のフル詠唱……」

「やっぱりロイルは規格外ね」

「初めて聞く詠唱だわ」

「美しい」

「なんかわかんねーけど、すげえな、おい」

「はっはっは、これなら心配無用じゃな」


 皆、俺の魔法に見入っている。

 その顔を見て、俺は気づいた。

 詠唱の重要性に。


 たしかに、詠唱しても魔法の威力は変わらない。

 カッコいいだけ――今まではそう思っていた。


 だけど、詠唱にはちゃんと効果があったのだ。

 それも、ふたつも。


 ひとつめは俺に関するものだ。

 人前で詠唱するとテンションが上がる。爆上げだ。

 まるで、自分が物語の主人公であると錯覚する。

 なんでもできるという全能感が湧き上がる。


 ――詠唱は俺に強い意志を与えてくれるんだ。


 たとえ、相手が古き神々のひとりであろうと、俺は戦えるっ!


 そして、詠唱の効果はもうひとつあった。

 それは仲間への影響だ。

 その反応からも分かるように、彼らは俺を、俺の詠唱を、信頼してくれている。


 ――俺の詠唱魔法があればなんとかなると、信じてくれている。


 彼らは俺を信じ、自分たち本来の実力を出しきってくれるだろう。

 俺の詠唱は仲間を奮い立たせる力があるんだ。


 今まで睡眠時間を削って、詠唱を考え続けてきた数年間。

 それはムダではなかったんだ。


 最初は不安を浮かべていたが、今ではみんな確信してくれた。

 【絶対不可侵オムニノ・ノモレスト・遷移空間(トランジ・ロゥクス)】があれば、森に突っ込んでも問題ないと。


「おら、行けっ、突っ込めっ!」


 ヴォルクが前を見て吠える。

 みんなも同じように前だけを見る。


 はるか高みより見下ろす古き神々のひとり――魔眼のバロル。

 バロルに動きはない。

 不気味な笑みをたたえて、俺たちを見下ろしたままだ。


 余裕なのか?

 なにも考えていないのか?


 化け物の思いは理解できない。

 理解できるとも思わない。


 相手がなんであれ、関係ない。

 人々を脅かす相手は倒すだけ。

 理由はそれだけで十分。

 後は報酬さえあれば、文句なし。


 それが、冒険者だ――。


 魔動車は勢いを緩めない。

 むしろ、加速していく。


 進路には二体の黒いオーガ。

 人間の倍以上もある巨体だが、バロルを見た後だと大してデカく感じられない。


 オーガのすぐそばには息絶えた騎士が数人。

 オーガの持つ大剣は血に染まっている。


 俺たちを次なる獲物と見定めたのか、大剣を振り上げ、顔を歪ませる。


 だが、残念。

 オマエらはここで終わりだ。


「い、け」


 俺の思いを乗せて、魔動車が加速する。

 限界ギリギリの速度のようだ、車体がギシギシと軋む。

 オーガとの距離が見る見るうちに縮まっていく。


 オーガと目が合う。

 信じられないものをみるように、その目は大きく見開かれていた。


 オーガの大剣が振り下ろされる前に――。


 黄金色の魔障壁はオーガと衝突。

 大きな衝突音とともに、二体は宙高く舞った。


 多少の振動はあったが、障壁も魔動車もまったくの無傷。

 ほとんど速度を落とさずに前進を続ける。

 後ろを振り向くと、バラバラになったオーガの死体が飛び散っていた。


 魔動車はその勢いで森に突っ込む。

 バキバキと木々を倒しながら、速度を緩めず突進する。

 障壁に守られた魔動車にはダメージひとつ通らない。


「すげえな、おい……」

「さすがです、師匠っ!」

「相変わらず、規格外ね」


 褒められてテンションが上がるが、俺は調子に乗らない。

 調子に乗ると失敗するのはテンプレだから。


 チートな主人公があり得ない油断をして格下のモンスターに苦戦する話をいくつも読んできた。

 話を盛り上げるためなんだろうが、「いくらなんでもそれはないだろ」とツッコミを入れたことも数知れず。


 ましてや、相手ははるか格上。

 少しも気を抜くことはできなかった――。

次回――『サラクン12:騎士団長フェニル』


明後日の投稿です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今から大魔術行使しますよ感の重要性!
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