078 新魔法そのいち
「よしっ、ロイル、やっちゃえ」
「う、ん」
ヴォルクの立てた親指に、俺はうなずいた。
あらためて、【世界を覆う見えざる手】で森の中を注意深く調べる。
うん、これなら大丈夫そうだ。
「ちょ、っと……右」
「右?」
「魔動車……ちょ、っと……右」
ヴォルクには口下手な俺の言葉が届かない。
そこをディズがフォローしてくれた。
「魔動車の進路を右にずらしてっ」
「ああ、そういうことか。頼むぜ、騎士さん」
御者はハンドルを操作し、進路を変更する。
「これでいいか?」
「もう、すこし…………右」
「こんなものか?」
「う、ん」
森の中では冒険者と騎士がモンスターと戦闘を繰り広げている。
だが、この進路であれば、冒険者を巻き込むことなく中心部に到達できる。
安全が確認できたところで――。
森に到達するまで後一分くらいか。
それなら、間に合う。
昨日の晩もさんざん練習したんだ。
後は――舌よ、ちゃんと回ってくれ!!!
魔の源よ。 万物の祖よ。
吾は汝に問う。
其は何れか?
其は何処か?
吾が軛から遁れし者よ。
其は何なりか?
質なりか?
粒なりか?
質なりて粒。
粒なりて質。
壱なりか?
全なりか?
壱にして全。
全にして壱。
有なりか?
無なりか?
有にして無。
無にして有。
二律背反。
両価相反。
其を顕す言は存ぜず。
其を述べる名は存ぜず。
然れども、敢えて、吾は命ず――。
堅固。
固持。
結合。
連結。
流動。
不動。
吸収。
発散。
其が在る可き姿也――。
『――【絶対不可侵遷移空間】』
よし、噛まなかった!
ちゃんと、間に合った!
伝説の魔術師になったような達成感に全身が包まれる。
身体が燃えるように熱い。
俺は今、最高にカッコいい。
余韻に浸っていた俺だが、あることに思い至り、後悔の念に襲われる。
――ああ、今の姿をディズにタブレットで録画しておいてもらえばよかった……。
今のは間違いなく、俺の人生で一番カッコいい場面だった。
録画できてたなら、夜ベッドの中で繰り返し再生してニヤニヤできたのに……。
だが、後悔しても、時既に遅しだ。
気持ちを切り替えないとな。
本番はこの後だ。
魔法の発動と同時に、黄金色の膜が魔動車を包む。
この魔法はいかなる衝撃も弾き返す【絶対不可侵隔絶空間】の改良版。
先日のトレーニング中に生み出した魔法のひとつだ。
鉄壁の守護を誇る【絶対不可侵隔絶空間】だが、ふたつ欠点があった。
ひとつめは、俺を対象にしかできないこと。
そして、もうひとつは激しく動くと解除されてしまうことだ。
そもそも、身動きしてはならない門番中にヤブ蚊の侵入を拒むために作られた魔法だ。
だから、他の人にかけたり、動いたりすることは想定していなかった。
このふたつの欠点を克服したのが【絶対不可侵遷移空間】だ。
俺以外の誰でも、魔動車のような物体でも、魔障壁で覆うことができ、動き回っても魔障壁は壊れない。
これなら、森の木々をぶち倒しながら、最短距離で到達可能だっ!
次回――『突入、ウルドの森』




