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076 異変の正体

 魔動車は進んで行くが、中心部は依然として探知できない。

 そのことは御者をしている騎士を通じて、リーダーのペルスにも伝えてある。

 ペルスからは「情報提供、感謝する。引き続き警戒にあたって欲しい」との返事があった。

 通信用の魔道具越しに聞こえるその声に、怯えや動揺は少しもなかった。


 そして、ウルドの森まであと少しというところで――。


「なっ、なんだよ、アレ?」


 先頭で前方を監視していたヴォルクが驚きの顔を見せる。

 物怖じしなさそうな彼の顔は、だが、驚愕に染まっていた。


 ヴォルクの言葉にみなが、森の方へ向き――言葉を失う。


 木々の天井を突き破るようにして、巨大ななにかが浮かび上がった。


 ――顔だ。


 巨大な顔だ。

 遠近感が狂うほどの大きな顔だった。


 高い森の木々の上からぬっと飛び出た大きな顔。

 その顔がこちらを向く。

 まるで俺たちに気づいているかのように、顔をほころばす。


 不気味な笑顔だった。

 初めて目にするたぐいの、冒涜的な笑みだった。

 魂を鷲掴みにされるような、根源的な恐怖。

 俺だけでなく、全員が同じ思いを共有していた。


 長い長い沈黙の後――最初に口を開いたのはディズだった。


「魔眼のバロル…………」


 口からこぼれ出た小さなつぶやきにサンディが反応する。


「あれが……バロル。たしかに、本に書かれていた姿です」


 ギラリと光る虹色の両眼。

 そして、額の中央にある閉じられたもうひとつの目。


「おい、知ってるのか?」


 ヴォルクがなにかに追われるように尋ねる。


「ええ。見るのは初めてよ。でも、間違いないわ。アレは古き神々のひとり――魔眼のバロルよ」


 古き神々。

 我々人類が生まれる前、この世界を支配していたと言われる伝説上の生き物だ。

 物語では強敵として度々登場するが、まさか、本当に存在したとは……。

 勇者や魔王と同じく作り話フィクションの存在だとばかり思っていた。


「古き神々……」

「ヤバいのう……」

「どうやって倒せって言うんだよ……」

「ムリムリ、絶対にムリよっ」


 歴戦の強者である『紅の牙』が怯えを見せる。

 サンディも歯をカチカチと鳴らして震えている。

 前を見ると、先行する魔動車に乗っている騎士たちも完全に萎縮していた。

 だが、ディズは――親の敵でも見るように、バロルを睨みつける。


 生理的な恐怖感に突き動かされ、俺は右手を突き出す。


『――【すべてを穿つ(オムニス・カウウス)】』


 考えるより先に身体が動いた。

 気がついたのは、撃ち終わった後だった。


 全力で放たれた魔力弾がバロルの額に向かって飛んでいき――見えない壁に衝突して、大きな音をたてて消滅する。


 その音と衝撃がここまで伝わってくる。

 それほどの威力だったのに、届く前に無効化されてしまった。

 【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】と同じだ。


 ――あの障壁の中に入らないとダメだな。


 全員の視線はバロルに釘づけだ。

 動きを忘れたかのように、固まっている。


 硬直を打ち破ったのは通信魔道具から漏れるペルスの声だった――。


「あの巨人。正直言って、我々には手に余る。それでも、我々は誇り高き騎士である。主の命である以上、何者が相手でもこの身を賭して立ち向かう。命を散らすことが確定していても、それは変わりがない――」


 怯えのない真剣さが伝わってくる。


「――だが、貴方たち冒険者は別だ。ここで降りても誰も文句は言わない。貴方たちが無駄に命を散らす必要はない」


 ヴォルクが真っ先に動いた。

 立ち上がって一堂を見渡す。

 目が合ったので、俺も強くうなずいた。


 それを見届けたヴォルクは、御者から通信用魔道具をひったくる。


「ケッ、舐めんなよッ。一度でも芋引いたら、冒険者は終わりだッ。俺たちだって、いつでも命張ってんだよッ。他人からすればくだらない意地かもしれねえが、それを失くしたらゴロツキと変わんねえんだよッ」


 そうだそうだ、と『紅の牙』のメンバーたちはヴォルクに同意する。


「森の中での戦いは俺たちの方が慣れている。騎士たちは街道のザコどもを狩ってくれ。アイツは俺たちに任せろッ!」


 冒険者はバカばっかりだ。

 下らない矜持のために命を賭ける。

 でも、俺もその一員であることが誇らしかった。

次回――『接近、ウルドの森』


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