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075 団結

 魔動車が近づくにつれ、【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】が森の内部を少しずつ明らかにしていく。


 森の周辺部では、騎士と冒険者がモンスターと戦っている。

 相手はオーガ、ゴブリン、オークといった亜人型モンスター。

 そのほとんどが変異種で、通常種よりも強い個体だ。

 それゆえ、数で勝る人間側もなかなか押し切れずにいる状態だ。


 もう少し内部に入ると、そこには人間はいない。

 まだ、そこまで到達できていないのだ。

 それだけではなく、モンスターも一切いなかった。


 周辺部での激戦が嘘のように、森の内部はひっそりと穏やかだ。

 まるで、なにか不吉な前兆のように、静まり返っていた。


 そして、いよいよ、中心部に探知の網が届こうというところで――。


「あっ…………」

「どうした?」

「どうしたの?」

「師匠、どうしました?」


 皆の視線が集中する。


「見えなく……なった」

「なんだとっ!?」


 まるで見えない壁にでもぶつかったかのように、魔力網が弾き返された。

 探知できたのは森の中心部から1キロメートルほどの場所まで。

 それより内部は探れなかった。

 魔動車が森に近づいても、それは変わらない。


――こんなことは初めてだ。


 俺の中で動揺が大きく膨らんでいく。

 それは他のみんなにも伝染したようだ。


「ロイルでもダメなの?」

「師匠!?」


 とくに俺の魔力をよく知っているディズやサンディはそれが顕著だった。


 俺は首を大きく振ってから、口を開く。

 たどたどしい口調で、現状を説明していった――。


「――なるほど。そりゃあ、大物だな」

「気合が入るのう」

「本気出さないといけないようね」

「吾輩も全力で望もう」


 最初こそ動揺していたものの、『紅の牙』のみんなはすぐに気持ちを切り替えている。

 やはり、Aランクバーティーというのはだてではない。

 今までにも、何度も死線をくぐり抜けてきたのだろう。

 魔動車内の空気がピンと張り詰めるほど、彼らの戦意は鋭かった。


「師匠の魔法なら、どんな相手でも大丈夫ですよ! 不肖ながら、わたくしサンディもサポートしますからっ!」


 サンディが上目遣いで見つめる。


「ロイルがいるから大丈夫よ。無詠唱でもあれだけスゴいんだから、フルに詠唱したらもっとスゴいんでしょ? 詠唱の時間は稼ぐから、どデカいのぶっ放してよっ!」


 ディズは一点の曇りもない笑顔だ。


「ああ、そうだな。このパーティーの主砲はロイルだ。俺たちで詠唱時間は稼いでやる」

「楽しみじゃのう」

「ロイル様の全力魔法……」

「吾輩も見たいである」

「師匠の本気……」


 今、この瞬間。

 俺たちはひとつにまとまった。


 サンディや『紅の牙』とは知り会ったばかりだし、ディズと組んでからもまだまだ日は浅い。

 それでも、長年ともに戦ってきたような連帯感が芽生えた。


 そのことに、心の底から嬉しくなる。

 だが、ひとつ。

 彼らは大きな誤解をしている。

 俺のことを過大評価してるのだ。


 普通の魔法使いであれば、強い魔法ほど長い詠唱を必要とする。

 俺が彼らに魔法を見せたときは、ほとんど詠唱をしていない。


 だから、俺がまだ本気を出していない――彼らはそう判断したのだろう。


 ――しかし、それは大きな過ちだ。


 そもそも、俺の魔法は詠唱を必要としない。

 俺にとって詠唱とは、カッコよく見せるためだけのものだ。


 彼らの期待に応えられるだろうか……。

次回――『異変の正体』


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