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074 魔動車の中(下)

 少しずつ、少しずつ。

 じれるように魔動車は進んで行く。


 今の俺にはなにもできない。

 脳内に浮かぶ【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】の探知結果を眺めるだけ。


 そして――。


 またひとつ青い点が――消えた。


 脳内に浮かぶ地図。

 赤い点はモンスターを。

 青い点は騎士を表している。


 赤い点も消えていくが、それよりも速いペースで青い点は消えていく。

 その度に、騎士の命がひとつ失われる。


 騎士団にいい思い出はない。

 嫌がらせをされたり、無視されたり。


 だが、ヤツらが死んで嬉しいかといえば、そうとも思えない。

 悲しいとは思わないが、嬉しいとも思わない。


 ただ、ゲララは別だ。

 脳内にアイツの薄笑いが浮かび、気分が悪くなる。


 アイツだけは絶対に許せない。

 オーガに喰われて死ねばいい。


 しかし、俺が恨んでいるのは関わりのあった一部の騎士だけ。

 ほとんどは俺と接点がない人間だ。


 彼らが死んでいくのを黙って見ているしかない状況というのは……あまり、いい気分ではない。


 魔動車が近づくにつれ、森の内部でなにが起こっているか、少しずつ明らかになっていく。


「森……中……戦って、る」


 街道ではモンスターと騎士が一進一退の攻防を続けている。

 それとは別の部隊だろうか、数十人の人間が森の中に攻め込んでいた。


「まあ、大元を絶たないと終わんねえからな」

「騎士に森の中での戦いが務まるかのう」

「アイツらビビッて、森には入んねえからな」

「よっぽどの事態のようね」


 『紅の牙』の面々の言う通りだ。

 騎士が得意とするのは遮蔽物のない平地での集団戦。

 複数人で相手を取り囲み、コンビネーションで倒すのが基本的な戦い方だ。

 森の中や洞窟など入り組んだ場所での戦闘は、少人数で小回りの利く冒険者の方が得意。


 そういう住み分けができている。

 そして、今回もその通りに――。


「…………騎士だけ……じゃない」

「なんじゃとっ!?」

「冒険者も戦ってるのか?」

「う、ん」

「チッ。騎士どもが死のうが知ったこっちゃねえが、そりゃあ聞き捨てならねえな」

「冒険者と共闘か」

「よっぽどのようだな」


 騎士団が冒険者に依頼することはあっても、共闘することはまれだ。

 お互い自分たちの方が上だと思っているし、戦闘スタイルも異なる。


 ――冒険者はモンスター素材を漁るハイエナ。治安を守る誇り高き騎士と違って下賤な者。


 それがサラクン騎士団での常識だった。


 だから、俺はメルキに来て驚いた。

 メルキの騎士は、そんな差別意識を持っていなかった。

 フローラを護衛していた騎士も、今回のまとめ役ペルスも、同行する騎士たちも、俺たちに敬意を払ってくれる。

 それが俺にとっては信じられないほどの衝撃だった。


「冒険者の命がかかってるんなら、ボヤボヤしてらんねえな。くそっ。歯がゆいぜ」


 ヴォルクは森の方角を睨んだままだ。

 冒険者は仲間意識が強い。

 それはサラクンもメルキも変わらなかった。


「それで、状況はどうなってる?」

「浅いとこ、ろ……で……戦ってる。奥には……いない」

「中心部はどうだ?」

「まだ……届か、ない。あと……5分……くらい」


 今回の異変の発生源は森の中心部だと思われる。

 そこはまだ、俺の探知範囲外。

 俺の魔力が届くには、もう少し近づく必要がある。


 その時間は遠く遠く――引き伸ばされるように長かった。

次回――『団結』


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