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072 サラクン11:出動(下)

 語気を強められた二度目の勧告に、ゲララは顔を上げる。

 その首元には師団長の剣が突きつけられていた。


「ひっ!」

「覚悟せよ」


 剣が喉をチクリと刺し、血が一筋流れ落ちる。

 死を悟る。

 ゲララは恐怖に目を閉じた。


 剣が引かれ、さっとひと振り。

 はらりと落ちたのはゲララの首――ではなく、肩にあるマントの留め金だった。


「――と言いたいところだが、今は一兵でも惜しい」


 ゲララはキツく閉じられていた目を開く。

 まだ繋がっている首に安堵しながら。


 だが、中隊長の証である留金――それが落とされた意味を悟り、次の言葉に再度、絶望に落とされた。


「降格だ。貴様は突撃隊に配属。この戦いで、汚名を返上してみせよ」

「そっ、そんな……」


 両手を地につけ、ゲララはうなだれる。

 突撃隊は真っ先に敵に突っ込む部隊。

 ゲララにとっては死刑宣告が延期されただけであった。


「こいつを連れて行け」


 ゲララは両脇を抱えられ、連れて行かれる。


「ふんっ、卑怯者め」


 師団長はそれきり、ゲララのことは頭から振り払った。

 今はそれどころではない。

 これからの激戦のことで頭がいっぱいだった。


 北方師団は前進を続ける――。


 駐屯地に到着した師団を待ち受けていたのはおぞましい惨状だった。


 騎士側は全滅――。


 駐屯小屋や無数の天幕は、ただの残骸と化しており。

 金属鎧フルプレートは紙のように引きちぎられ。

 騎士や騎馬の死体は玩具のようにバラバラに解体され。


 死肉を喰らう黒いオーガたち――。


 その光景は、騎士たちに強い衝撃を与えた。


 呻く者。

 震える者。

 怒りを燃やす者。


「総員、戦闘体勢ッ!」


 師団長の言葉が引き金となり、騎士たちを立ち直らせる。

 長槍ランスを構え、手綱を握る手には力が入る。


魔銃マガン隊、一斉掃射」


 合図の声とともに、魔銃マガンが火を吹く。


 「総員、突撃用意! 突撃隊に続けッ!」


 騎乗した騎士たちがオーガに向けて駆け出す。

 その先頭を走る一団の中に、ゲララの姿もあった。


 変異種のオーガとは言え、その数は10数体。

 騎士団三百名の前には、どうということはない。

 騎士たちには、それだけの余裕があった。


 突撃隊三十名は途中で分かれ、三人一組となってオーガに向かっていく。

 彼らは歴戦の猛者。

 今までに何度も死線をくぐり抜けてきた。

 臆することなく、自分の役割を果たす。

 それだけの覚悟と強さを兼ね揃えていた。


 ただ一人を除いて――。


 覚悟も決まらずに戦場に放り込まれたゲララ。

 騎馬はそれを待ってくれずにひた走る。

 騎乗して戦うのはいつぶりだろうか。

 それを思い出すのが困難なほど、ゲララは実戦を離れて久しい。


 流されるまま最前線に押し出され、たどたどしい手付きでランスを構えたところに、オーガが進路上に立ちふさがる。

 身長三メートルを超えるオーガの巨体は、馬に乗っていてもまだ高い。

 血走った目で見下され、ゲララは硬直する。


 頭上にきらめく鈍い銀色――。


 思い出されるのは、騎士団に入団した日のこと。

 輝かしく、使命に燃えていたあの日。

 民を救う騎士にならんと――。


 どうして、こうなってしまったのか?

 どこで道を踏み外してしまったのか?


 その答えにたどり着く前に――。


 振り下ろされたオーガの大剣が、馬もろともゲララの身体を左右まっぷたつに斬り裂いた。


 血みどろの消耗戦は始まったばかりだ――。

次回――『魔動車の中(上)』


ロイル視点に戻ります。

明後日投稿です。


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