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071 サラクン10:出動(上)

 ――サラクンの街、騎士団本部。


 ウルドの森に設置されたヒダント砲は、ヒューズ交換によって再起動した。

 動作を再開して最初に行った仕事は、森のモンスターを探知し、その位置と数をサラクンの街にある騎士団本部へ報告したことだった。


 かつてないほどのモンスターの大量出現。

 通常のスタンピードなど比にならないほどだ。


 この報告に騎士団本部は上を下への大騒ぎとなった。

 救いだったのは、出動体勢が整っていたことだ。

 騎士団長エドマン・フェニルの臆病さが、助けとなった。


 二日前、森の異変を告げる第一報を受けた団長フェニルは妙な胸騒ぎを感じた。

 周囲は誤報かなんかだろうと、気にも留めていない中、フェニルだけは深刻にとらえていた。


 まだ団長に就任したばかり。

 彼を嫌う者も多い。

 ここで失策を犯せば、自分の立場は危うい。


 出兵こそ謹んだものの、念の為に騎士の大部分をサラクンに集結させ、なにかあればすぐにでも出動できるよう備えていたのだ。


 そして、報告を受けたフェニルは、一も二もなく、即時出動を命じたのだ。


 第一陣は北方師団三百騎。

 土地勘のある彼らが選ばれたのは必然だろう。


 森からあふれたモンスターたちは街道に出て、近隣の街に被害を及ぼすかもしれない。

 それだけではなく、ここサラクンを脅かす可能性も――。


 先行して時間を稼ぎ、本隊の到着まで保たせるのが北方師団に課された仕事だ。


 命を受けた北方師団はすぐさま陣容を整え、サラクンを出発した。

 騎兵だけで構成された部隊だ。

 馬を飛ばせば、二時間もかからずに現場に到着できる。


 北方師団長の指揮下、三百騎はウルドの森を目指した駆けて行く――。


 ウルドの森へ向かう途中、師団長の元に伝令から報告が入る。


「師団長、斥候より報告です」

「述べよ」

「ウルドの森方面より、騎馬が一騎、こちらに向けて接近中。第5中隊長のゲララのようです」

「ゲララだと?」

「はい」


 師団長は少し考えてから、伝達兵に伝える。


「下馬させて、その場に待機させろ。決して逃がすなよ」

「はっ、承知いたしました」


 北方師団の騎馬軍団は北進を続ける。

 しばらく行くと、伝令の通り、街道脇にゲララが立っていた。

 左右を騎士に挟まれ、逃亡する余地はない。

 兜を外したその顔は憔悴に染まっていた。


「ゲララ中隊長、ここでなにをしているのかね?」


 師団長は馬上からゲララを見下ろす。


「しっ、師団長。ウルドの森でモンスターが大量発生しました。私はそれを報告するために参りました」

「報告は届いておる。伝令は必要ないはずだが?」

「いっ、いえ。かつてない未曾有の事態。その窮状を伝えるには、通信による報告では不十分と思った次第です」

「ほう、窮状か。言ってみろ」

「はっ。駐屯地に変異種のオーガが一体出現。なんとか、撃退しましたが、続けて3体出現。どれも変異種でした。とても、我らでは防ぎきれません。一刻も早く、救援を」

「それはヒダント砲からの通信で知っておる。それ以上、そなたは、なにを伝えるつもりなのか?」

「そっ、そのっ、オーガはとてつもなく強いんですっ。ヒダント砲でも二発撃たないと斃せませんでした」

「それは知っておる。それで?」

「いっ、いやっ、そっ、そのっ…………」


 師団長のギラリと睨みつける視線に、ゲララは口ごもる。


「そもそも、伝令であれば、そなたが努める必要はなかろう。部下に伝えさせればいいのではないかね?」

「えっ、あのっ、そっ、それはっ……そっ、そうです。大切な役目なので部下には務まらないと判断しました。上官である私自らではないと、師団長殿にちゃんと伝わらないかと思いまして。確実に伝えるために、私がやってきたのです」

「…………」

「うっ……」

「それでなにを伝えてくれるんだ? まだ、なにも()()()話は聞いていないが?」


 ゲララは口は閉ざされたまま。

 なにかしゃべらなければならない。

 それはわかっているのだが、なにも浮かばない。

 それもそのはず、それ以上の情報など持っていないからだ。


「要するに、貴様は逃げてきたのだな。必死に戦う部下たちを見捨てて」

「いえっ、ちっ、違います」


 ゲララはや汗を流して、しどろもどろになる。

 そこに師団長が一喝する。


「なにが違うのかッ! この臆病者めッ!」

「ひっ……」


 師団長の威圧に、ゲララは尻もちをつく。


「現場の最高責任者が敵前逃亡とはな。軍規に従って斬首刑だ」

「どっ、どうかっ、お助けをっ!!」


 ゲララは地面に頭をこすりつけ、なりふり構わずの命乞い。

 金属鎧フルプレートが土にまみれるが、それを気にする余裕はなかった。


 師団長の指摘の通り、ゲララは報告のために来たのではない。

 恐怖のあまり、部下たちを捨てて、逃げ出しただけだ。

 その結果がどうなるかなど、考える余裕もなく。


 そして、その結果のもたらす意味を知ったときには、すでにすべてが終わっていた。


おもてを上げよ」

「ご容赦を、ご容赦を」

「面を上げよ」


 語気を強められた二度目の勧告に、ゲララは顔を上げる。

 その首元には師団長の剣が突きつけられていた。


「ひっ!」

「覚悟せよ」

次回――『サラクン11:出動(下)』


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― 新着の感想 ―
いやいやいや、誰がこんな威張り散らしてるだけの無能で、 戦えもしない奴を中隊長や現場の最高責任者にしたんだよ いくら年季があっても普段の行動見てりゃ無能って判るだろ こんなゴミを管理職にした上の人間も…
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