069 サラクン8:変異種オーガ(上)
――黒いオーガが駐屯地に迫る。
人型モンスターではあるが、頭部に毛髪はなく、代わりに二本のツノが飛び出ている。
通常種のオーガでさえ、3メートルを超える巨体だが、コイツはそれよりひと回り大きい。
離れた駐屯地からでもその大きさがわかるほどだった。
そして、なによりも違うのが肌の色。
通常種は緑がかった茶色なのだが、コイツは全身黒光りしている。
間違いなく、変異種――通常種よりはるかに強い個体だ
ボロ布を腰にまとったままの原始的な姿の巨鬼が、鋼の大剣を持って、砂埃を上げながら、急接近してくる。
騎士たちはいまだ混乱から回復していない。
最初に動いたのは訓練された騎士ではなく、魔道具だった。
ヒダント砲はオーガの接近を感知すると、砲口をオーガに向ける。
「どけっ、撃つぞッ! 道を開けろッ!」
気づいた騎士が大声を上げる。
騎士たちは慌てて左右に分かれる。
眼鏡の魔技師が言った通り、ヒダント砲は問題なく動作した。
砲口から狙いを違わず、オーガに向けて巨大な魔力弾が放たれる。
――魔力弾が右胸部に直撃し、オーガは後ろ向きに転倒する。
「やっ、やったか?」
騎士たちが固唾を呑む中、オーガは重い巨体を引きずるようにた立ち上がった。
オーガは天を仰ぎ、咆哮する。
空気の振動が駐屯地まで届き、騎士たちの肌を痺れさせる。
「うっ、嘘だろ?」
「まじか……」
「しっ、死んでないぞッ! 構えろっ!」
オーガの右肩付近には大きな穴が開いていた。
だが、倒すまでには至らなかった。
怒りにかられ、こちらに向かって駈け出した。
ヒダント砲が悪いわけではない。
設計通りに作動した。
ヒダント砲はCランク以下のモンスターを一撃で葬れるように設計されている。
オーガはCランクモンスター。
通常種のオーガなら、この一撃で終わりだったろう。
しかし、この黒い変異種はBランクか、それ以上だった。
それだけの話だ。
駆けるオーガは見る見るうちに近づいて来る――。
「魔銃、構えろッ!」
不在のゲララに代わって、副官が命ずる。
ヒダント砲は連射できない。
騎士たちで迎撃するしかないのだ。
各小隊に一人、計六人が最前に飛び出て、筒状の魔道具を構える。
魔銃という名の魔道具で、引き金を引くと魔力の弾を撃ち出す武器だ。
水平に構えられた魔銃の照準がオーガをとらえる。
「撃てッ!」
掛け声に合わせ、六丁が火を吹く。
デカい的なので、外しようがない。
ヒダント砲に比べ、圧倒的に小さいが、連続で発射される魔弾が雨あられとオーガに降り注ぐ。
六人はバテリ切れになるまで、魔弾を撃ち尽くす。
しかし――。
弾幕はオーガの動きを止めた。
だが、それだけだった。
オーガの怒りをかきたてただけで、たいしたダメージは与えていない。
弾幕が晴れると、オーガはよりいっそう怒りをあらわにする。
オーガはすぐそこまで迫っていた。
「ひっ……」
六人は魔銃を放り捨て、一歩下がる。
他の騎士たちもつられて、尻込みした。
「おいっ、なにしてるッ! どういうことだッ!」
サラクンへの連絡を終えたゲララが戻って来る。
騎士たちの視線の向こうを見て――。
次回――『変異種オーガ(下)』




