067 サラクン6:原因
「いやあ、やっぱり、どこも壊れてないよ?」
「なんだと?」
「いやあ、二回も言わせないでよ」
「じゃ、じゃあ、どうしてコイツは作動しなかったんだ」
「いやあ、『故障していないけど、作動しなかった』。これだけ情報があっても、正解にたどり着けないの?」
「クッ……知るかッ」
「いやあ、頭が悪いって大変だねえ。生きてて楽しい?」
憤慨するゲララを眼鏡は煽り続ける。
「いやあ、君の部下に同情するよ。こんな無能にアゴで使われるなんてね。僕だったら一日も耐えられないよ」
普段、威張っているゲララが一方的にやり込められ、部下たちには吹き出しそうになるのを必死に堪えていた。
「いやあ、雑務から開放されて気分がいいから、無能な君にもわかるように説明してあげるよ。あっ、でも、僕、ゴブリンに説明したことないから、上手くできるかな」
「なんだとッ! バカにするのもいい加減にしろッ!」
「いやあ、すぐに感情的になるところが、ゴブリンそっくりだよ。今から森に入って仲間に入れてもらえば?」
部下の何人かは堪えきれずに吹き出す。
ゲララが睨みつけると、部下たちは目をそらした。
「いやあ、やっぱり、人望ないみたいだねえ。君が無能だってちゃんとわかっているみたいだ。優秀な部下だねえ。代わってもらった方がいいんじゃない?」
ゲララは眼鏡も睨みつける。
「いやあ、そんなに怒らないでよ。ちゃんと説明してあげるからさあ。でも、二回は言わないからね」
眼鏡はもったいぶってから説明を続ける。
「いやあ、簡単に言うとね、計測許容量を越えた魔力波が発生したんだね」
「魔力波? それで壊れたのか?」
「いやあ、しっかりしてよ。故障してないって、さっき言ったでしょ? もう忘れちゃったの?」
「じゃあ、どうして作動しなかったんだッ!」
「いやあ、あまり強すぎる魔力を浴びるとヒダント砲自体が壊れちゃうからね。そうならないように、魔力センサーのヒューズが飛ぶように設計されてるんだよ。ほら、これ、わかる?」
眼鏡は取り外したヒューズを見せつける。
手のひらサイズのそれは、焼け焦げたように黒く変色して、いびつに変形している。
「そのヒューズが壊れたってことだろ? やっぱり故障じゃねえか」
「いやあ、…………。呆れてものも言えないねえ。ヒューズは壊れるのが仕事だよ? 本来の役目を果たしたってのに、故障とは酷い物言いだねえ」
「壊れたのと、故障したのと、なにが違うんだッ! どっちにしろ、作動してないじゃねえかッ!」
「いやあ…………」
眼鏡は両手を広げ、呆れたように天を仰ぐ。
「強い魔力波だかなんだか知らないが、それくらいで作動しなくなるんじゃ意味ねえ。どうして、対応できるように作らなかったんだッ!」
「いやあ、君、自分の言っている意味、理解してる?」
「なんだとぅ。使えないものを使えねえって言ってるだけだッ!」
「いやあ、どんなに強い魔力波でも対処できるセンサーなんて作れると思う? 本気で言ってる?」
「だが、実際、役に立ってねえだろッ!」
「いやあ、だって、今回の魔力波は通常じゃあ考えられない強さだよ? ヒューズが飛ぶのも当然だよ」
「どうして、そんな役立たずを作ったんだ。こっちは遊びじゃねえッ! ちゃんとしたものを作れッ!」
「いやあ、すごいね。バカげてるよ。『何人乗っても動く馬車を作れ』とか、『どんな大雨でも決壊しない堤防を作れ』ってのと同じくらいバカげてるよ」
眼鏡は蔑みの視線で続ける。
「いやあ、あのね、君のクレームは『馬車に百人乗ったら動かなくなった』って言うのと同じだよ。馬車は百人乗せて動くように設計されていない。それと同じで、ヒダント砲は設計通りに動作し、設計通りに動作を停止した。どこも故障していない」
「うるさいッ! 屁理屈こねるんじゃねえッ! そのヒューズとやらが壊れたのが原因だろッ! どうせ、そのヒューズが不良品だったんだろうがッ!」
「いやあ、そのセリフは聞き捨てならないねえ。このヒューズはヒダント砲を守るために壊れたんだよ?」
優しく慈しむようにヒューズを撫でながら、眼鏡は目つきを鋭くする。
「いやあ、許せないね。味方を逃がすために殿を務めて戦死した兵に向かって『死んだのはお前が弱いからだ』って言ってるのと同じだ。やっぱり、君は人の上に立つ人間じゃないよ」
「うるさいッ! うるさいッ! うるさいッ!」
ゲララの怒りは最高潮に達しており、大声で喚き立てる。
相手が部下だったら、とっくに殴り飛ばしているところだ。
「いやあ、やっぱり、ゴブリン未満だね。君に理解してもらおうと思った僕がバカだったよ。はあ、時間をムダにしちゃったなあ」
次回――『サラクン7:嚆矢』
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