061 こねこね講座(上)
なりゆきで始まってしまったこねこね講座。
初めての体験に俺もちょっとドキドキする。
みんなが俺に注目しているからなおさらだ。
駆ける魔動車が生み出す風が心地よい。
それなのに、俺の背中は汗ばんでいた。
俺は大きく息を吐いてから、右の手甲を外す。
直接触れ合った方が魔力は伝わりやすい。
少しでも成功確率を高めるためにだ。
気休めなのかもしれないが……。
「じゃ、あ……いく、よ」
「はいっ!」
外気に晒されて風の涼しさを感じる手。
その手ををサンディの小さな手に重ねる。
俺と同じく、いや、俺以上に緊張している。
「あっ……」
手が触れたその瞬間、サンディが短く声を上げ、びくっと肩を震わせる。
気が逸らされそうになるが、俺は続けた。
先ほどと同じように、手のひらから魔力の塊を作り出す。
俺とサンディの手の間に球状の魔力塊が出現した。
出力は下げ、サイズも小さくしてある。
これなら、サンディも大丈夫かな?
上手くいくといいな。
そう思いながら、ゆっくりと、ゆっくりと、手を上げていく。
魔力塊は俺の手を離れて、サンディの手の上に転がり落ちる。
「すごいっ……」
「転がし、て……み、て」
「はっ! はいっ!」
俺の指示に従ってサンディはうんうんと唸り始める。
だが、魔力塊はピクリとも動かない。
「うーん、だめですー」
額に汗を垂らし、サンディはつぶやく。
やっぱり……こうなるか。
一流魔法使いのサンディなら一発で上手くいくかも、と期待していたのだが……。
まあ、俺も出来るようになるまで数ヶ月かかったしな。
「あっ……」
サンディの声と同時に、魔力塊が弾けて霧散する。
「気に……しなく、て……いい」
「はい……」
「最初は……誰でも…………失敗……する」
「…………」
「サンディ……なら、……すぐ……できる…………」
初めてのダンジョン攻略で失敗続きだった俺を励ましてくれたディズの言葉を真似してみる。
その言葉はサンディに届いたようで、落ち込みかけていた彼女は顔を上げた。
「はいっ! がんばりますっ!」
だが、彼女のやる気とは裏腹に、何度か試してみたが、どれも同じ結果だった。
再び萎みかけた彼女を見て、俺は方針を変えることにした。
もしかすると、俺の魔力だから上手くいかないのかもしれない。
試したことはないが、なんとなく、自分の魔力でやる方が簡単そうに思える。
「サンディ……自分の……魔力で…………できる……?」
俺の問いかけにサンディはうつむいて首を左右に小さく振る。
その答えに俺はなんとなく原因がわかった気がする。
「もう、一度……手……貸して」
今度は、おずおずと差し出された右手。
自信なさげな手をギュッと握りしめる。
「あっ……」
か細い声が漏れた。
「――【世界を覆う見えざる手】」
彼女の手を握ったまま、探知魔法を発動させる。
普段は広範囲の索敵に使うのだが、今回は範囲を極小――彼女の全身を覆う程度まで絞り込む。
それによって、彼女の魔力の流れを細部まで感じ取れる。
目的を果たした俺はそっと、手を離す。
やはり――俺の予想は当たっていたようだ。
さっき言っていた彼女の言葉を思い出す。
――えーと……魔力を循環させることはできるのですが……。
よし、原因は把握した。
次回――『こねこね講座(中)』




