059 サンディ(下)
「師匠は誰から魔法を教わったんですか?」
「えっ…………じっ、自分で……」
「ええっ! ホントですかっ!?」
「う、ん」
「信じられないですっ!」
サンディは腰を浮かして、興奮気味に語り始めた――。
なんでも、サンディの話によれば、普通は誰かに師事して学ぶもの。
独学というのはあり得ないそうだ。
そもそも、魔法を使うには、魔道書と呼ばれる書物を理解する必要がある。
魔道書は魔力のこもった専用の紙に魔力インクで書かれている。
とても高額で入手は困難。師匠の魔道書を借りて勉強するしかないのだ。
しかも、魔道書は魔法語という特別な言語で書かれているので、まずは魔法語を習得しなければならない。
とても、独学でマスターできるものではないのだ。
「信じられないでしょ? でも、ホントみたいよ。なんか、何年もずっと魔力をこねていたら、こうなっちゃったんだって」
「魔力をこねる……ですか?」
「う、ん……だから…………教えられる……こと……ない」
俺の魔法はどれも魔力こねこねの応用だ。
火球を飛ばしたり、雷を落としたり、相手を氷漬けにしたり。
そういうカッコいい魔法は一切使えないのだ。
魔力量ではサンディに優っているが、魔法使いらしい詠唱やらなんやらはまったく教えられない。
むしろ、俺が教えてもらいたいくらいだ。
「師匠っ!」
「う、ん?」
「その魔力をこねるっていうの、私に教えてくださいっ!」
「教え……る?」
魔法をなにも知らない俺でもできたんだぞ?
なんでそんな初歩的なことを訊くんだろう?
「はいっ! お願いしますっ!」
「サンディは……でき、ない……の?」
「えーと……魔力を循環させることはできるのですが……。師匠のおっしゃる『こねる』というのがどういう意味なのか、わかりません……」
「…………」
「未熟でごめんなさい……。私なんか師匠の弟子にふさわしくないですよね……」
申し訳なさそうにサンディは眉を下げる。
今にも泣き出しそうな勢いに俺は慌てる。
「あっ、……いや……」
気まずい空気をなんとかしたいが、例のごとく、言葉が出てこない。
どうせ、上手く説明できないんだから、やって見せた方が早いかな。
一流魔法使いのサンディなら、その目で見ればすぐに理解するに違いない。
むしろ、「えっ、そんな簡単なことですか?」と落胆されるかもしれない。
そうなったらちょっと傷つく。
だけど、俺を師匠と仰ぐべきなんかではないと早々と悟ってもらった方が、お互いのためかもしれない。
そう思いながら、俺は可視化した魔力の塊を手のひらに乗せる。
「見て」
手のひらの魔力塊をゆっくりと、ころころ回転させる。
転がした雪玉が大きくなるように魔力塊も大きくなる。
手のひらをはみ出しそうなサイズになった。
そこで回転をストップ。
ひっぱったり、ちぢめたり。
粘土みたいにこねこねする。
「これ。…………できる?」
ある程度いじくったところで、こねこねを止める。
彼女の顔を見ると大きく目を見開いて固まってた。
あれ?
思っていたのと違う反応だ……。
「さん、でぃ?」
呼びかけてみるが、反応ナシ。
どうしようかと顔を上げると――。
こちらを凝視しているのはサンディだけではなかった。
『紅の牙』の面々も俺を見たまま、動きを止めている。
「おい、ルナール。おまえ、アレできるか?」
「でっ、できるわけないわよ……」
「なんじゃ、アレはいったい」
「ふむ…………」
あれ?
なんか……ちょっとヤバい空気だ。
この空気には……覚えがある。
実際に体験するのは始めてだ。
だけど、物語ではテンプレだ。
これは、いわゆる――。
「俺なんかやっちゃいました?」だ……。
次回――『俺なんかやっちゃいました?』




