058 サンディ(上)
『紅の牙』が別の話題に移ると、俺の左隣に座る彼女が話しかけてきた。
「私も師匠の過去が気になります。でも、詮索はしませんので、師匠がいいと思ったときに教えてくださいね」
サンディだ。
隣りに座っているのだが……。
距離が近い。
近すぎる。
ほぼ密着状態だ。
プレートアーマーにはばまれているから、感触は伝わってこない。
だが、それでも、心臓のドキドキが伝わってしまいそうで、落ち着けずにいた。
「あら、サンディちゃんもロイルのことが気になるかな?」
「はいっ! 師匠のことなら、なんでも知りたいですっ!」
そして、俺の右隣にはディズ。
サンディほどではないが、ディズもすぐ隣に座っている。
すなわち、今の俺は「両手に花」状態。
ちょっと前なら考えられない事態だし、「ひょっとして俺もついに、モテモテ主人公に?」と勘違いしたくなる。
でも、俺はよく知っている。
身のほどはわきまえている。
ディズは冒険者仲間として。
サンディは魔法師匠として。
俺を認めてくれてるだけだ。
ディズもサンディも、二人ともコミュ力が高い。
昨日のうちに、すっかりと仲良しになっていた。
コミュ力が高い人間は、他人との距離を縮めるのが上手く、他人を近い距離に入れることに抵抗がない。
だから、この状況は二人のコミュ力の高さゆえであり、決して、決して、俺がモテモテだからではない。
そこを勘違いして痛い目を見るほど――俺は若くない。
自分を戒める俺を挟んで、二人はまるで数年来の友人のように、気安く言葉を交わしている。
ディズいわく「悪い子じゃないし、あの件もあるから、仲良くしとこ」だそうだ。
そう。
ディズが言うように、サンディに関してはひとつ懸念事項があった。
彼女は俺がスタンピード消失の犯人だと知っている唯一の人物だ。
彼女の性格上、他人に言いふらしたりはしないとディズは言った。
たけど、そういう引け目があったので、
「弟子にしてくださいっ!」
とのお願いを断れず、つい、「うん」とうなずいてしまった。
そういうわけで、サンディは俺の弟子ということになった。
もちろん、例の件は口外しないようにとお願いしておいた。
元騎士だったことは教えなかった。
というか――。
「世を忍ぶ仮の姿なんですねっ!」
と勝手に勘違いしていた。
「師匠ほどのお方が世に知られていないのは、そうやってお隠れになっていたからなんですねっ! きっと、私ごときでは知り得ない深謀があるのでしょう!」
だそうだ……。
本当のことを言っても、納得してもらえなさそうだし、結局、黙っておくことにした。
出会ったときから思い込みの激しい子だとは思っていたが、やっぱりその通りだった。
彼女が悪い輩に騙されないか心配だ……。
とまあ、昨日はそこでお別れになったが、やはり、気になっていたんだろう。
『紅の牙』との会話が終わると、さっそく尋ねてきた。
「師匠は誰から魔法を教わったんですか?」
次回――『サンディ(下)』




