055 顔合わせ(下)
「でっ、大元はなんだよ?」
ガラップの説明が終わり、最初に口を開いたのは狼人のヴォルクだった。
「どうやら、通常のスタンピードとは様子が違うようだが、詳細は不明だ。ウルドの森でなにか起こったのは確かだが、森の中に入るのにも苦戦している状況だ」
「それは敵が強えのか? それとも、サラクンのヤツらがヘボいのか?」
ヴォルクの問いかけに、ガラップは女性騎士のペルスの方を向く。
「これは推測になるのだが――」
視線を向けられたペルスが慎重そうに口を開いた。
「サラクン騎士団は最近、大規模なリストラを行ったばかりだ」
「リストラだとっ?」
「ああ、騎士を減らし、その穴を魔道具で埋めたそうだ。その方が金がかからないからな。同じ騎士としては、正気の沙汰と思えないのだが、平和ボケしたサラクンならさもありなんだ」
「それで、俺たちにお鉢が回ってきたと。チッ、てめえのケツくらいてめえで拭きやがれってんだ。ったく、めんどくせえな」
「ただ、騎士団の弱体化だけとも思えんのだ。あの森で、きっとなにかが起こっている」
「へっ、そうかよ」
「どうだ? 降りるか?」
「あっ? 強え敵と戦えるんなら、文句はねえよ」
ヴォルクは鼻を鳴らす。
「他に質問は?」
ガラップの問いかけに、サンディが手を挙げる。
「なんだ?」
「依頼の達成基準が不明瞭です。具体的には、なにをすればいいのですか?」
それに答えるのはフローラ嬢だ。
「正直に言えば、要請に応えて人員を派遣し、ひと通りの仕事を果たしたとサラクン側にアピールすれば十分です。手は貸しますが、そもそも、これはサラクンの問題。あなた方が責を負う必要はありません」
「じゃあ、好き勝手に暴れていいんだな?」
「ええ。最低限、こちらの指示に従っていただければ。もちろん、サラクンを救った英雄になっていただいても構いませんよ」
強者の風格を漂わすヴォルク相手でも、フローラ嬢は対等に渡り合っていた。
「まだあるか?」
ガラップの言葉は宙ぶらりんになり――。
「では、解散。明朝6時に出発。準備を整えて南門前に集合だ。頼んだぞ」
ガラップ、モカさん、そして、フローラ嬢が退出する。
去り際にフローラ嬢が見せた笑顔は貴族令嬢のそれではなく、親しい友人に向けたものだった。
ディズは手を振って返したが、俺にそんなマネはできないので、軽くうなずいておいた。
次に立ち上がったのは騎士のペルスだった。
そのまま部屋を後にするかと思ったが、彼女は俺とサンディの前で立ち止まった。
「ロイル殿、ディズ殿」
呼びかけられ、俺とディズは立ち上がる。
「先日は、ウチの騎士へ助力いただき、感謝する」
ペルスは深々と頭を下げる。
フローラ嬢の馬車がハイオークに襲われた件だろう。
「あの者たちも優秀だが、そなたらの協力なしでは、無傷とはいかなかっただろう」
あのときは状況が把握できていなかったから、とっさに魔法を放った。
だが、フローラ嬢の護衛につくくらいだから、あの場にいた騎士たちはきっと優秀に違いない。
俺が横槍を入れなくても、問題なく対処できただろう。
それでも、「余計な手出しするな」ではなくて、しっかりと頭を下げてくれた。
生真面目な性格なのかも知れないが、サラクンの騎士たちとは大違いだ。
今も頭を下げたままのペルス。
なんて言葉をかけたらいいのか……。
「うぅ……あ、う」
「頭上げてっ。気にしなくていいよっ。お礼なら伯爵家からたんまりといただいたからねっ」
「そうか。その実力、此度の依頼でも、遺憾なく発揮してもらえることを期待している。よろしく頼むぞ」
そう言い残して、ペルスが退出しようとしたところで、声がかかる。
「へえ、なんか、面白そうな話してるじゃねえか。俺にも教えてくれよ」
ヴォルクさんが立ち上がり、こちらに歩み寄る。
「ああ、先日のことだ――」
ヴォルク相手にペルスが先日のあらましを伝える。
いつの間にか近寄ってきたサンディも興味津々といった様子で聞き入っていた。
「へえ、遠距離から魔法でハイオーク3体を瞬殺ねえ……。ふーん、それで今回の抜擢か。納得した。ただ――」
ヴォルクはディズの全身を舐めるように見てから、ディズの目を覗き込む。
「ディズだったか? お前さんにそんな魔法が使えるようには見えないが?」
「ええ、その通りだよっ。私は魔法はからっきし」
ディズは胸の前で両拳を打ち合わせ、武闘派であることをアピールする。
「じゃあ、いったいどういうことだ?」
ヴォルクの瞳が鋭く光る。
だが、ディズはそれを軽く流す。
「あははっ。信じれないと思うけど、魔法を使ったのは私じゃなくて、彼よ」
「はあっ!?」
機嫌をそこねた様子のヴォルクが俺を睨みつける。
「こいつがぁ? フザケたこと言ってると――」
「本当ですよ」
割り込んできたのはサンディだった。
キラキラした瞳で俺を見上げている。
「あっ?」
「ロイル師匠の魔法は天下一なのですっ!」
まるで自分の手柄のように、サンディは誇らしげだ。
フォローしてくれるのはありがたいが、「師匠」はやめてもらいたい。
この間、弟子入りは断ったはずなのに……。
「俺は魔法のことはよくわからん。サンディがそう言うなら、信じるしかないな。しかし、そんなに凄いのか、ロイルは?」
「ええ、もちろんです。この前のスタンピ――」
興奮してつばを飛ばすサンディだったが、マズいことを口走りそうになったので、慌てて彼女の口元を押さえた。
「ほう。サンディは嘘をつかないし、ミゲルを倒したって話も聞いたしな。ロイル、お前さんの腕前は疑わん。だが、実際どの程度なのか、この手で確かめてえ。ちっとつき合ってもらえるか?」
嬉々とした様子でヴォルクは提案する。
腕の中で暴れるサンディは期待の目で大きく頷いている。
ペルスも興味深そうな顔つきだ。
そして、ディズはというと――。
「おっけー。こっちもアンタたちの実力を知っておいきたいからねっ」
やる気満々だ。
うん。これじゃ、引き下がるわけにいかないな。
「わか……った」
「よしっ、裏庭に行くぞ」
結局、その後夕方まで模擬戦――と呼ぶにはハード過ぎたが――を行い、お互いの力や戦い方を確かめ合うことになった。
さあ、明日は朝早く出発だ!
次回――『派遣隊出発』
第3章完結です。
次回から第4章『決戦:ウルドの森』始まります。
次章が第1部最終章です。
クライマックスに向かって、盛り上がっていきます!
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