054 顔合わせ(上)
――午後1時前。
予定より少し早い時間にギルドを訪れると、二階にある部屋に案内された。
コの字型に並べられた3つの長机。
奥には4人が並んで座っている。
そのうち3人は既知の人物。
ギルドマスターのガラップ、とギルド職員のモカさん、そして、フローラ嬢だ。
4人目は、知らない女性。
青みがかった銀色の軽そうな金属鎧。
あの色はミスリルだろうか。
ガラップの話では、騎士も派遣するといっていた。
彼女が騎士のリーダーなんだろう。
責任感が強そうな女性だ。
そして、部屋にはもう一人いた。
魔法使いの格好をした女性。
先日、俺に弟子入り志願してきた女性――たしか、サンディという名前だったっけ。
彼女にはずいぶんと失礼な態度をとってしまった。
これを期にちゃんと謝罪したい。
そう思っているが、上手く話せるだろうか……。
「空いてるとこに座ってくれ。もう一人来るから、それまで待ってくれ」
右手にはサンディがひとり座っている。
俺たちは左手に座ることにした。
会話はなく、重苦しい空気だ。
俺はこういう雰囲気が苦手だ。
気まずいことこの上ない。
そして、さっきからサンディがちらちらとこちらに視線を向けてくる。
やっぱり、この前のことを気にしているんだろう。
怒っていないといいのだが……。
それに彼女は俺がスタンピードを全滅させたことを知っている唯一の人物だ。
ガラップは薄々感づいているようだが、それでも、見逃してくれた。
ここでサンディに話を蒸し返されないといいんだけど……。
約束の1時。
その1分前にドアが開いた。
「おう、来たぜ」
入ってきたのは赤毛の狼人。
チラリとこちらに視線を向けてから、サンディの隣に腰を下ろす。
「おう、サンディも一緒か」
「どうもです」
サンディが軽く頭を下げて応えると、狼人の男がガラップに向かってぼやく。
「ったく、森の調査が終わったばかりだってのに、いきなり呼び出しかよっ。でっ、コイツらが例の二人組か?」
「ああ、そうだ。まずは紹介から始めるぞ」
狼人の男は品定めするような視線を向けてくる。
「この二人は『アルテラ・ヴィタ』のロイルとディズ。Cランクになったばかりだが、実力はそれ以上、お前たちにも引けを取らないと思っている」
「へえ、『アルテラ・ヴィタ』か」
「よろしくね〜」
「よろ、しく」
『アルテラ・ヴィタ』――「新しく人生をやり直す」という意味を込めた俺たちのパーティー名だ。
まだ、馴染んでいないが、そのうち、慣れていくだろう。
「それで、このうるさいのがヴォルク。Aランクパーティー『紅の牙』のリーダーだ」
「一言余計なんだよっ」
「隣の彼女はサンディ。ソロ冒険者だが、魔法の腕前はこの街イチだ」
サンディは無言で小さく頭を下げる。
物怖じした様子はない。
こういう状況に慣れているんだろう。
新人扱いしてしまったことが、本当に申し訳なく思える……。
「そして、俺の隣りにいるのはディン騎士団所属のペルス・ネージュ。今回派遣する騎士たちのまとめ役だ」
紹介されたペルスは立ち上がり、まっすぐと背筋を伸ばす。
「只今、紹介に預かったディン騎士団のペルス・ネージュだ。冒険者には礼儀は求めない。気軽にペルスと呼んでくれ」
生真面目そうな相手だ。
だが、偉ぶったところはない。
サラクンの騎士の中には、平民や冒険者を見下す輩もいたが、その手合いではないようで安心した。
「俺とモカの紹介は必要ないだろ。最後に、こちらのお方が今回の依頼主であるディン伯爵家ご令嬢のフローラ嬢であられる」
ガラップに紹介されたフローラ嬢が優雅な所作で起立する。
「ご紹介に預かりました、ディン家のフローラです。我が領は冒険者の皆様の働きに支えられております。日頃からの仕事ぶりに心よりお礼を申し上げます」
頭を下げる姿も堂に入ったものだ。
ディズと話すときは年頃の女の子そのものだが、こういった場で相応しい振る舞いができるのは、やはり貴族の子女ならではだ。
「ここに集まっていただいた皆様のお名前とご活躍は普段より耳にしております。此度の当家からの依頼をお引き受けいただき、感謝いたします。皆様方であれば、必ずや期待以上の成果を上げていただけることと信じております」
流暢な言葉を終え、フローラ嬢は腰を下ろす。
この場の空気に呑まれず、立派なものだ。
俺だったら、最初の一文すら言い終えることはできなかっただろう。
「さて、紹介も済んだところで、依頼内容に入るぞ」
ガラップに目でうながされ、モカさんが全員に紙を配る。
その紙には今回の依頼について説明が書かれていた。
「では、順番に――」
ガラップが口頭で書かれている内容を説明していく。
要約すると以下の通りだ――。
――サラクンの街から北に30キロメートル離れたウルドの森で未曾有の大規模スタンピードが発生。
――最初は弱い獣型モンスターばかりだったが、昨日からゴブリンやオークといった亜人モンスターの群れも出現。
――騎士団と冒険者たちが必死で喰い止めているが、防衛線が破られ、街道にモンスターたちが溢れ出すのも時間の問題。
――そのため、ディマイオ伯爵からディン伯爵経由で救援要請が来た。
――大人数を派遣するには時間がかかるため、先遣隊として俺たちが選ばれた。
どうやら、俺が想定していたよりも、はるかに深刻な状況のようだ。
「でっ、大元はなんだよ?」
ガラップの説明が終わり、最初に口を開いたのは狼人のヴォルクだった。
次回――『顔合わせ(下)』




