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052 呼び出し(上)

 ――翌日。


 寝不足だ。

 夜中遅くまで新魔法の名前と詠唱を考えていたからだ。

 昨日は【すべてを穿つ(オムニス・カウウス)】の弱体化に成功したのだが、その副産物として、他にもいくつか使えそうな魔法も発明したのだ。


 その分も合わせたら、とても一晩じゃ終わらないし、終わらせたくない。

 お勉強の読書はお休みして、俺の魂の結晶である『漆黒の禁書チュウニ・ブラック・ノート』を首っ引きで、あーでもない、こーでもないと、頭を唸らせたのだ。


 その結果、まだまだ改良の余地はあるが、我ながら素晴らしいものができあがった。

 はやく新魔法を試してみたくてたまらない。


 ディズとの朝食を済ませ、「今日からダンジョンだっ!」と喜び勇んで、ギルドに向かったところで――。


「ディズさん、ロイルさん」


 受付嬢のモカさんに呼び止められた。


「な、に……です?」


 テンプレなやり取りならだいぶ慣れたが、不意打ちされるとこの程度の対応しかできない。


「ちょっとお話があるので、別室まで来てもらえますか」

「は、い」

「うん、いいよっ」


 思っていたより速かったが、この展開は想定済み。

 なので、俺は慌てない。


 なぜなら、こうなるとディズが予測していたからだ。

 というか、この展開に持ち込むために、わざと大物狩りを続けたと言うべきか。


 俺にとっても馴染みの展開だ。

 ランク以上の実績を上げ、ギルマスに呼び出される。

 これもまた、テンプレだから。


 ただ、予想していたとはいえ、やはり、実際にそうなると緊張してくる。

 でも、大丈夫。

 俺ひとりだったら、まともにしゃべれないだろうが、隣には頼もしい相棒。

 事前に打ち合わせもしてある。

 俺は練習通りに振る舞えばいいだけだ。


 案内された部屋の中には高そうな応接用ソファがあり、そこには二人座っていた。

 ひとりはこの地を治めるディン伯爵の一人娘フローラ嬢。

 フローラ嬢は俺たち二人を確認し、優雅な笑みを浮かべている。


 そして、もう一人。

 四十がらみのがっしりした体格の男性。

 剣呑な雰囲気をまとっている。

 その男が気軽な調子で口を開いた。


「呼び出してスマンな。俺は冒険者ギルド・メルキ支部の支部長をしているガラップだ。まずは座ってくれ」


 ガラップにうながされ、俺とディズは向かいに腰を下ろす。


「二人とも冒険者登録してから一週間もたってないんだってな」


 品定めするような視線のまま、ガラップが続ける。


「ずいぶんと派手にやってるみたいじゃねえか」

「なんのことかな?」

「うむ」


 ディズがすっとぼける。


「ウルスが音を上げていたぞ」


 連日、大量の巨大モンスターを持ち込んだのだ。

 解体場のウルスさんには申し訳ない思いだ。


「周辺でホーンラビットを狩ってたら、Bランクモンスターまで出てきたんだってな」

「うん。サスの森って怖いね」

「うむ」

「長年、この町でギルドマスターをやってるが、そんな話は聞いたことねえぞ」

「たまたまなんじゃない?」

「うむ」

「三日連続のたまたまか?」

「偶然って重なるからね」

「うむ」

「スタンピードも消失したみたいだし、世の中不思議だらけだよね」

「うむ」


 涼しい顔でしらばっくれるディズ。

 そして、それに合わせてうなずくだけの俺。

 余計なことは言わず、重々しくうなずくだけでいいって言われてるからな。


「ほう」


 ガラップが厳しい視線を投げかけてくる。

 ディズは柳に風といった調子で、それを軽く受け流す。

 しばらく、沈黙が続くが――。


「依頼にランクがあるのは知ってるだろ? そして、その理由も」

「うん、もちろん」

「前例を作るとマネする奴らが出てくる。あまり派手なことはしてもらいたくないんだがな」

「私たちは相応な依頼を受けたいだけだよ」


 またもや、沈黙が流れる。


「とはいえ、お前が言うように、ギルドとしても実力のある冒険者には相当の活躍をしてもらいたいところだ。それに伯爵の推薦もあるからな」


 先日、伯爵邸を訪れた理由がこれだった。

 俺たちとしては早く冒険者ランクを上げたい。

 そのための実力アピールとしての、高ランクモンスター乱獲だ。


 だがその行為は、ガラップが言ったように、ギルド側からしたら、当然褒められた行いではない。

 最悪、なんらかのペナルティーを課されるかもしれない。


 そこで前もって伯爵に話を通しておいたのだ。

 伯爵は俺たちに恩を感じている上、実力も知っている。

 ディズのお願いを伯爵は一も二もなく受け入れてくれた。


 伯爵の推薦は俺たちだけでなく、ギルドにとってもメリットがある。

 俺たちのランクを上げる言い訳(エクスキューズ)になるのだ。

 伯爵の推挙があれば仕方がないと――。


 ようするに、ディズはギルドの顔を立てたのだ。

 それによって、俺たちが力に物を言わせる単細胞ではなく、きちんと政治的配慮(﹅﹅﹅﹅﹅)ができると示したのだ。


 実力アピールと、伯爵の推薦。

 どちらかひとつでは、ゴリ押しになってしまう。

 だが、このふたつが揃えば、ギルドにも落とし所ができるのだ。


 俺には思いつきもしない視点だったが、説明を受けてもっともだとえらく感心した。

 やっぱり、ディズは凄いな。


「騎士や傭兵をやっていたヤツらが高ランクからスタートすることもある。剣聖が引退後に冒険者活動を始めたときAランクからだったしな」


 そこでガラップは大きく息を吐いた。


「まあいい、二人とも今日からCランクだ。これ以上ムチャクチャやられたらたまらんからな」


 苦々しい様子ではあったが、思惑通り、ガラップはそれを受け入れた。


 よし、目的達成だ。

 これで遠慮なしに、ダンジョン攻略に打ち込める。

 はやる気持ちで腰を浮かしかけたところで――。


「じゃあ、本題に入ろうか」


 ガラップの言葉に動きが止まる。

 どうやら、まだ話は終わっていなかったようだ――。

 次回――『呼び出し(下)』


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― 新着の感想 ―
[一言] 今回も面白かったです✨ ロイル君の新魔法気になる~wkwk
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