049 サラクン1:異変
サラクンの街サイドの話です。
サラクンの街から北に30キロメートル。
ウルドの森の中心地。
その地下5メートルで異変が起こりつつあった。
人の踏み入らない場所には魔力が溜まる。
魔力が溜まるとモンスターが生まれる。
それが濃ければ濃いほど、強大なモンスターが。
ウルドの森はこの数十年平和であった。
本来であれば、広大なこの森は大量の魔力を抱え込み、多くのモンスターを生み出すはずだ。
しかし、その規模に比べて、存在するモンスターの数は少ない。
圧倒的に少ない。
冒険者たちが「割に合わない」と言うくらいに少なかった。
その原因は、森の中心地の地下。
長い間――それこそ何十年という時間をかけて、森が生み出す魔力のほとんどがその場所に集積され続けた。
そして、溜められた膨大な魔力はひとつのかたちになり、あらたな生命を生み出した。
森に棲息するモンスターなどとは比較にならない、途轍もない化け物を――。
化け物が生まれた瞬間、そこを中心として森全体に膨大な魔力が放たれた。
もっとも被害を受けたのは、森の外縁部に棲息する弱い獣型モンスターたちだ。
化け物が放つ膨大な魔力にあてられた弱小モンスターは、生存本能が赴くままに逃走を始めた――魔力の元から少しでも離れようとして。
だが、そのほとんどは失敗に終わった。
魔力の及ぶ範囲から逃げ出す前に、か弱いモンスターたちのほぼすべては魔力に耐え切れず死に尽くした。
森から逃れられたのは数えるほど。
そのわずかも、街道を行く者たちによって命を奪われた――。
◇◆◇◆◇◆◇
「隊長、報告です」
サラクンの街、騎士団本部にある詰め所でくつろぐゲララのもとに、部下がひとり駆け込んできた。
ゲララは暇つぶしにいじっていたタブレットをテーブルにおき、顔を上げる。
「なんだ?」
「ウルドの森から街道にモンスターが出てきました」
「なんだとッ!?」
いきなり舞い込んできた厄介事にゲララは顔をしかめる。
「被害は?」
「現れたのはラットやラビットなので、被害はほとんどありませんでした」
部下が告げた名は弱小モンスターの代表格。
騎士や冒険者でなくても、旅慣れた者ならどうということがない相手だ。
心配させやがって、とゲララは部下を睨みつける。
「魔道具はどうしたッ?」
「いえ、それが……なにも連絡はありません」
ロイルの後釜に北門に配備された魔道具。
大砲のかたちを模したその魔道具は、開発者である魔技師の名を冠し、ヒダント砲と呼ばれる。
ヒダント砲はモンスターの魔力を感知し、自動攻撃する機能を持った魔道具だ。
それと同じものが、ウルドの森近くの駐屯地にも配置されている。
モンスターが出現したら、迎撃するとともに、そのデータが送られてくるはずなのだが――。
「ちっ、だから、魔道具は信用ならんのだッ!」
ゲララは怒りに任せてテーブルを殴りつける。
怒りを発散させてから、ゲララは部下に伝える。
「念の為、第9小隊と第10小隊を派遣しろ。連絡があるまで、現地で警戒任務だ」
「承知しました」
「それと、上に報告しておけ。魔道具が役立たずだってことをしっかり伝えるんだぞ。以上だ」
「はっ」
機嫌が悪いときのゲララは、部下にあたる。
叱責に罵倒、鉄拳が飛んでくることもある。
察した部下は「巻き込まれてはたまらん」と慌ててその場を後にした。
その後も何度か同じような報告が散発的に届けられた。
どれも弱小モンスターばかりで被害は皆無。
しかし、その件数は見逃せないほどだ。
さすがにゲララも「これはなにかおかしい」と思い始めた。
しかし、第一報から一日が過ぎた頃、モンスターの出現情報はピタリと止んだ。
上には伝えてあるし、騒ぎも収まった。
そう思って、ゲララはそれ以上の手を打たなかった。
今回のことは、たまたま起こったに過ぎない。
とりたてて気に留めるまでもないと。
その判断が間違っていたとわかるのはもう少し先の話だった――。
次回――『サラクン2:団長と魔技師』




