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043 勉強の成果

 新聞をひと通り読み終わったのは6時頃。

 まだ、朝食まで一時間ある。

 昨晩購入した本のひとつ、『冒険者入門』を開く。


 新聞に書かれていた情報は、今すぐには役立たないかも知れないが、読み続ければいずれ役に立つ日が来ると思えるものばかりだった。


 それに対して、『冒険者入門』は今日からでも使える知識ばかりだ。

 理論的に小難しいことが書かれているのではなく、「こういう場合にはこうしたらいい」と実際にあるシチュエーションでのテンプレ回答が並んでいた。


 たとえば、ギルド受付とのやり取り。

 たとえば、他の冒険者とのつきあい方。

 たとえば、ぼったくられない買い物の仕方。


 ――これはすごいっ!


 どれも俺が不安に思っていたことばかりだ。

 だけど、この本に載っているテンプレ回答を丸暗記して使えるようになれば、俺でも問題なく他人とコミュニケーションがとれるじゃないかっ!


 さすがはディズ一押しの本だ。

 喜び勇んだ俺は、回答例を口に出して練習しながら、『冒険者入門』を真剣に読み込んでいった――。


「おはよっ」


 声をかけられ、顔を上げる。

 今日も眩しいディズの笑顔。


「おは、よう」


 俺もぎこちない挨拶を返す。

 さすがの『冒険者入門』でも、パーティーメンバーへの朝の挨拶については書かれていなかった。


「朝から勉強? 熱心だねっ」

「これ……あり、がと。やくに…………たった」

「なら、よかった」


 本と新聞を勧めてくれたお礼を伝える。


「ご飯にしよっ」

「う、ん」


 サンドイッチとコーヒーの簡単な食事だ。

 準備時間はほぼゼロ。

 買い置きをマジック・バッグから取り出すだけ。


 今日の予定について話しながら食事を済ます。

 その後、冒険者装備に着替え、ちょっと買い物してから、ギルドへ向かった――。


 ギルドに入り、掲示板から依頼を探す。

 今日は二人で森へ向かう。

 昨日スタンピードが起きたエストの森ではなく、街の南側に位置するサスの森だ。


 エストの森は今日も調査の冒険者が多い。

 人目を避けたい俺たちは人気のないサスの森を選んだ。


「これと、これ。あとは、これにしましょっ」


 ディズが3枚の依頼票を掲示板から剥がす。

 どれも、サスの森にいるモンスターの討伐依頼だ。

 今日の依頼をこなすのはディズだ。

 俺はその間、人目につかない場所で魔力トレーニングだ。


 ディズは俺に依頼票を手渡す。


「勉強したんだよねっ? じゃあ、試してみよっか」

「う、ん」


 『冒険者入門』で学んだことを思い出す。


 ――ギルド職員とは良好な関係を築けるように心がけましょう。


 ――粗野でぶっきらぼうな態度が格好良いと考える冒険者が多いです。


 ――しかし、それは間違い。職員も人間です。乱暴な相手よりも礼儀をわきまえている相手を優遇したいと思うのも当然です。


 ――大切なのは、挨拶と笑顔。そして、柔らかい物腰。


 ――その3つだけで、職員に好印象を与えることができます。


 ――職員に気に入ってもらえれば、有益なアドバイスを受けられ、割りのいい依頼を勧めてもらえます。


 挨拶。

 笑顔。

 柔らかい物腰。


 さっそく、『冒険者入門』で学んだことの実践だ。

 大丈夫、依頼の受け方はちゃんと覚えている。


 ――まずは「おはようございます」と笑顔で挨拶。

 ――依頼票と冒険者タグを手渡して、「この依頼を受けたいので、手続きをお願いします」。


 俺はテンプレ回答を口の中で繰り返しながら、受付カウンターに向かう。

 昨日ほど、足は震えなかった。


 朝の時間帯、ギルド内は依頼を受ける冒険者で混み合っている。

 いくつかある受付カウンターはどこも数人の列ができていた。


 俺が選んだのはモカさんの列だ。

 初めての相手だと、さすがに、緊張する。

 少しでも馴染みの相手の方が上手くやれるだろう。


 モカさんの列は他の列より人数が多かった。

 並んでいるのは男性冒険者ばかり。

 やっぱり、彼女は人気なようだ。


 列が長いのは、俺にとっては大歓迎だった。

 順番を待つ間、イメージトレーニングができる。

 俺は小声で「おはようございます」、「この依頼を受けたいので、手続きをお願いします」と繰り返す。

 頭にはセリフはすっかり入っている。

 問題は口が上手く回るかどうかだ。


 そして、俺の番がやってきた――。


「おはよっ、ござ……ま、す」

「おはようございます、ロイルさん」


 いきなり噛んでしまった……。

 動揺したけど、練習したおかげで、次の言葉がなんとか出てくる。


「依頼……おねが……しま、す」


 噛み噛みで半分くらいだけだが、なんとかセリフを言うことができた。


「はい。依頼受注ですね」


 モカさんが笑顔で応える。

 その笑顔は昨日よりも少し柔らかい気がした。


 差し出した依頼票と冒険者タグを受け取り、モカさんは手続きを行っていく。


「サスの森は周辺部は安全ですが、奥に入ると危険ですので、気をつけて下さいね」

「あり……が……と……ござ……ま、す」


 依頼票と冒険者タグを受け取り、少し離れた場所でやり取りを見ていたディズのもとへ戻った。

 次回――『サスの森』


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― 新着の感想 ―
[一言] ロイル君、短期間でめっちゃ成長してスゲー✨✨
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