041 依頼完了
「終わったよー」
ディズが詰め所の扉を無造作に開けた。
小汚い机に向かう墓守は、俺たちに気づきタブレットから顔を上げる。
「どうした? もう、怖くなったのか?」
「仕事なら、終わったよっ」
バカにした笑みを浮かべていた墓守だったが、ディズの言葉に笑顔を消した。
「はっ? なにをバカなことをッ。10分もたっていないじゃないかッ。お前たちの仕事は朝までの見張りだッ。今すぐ仕事場に戻れッ!」
「だから、仕事なら終えたってば。この先一年はゴーストは出ないよ」
「フザケたことを抜かすなッ!」
「あなたなら、これがなにかわかるよね?」
怒りに任せて立ち上がった墓守に、ディズは腕輪と胸元に潜ませていたロザリオを見せつける。
「そっ、それは……。まっ、まさかっ、巡察使ッ!!」
巡察使とは、不正が行われていないか調査するために聖教会が各地に派遣する役職だ。
門番時代にも何度か見かけた。
墓守は領主に雇われているとディズが言っていたが、悪霊がらみの仕事だ。
男の狼狽ぶりからすると、聖教会には男を罰したり、罷免したりする力があるのだろう。
ディズは聖教会から勝手に逃げ出してきた身。
巡察使であるわけがない。
ただ、男は上位聖職者しか持ちえないロザリオを見て勘違いしたようだ。
ディズは男の反応を見て、口元を緩める。
「べつにあなたの怠慢を咎める気も、上に報告するつもりもないから安心して。ひとつ、お願いを聞いて欲しいだけよ」
「そっ、それはっ、なっ、なんですか?」
虚勢を張っているが男は青ざめている。
それに口調まで変わっている。
「まずは実際に見てもらおっか。ついて来てちょうだい」
「はっ、はいっ」
男を連れて再度、墓地に入る。
「こっ、これは……」
男は違いに気がついたようだ。
「毎日の確認を怠ってたでしょ?」
「すっ、すみませんでしたっ」
土で汚れるのも厭わず、男はその場に土下座した。
声も肩も震えている。
「これでわかってもらえた?」
「たっ、たしかにっ。こっ、これなら、しばらくはゴーストも現れません」
サボってはいても、さすがは専門家だ。
墓地の現状を見て、しっかりと理解したようだ。
「そんなに怯えなくても大丈夫だってば」
ディズの言葉に息を吐き、男はあからさまな安堵を見せる。
「さっきも言ったように、ひとつお願いがあるだけよ」
「はっ。わたくしめに出来ることでしたら、なんなりと」
「簡単な話だよっ。今まで通りに依頼を出してね。それだけよ」
「ご慈悲に感謝いたします。喜んでさせていただきます」
男はふたたび、頭を地面につける。
「懐はそれほど痛まないでしょ? 誠意を見せてくれることを期待しているからね」
「かっ、必ずやっ」
「じゃあ、これで話はおしまい。依頼票にサインしてね」
「はっ、はいっ!」
震えながらぺこぺこと頭を下げる男から依頼票を受け取り、俺とディズは墓場を後にした――。
俺はディズの見事なやり口に感服した。
ディズがやったのはロザリオを見せ、「上に報告する気はない」と言っただけだ。
自分が巡察使であるとも、上に報告する権限があるとも、言っていない。
嘘はひとつもついていないのだ。
それでいて、俺たちの仕事を認めさせ、今後も依頼を継続させる約束を取り付けたのだ。
それも男に恩を着させたかたちで。
やっぱり、ディズはすごいな。
次回――『冒険者初日を終えて』




