040 ゴースト退治(下)
ひっそりと静まり返った人気のない墓場。
街の明かりはここまで届かず、カンテラの心許ない光だけが頼りだった。
闇の縁から今にもなにかが飛び出してきそうで、風に揺れるこずえの音がするたび、背筋がビクッとなる。
不気味な気配に俺はビビっていた。
だが、慣れているのか、ディズはいたって平常運転だ。
市場を歩くような軽い足取りで墓の間を通り抜けて進む。
俺はその後をおっかなびっくりついて行く。
ディズの話によると、ゴーストはかたちの定まらない青白い霊体。
昼はひっそりと隠れ、夜になると姿を現す。
物理的な攻撃は一切通用せず、神聖魔法や聖水で浄化するしか退治する方法はない。
ゴースト自体はせいぜい、人を怖がらせるくらい。
大した脅威のないモンスターだ。
ただし、放っておくとどんどん数が増える。
そして、一定数のゴーストが集まると、合体して上位霊になる。
上位霊は人間の精神に干渉してくる。
簡単に言うと、取り憑くのだ。
そのために、上位霊になる前にゴーストを間引かなければならない。
これこそが、俺たちの受けた仕事だ。
「変ね…………」
周囲を見回すディズの顔つきが変わる。
もしかして、上位霊がいるのか?
俺は気を引き締める。
「おかしい……。いくら平穏な墓地でも、すこしは空気が淀んでるはずよ。それなのに、ここは空気が澄んでいる…………あっ!」
ディズはバッグから腕輪を取り出し、腕にはめる。
腕輪型の魔道具のようだ。
だが、なんの魔道具か、詳しくない俺にはわからない。
「それ……な、に?」
「瘴気を測る腕輪よっ。ちょっと待っててっ」
ディズは腕輪をはめた右手を高く上げる。
腕輪からは薄い光が発せられ、墓場全体を覆うように広がっていく。
「やっぱり…………」
「……どう、だっ……た?」
ディズに笑顔が戻る。
若干、呆れ気味なのは気のせいだろうか。
「安心して。なんの問題もないから。というか、依頼完了だよ」
「……えっ…………?」
どういうことだ、ゴースト退治をしなくていいってことか?
理由もわからず戸惑っている俺に、ディズが問いかけてくる。
「さっき、墓守が言ってたでしょ、『ここ数日はおとなしい』って」
「う、ん」
「この前のこと、覚えている?」
「この、……まえ?」
「拠点のレイスを除霊したときだよ」
「う、ん。それ……が?」
「あのときのロイルの除霊魔法の余波で、ここのゴーストは全部消滅しちゃった。それだけじゃなくて、土地も空気も浄化されてるから、しばらくはゴーストも出ないよ。ほんと、やり過ぎだよ……」
「あっ…………」
あのときは初めての魔法で加減がわからなかったので、つい力が入りすぎちゃった。
余った魔力が辺りに飛んで行ったのを覚えている。
その結果、拠点のレイスだけでなく、ここのゴーストまでまとめて浄化してしまったのか……。
「この様子だと、この街全体が浄化されてると思う。やっぱり、規格外ね、ロイルの魔法は……」
――またなんかやっちゃいました?
俺のチュウニ魂がそう囁やけと命ずるが、言ったら確実に怒られるので、口を閉じて反省する。
呆れ顔だったディズは、だが、なにかに納得したように口を開く。
「ロイルの除霊魔法があれば、ちゃちゃっと片付くとは思っていたけど、まさか、やる前から終わっているとは思わなかったよ……」
「なん……か、……ごめ、ん」
「謝る必要ないよ。悪気はなかったんだし。悪いことをしたわけでもないしね」
「そ、う?」
「ええ、この先の冒険者たちの仕事を奪っちゃったけど、まあ、そこは話の持って行き方次第でどうとでもなるからね」
「そ、う……なのか」
この依頼は金欠な冒険者への救済策のひとつ。
ゴーストが現れなくなった以上、依頼はなくなるだろう。
そうなると困るのは新人冒険者たちだ……。
「ともかく、これで依頼は文句なしに完了だね。さあ、戻ろっ」
「うっ……う、ん」
ディズがそう言うなら、その通りなんだろう。
結局、依頼開始から10分もかからないうちに、俺たちは墓守がいる詰め所へと戻ることになった。
「終わったよー」
ディズが詰め所の扉を無造作に開けた。
次回――『依頼完了』




