038 ゴースト退治(上)
向かったのは小洒落たレストラン。
俺一人だったら絶対に入れない店だ。
この街に来てからディズが気になったという店に何軒か行った。
少し値は張るが、俺が食べたことのない料理ばかりで、世の中にはこんなに美味しい料理があるのかと衝撃を受けた。
どうして初めて訪れた街で美味しい店を知っているのか尋ねたら『メルキの街観光ガイド』を読んだからだって。
へえ、そんなものまでタブレットで読めるのかと、冒険譚しか読んでこなかった俺は感心したものだ。
この店も今までの店に負けず劣らずだ。
まずはワインで乾杯する。
「ロイルの初ダンジョン制覇に、そして、Eランク昇格を祝って――かんぱ〜〜いっ!!!」
「かん……ぱ、い!」
グラスを鳴らし、料理に舌鼓を打ち、ほろ酔い気分だ。
「これから仕事なのにいいのか?」とも思ったが、ディズに「これくらい平気でしょ?」と流された。
俺が酒に強いことはディズも知っているし、彼女も酒に強い。
ふたりでワイン1本くらいなら問題はないだろう。
「冒険者生活はどうだった?」
複雑な思いだ。
今日一日、いろいろあったが、俺が想像していた冒険者生活とはかけ離れていたものだった。
まさか、魔法が強すぎるという理由で、満足にダンジョン攻略ができないとは思ってもいなかった。
それに、自分の魔力量と魔法の強さが規格外だったとは……。
――これもチート主人公のうちなんだろうか?
物語の主人公はチートな能力を上手く使って、カッコいい活躍をするものだ。
だが、俺のやったことはカッコいいからほど遠い。
空回りしているだけだ……。
それでも、楽しかったかどうかと訊かれれば――。
「う、ん…………たのし……かった」
「なら、よかったっ!」
「ディズは……冒険者……やって、た?」
話の流れで、気になっていたことを尋ねてみる。
ディズも今回の冒険者登録が初めてなので、冒険者活動はしていなかったはずなのだが、その割にはやけに手馴れている。
元聖女だってことは知っているが、いったいどんな過去を送ってきたんだろう。
「冒険者は初めてだよっ。でもね、聖女の修行時代にそれっぽいことはしてたんだ。モンスターを倒したり、ダンジョンに潜ったり。まあ、冒険者の真似事かな」
「そう……だっ、た……のか」
真似事という割には、強すぎると思うが……。
まあ、俺も人のことは言えない。
「ロイルと一緒、気持ちは新人だよ。これからいっぱい依頼をこなして、どんどんランク上げてこ。ランクを上げないと私とロイルにふさわしい仕事もできないからねっ」
「う、ん」
「とりあえず、まずは、ゴースト退治だよっ」
「ねえ……なんで…………報酬……高い、の?」
「あっ、説明してなかったねっ」
ゴースト退治依頼の報酬は2万ゴル。
Eランク依頼として破格の値段だった。
「まず、この依頼がなぜEランク向けなのか」
「う、ん」
「ゴーストを倒すのは、普通は神聖魔法を使うのよ。ロイルの除霊魔法は例外ねっ」
「そう……だ……ね」
「でも、神聖魔法の使い手は少ないんだよね。教会が血眼になって囲い込もうとするくらいにね」
「じゃ……じゃあ…………?」
「そうねっ。ロイルが思うのも当然ね。駆け出しのEランク冒険者には荷が重すぎる。なにも知らないとそう思っちゃうでしょ?」
「そう……だ……ね」
「でもね、実はこれ、とっても簡単な依頼なんだっ」
「そ、う……なの?」
「なにも魔法を使う必要はないんだよ。ゴーストは聖水をぶっかければ倒せるからねっ」
「そ、う……なんだ」
「だから、報酬額が高いの。この報酬には聖水代も含まれているのよ」
「……あっ…………」
「聖水は1本1,000ゴル。この街の墓地なら一晩で十数体出ると思うから、実質報酬は7,000ゴルくらいじゃないかな? それでも、Eランクには十分な報酬だけどねっ」
「そ、う……なのか」
「ええ、これで納得した?」
「う、ん」
なるほど。
疑問は解決したけど、新たな疑問が浮かぶ。
「そんな……簡単……なら…………なんで……墓守……自分で……やら、ない?」
依頼主は墓地を警備する墓守だ。
聖水をかけるだけの簡単なお仕事なら、わざわざ冒険者に依頼するまでもない。
自分でやればいいじゃないか。
「それは口で言うより現地を見た方が早いわね。それより、そろそろ時間よっ」
ディズとの食事が楽しく、時がたつのを忘れていたが、もう、19時前。
そろそろ移動しないと遅れてしまう。
俺たちはレストランを後にし、墓地に向かった――。
次回――『ゴースト退治(中)』




