028 弟子入り志願(下)
「しっ、師匠! どうか私を弟子にしてくださいっ!」
「え、っ?」
まったく予想していない言葉だった。
ポカンと口を開ける俺に彼女は続ける。
「常人には気づけなくても、私の目はごまかせません。オークを全滅させた師匠の魔法、感服いたしました」
あれ、気づかれた?
周りにいた誰も気づかなかったし、一度俺の【すべてを穿つ】を体験しているディズですらも気づけなかったのだ。
新人魔法使いが気づけるとは思えないけど……。
あっ!
そうかっ!
きっと俺とディズのやり取りを聞いていたんだろう。
俺たちのすぐ後ろにいたし。
それだけで、俺がやったと信じこんじゃうとは……。
思い込みの激しい子なんだろう。
ちょっとこの子の行く末が心配になった。
悪い人に騙されないといいけど……。
「先ほどの師匠の極大魔法。あれほどの魔法は見たことがありません」
極大魔法?
ただ魔力弾を飛ばしただけど?
いや……ディズの話だと、宮廷魔術師レベルの魔法らしい。
物語なら許されるが、こういう謙遜は嫌われるかもしれないから、気をつけないとな。
でも、この新人魔法使いが気づけたとは思えないが……。
まあ、気持ちはよくわかる。
極大魔法とか、最終奥義とか、俺も憧れたもんな。
――相手は強敵だ。俺が極大魔法で倒す。それまで、時間を稼いでくれッ!
そして、長い詠唱の末、災害レベルの魔法を放って、強敵を一撃で葬る。
「相変わらず、アンタの魔法は規格外ね」
「さすがです、ロイルお兄さま」
「ご主人様の魔法はいつも綺麗でステキです〜」
――うん、めちゃくちゃカッコいい!
どうやら、この女性も俺と同じ趣味の持ち主らしい。
親近感が深まり、少し嬉しくなる。
だが、極大魔法というのはこの子の勘違いだ。
それは物語の中だけ。
現実で簡単にお目にかかれるものではない。
きっとちゃんとした魔法を見たことがないのだろう。
そこに妄想力が加わって、彼女の中では俺が凄腕魔法使いになっているのだろう。
なんて思い込みの激しい子だろうか。
「私はサンディといいます。どうか、この私を弟子にしてくださいっ!」
彼女が深々と頭を下げる。
いやいやいや、ちょっと待ってよ。
さすがこの子よりは魔法が使えるだろうけど、ろくに魔法知識がない俺が弟子をとるなんて、まだまだ早すぎるだろ。
つい、昨日冒険者になったばかりだぞ。
たしかに、弟子から師匠と呼ばれるとか憧れる。
ものすごく憧れる。
「さすがです、師匠っ!」とか、俺も言われてみたい。
だけど、それはもっともっと先の話だ。
今は自分のことで手一杯。
常識を学んで、ちゃんと人付き合いできるようになる。
それが最優先だ。
そう思って――。
「……ま、だ…………はや、い」
俺の言葉にサンディは悔しそうな顔をする。
ん? どうした?
なぜ、サンディがそんな顔をするのか、理解できなかった。
コミュ障の俺に初対面の相手の表情を読むのは難しすぎる。
「…………くっ、……………………精進します」
サンディはなにかを堪えるようにして、言葉を絞り出した。
精進します?
ん? なんか勘違いしてる?
まあ、いいや。
サンディがなにを勘違いしているのか気になるけど、それを問い詰めるだけのコミュ力は俺にはない。
「でも、私は絶対に諦めませんっ! 必ずや師匠に認めていただけるようになりますっ!」
そう言い残して、サンディは走り去った。
うーん、最後まで意味がわからない。
伝わってきたのは頑張ろうという意志だけだ。
思い込みが強くて不思議な子だったけど、悪い子じゃない。
早く彼女が一人前になれるよう俺も祈っておこう。
その頃には、俺が師匠に値するような人物ではないと気づくだろう。
ともあれ、俺としては上手くやれたと思う。
サンディの思い込みが激しかったせいで、いまいち会話は噛み合っていなかったけど、ちゃんと「俺が弟子を取るにはまだ早い」と伝えられたし、サンディも納得してくれた。
コミュ障の俺にしてみれば、百点満点の応対だったろう。
そう思って、ディズの方を見ると――。
「あちゃー」という顔で額に手を当てていた。
あれ、なんか、まずかった?
次回――『反省会』
ディズからのダメ出しです!
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明日午後6時『貸した魔力は【リボ払い】で強制徴収』の最終話を投稿します。
下のリンクから飛べますので、未読の方はこの機会に是非!




