027 弟子入り志願(上)
「あのっ!」
女性が俺たちに声をかけてきた。
そして、俺の方に一歩近づく。
「しっ、師匠っ! お願いがありますっ!」
「…………」
えっ、俺のこと?
なんか、師匠とか呼ばれてるけど、俺に弟子はいない。
というか、初対面の相手だ。
あっ、よく見たら、さっき表にいた、怖くて震えてた新人魔法使いの女性だ。
俺とディズの間くらいの年齢。
冒険者を始めるには遅い年齢だが、俺が言えたことじゃない。
きっと、彼女も今までは別の仕事をしていたのだろう。
それでも冒険者になる夢が捨てきれなかったのか。
俺は彼女に親近感を覚えた。
あらためて、彼女の格好を観察する。
金色の派手な刺繍が入った漆黒のローブに三角帽子、彼女の背丈以上の大きな杖を持っている。
いかにも物語から抜け出してきた魔法使いスタイルだ。
門番時代にも魔法使いは見かけたが、ここまでコテコテな人はいなかった。
ローブはもっと地味なものだし、杖だって30センチくらいの短杖――というスタイルが主流だ。
きっとカタチから入るタイプなんだろう。
その気持ち、よくわかる。
俺も長い門番時代、冒険者の物語を読み耽り、本の中の冒険者に自分を重ね、想像を思い描いた。
重たくて頑丈なフルプレートではなく、軽くて硬いミスリル鎧。
取り回しに困る長槍ではなく、ダンジョンでも使える両手持ちの直剣。
剣を振るうとモンスターに向かって飛んで行く斬撃。
――そういう姿に憧れたものだ。
彼女の気持ちは痛いほどにわかるが、俺を師匠と呼ぶ意図はまったくわからない。
困った俺はディズを見るが、優しい笑みを浮かべるばかり。
俺はディズの意志を汲みとった。
――ほら、いい練習よ。
さっき話していた、他人とのコミュニケーションの練習。
ディズはその機会を俺に与えてくれたのだ。
コミュ力皆無の俺だけど、ディズの考えてることはなんとなくわかるようになった。
この調子で、他の人の気持ちもわかるようになりたいな。
よしっ、さっそく練習だ。
俺は意気込んで口を開く
「な、に?」
「……ひっ」
女魔法使いが怯えを見せる。
うわあ、またやっちゃった!
これじゃ、ぶっきらぼうで不機嫌な人だよ。
ディズに言われたけど、俺のしゃべり方は、口数少なく声も低いので、他人に威圧感を与えるらしい。
このガタイと相まって、慣れない人には恐怖なんだと。
そのおかげで、拠点を格安で借りられたわけだけど、今回の場合は悪い方向に出てしまった。
新人を怖がらせちゃったかな?
これで冒険者に悪いイメージを持たないといいけど……。
この前歓迎会をしてもらってわかったけど、冒険者はみんな気のいい人ばかり。
イジメをしたり、無視したりする騎士団とは大違いだ。
新人の俺が知ったような口をきくのもなんだけどね……。
そんなことを考えていると、怯えていた彼女はなんとか口を開いた。
全身の勇気をかき集めて、それを振り絞った声だった。
俺と話すだけで、そんなに勇気が必要なのか。
そんなに怖いかな?
ちょっとショックだ。
「しっ、師匠! どうか私を弟子にしてくださいっ!」
「え、っ?」
まったく予想していない言葉だった。
次回――『弟子入り志願(下)』




