026 スタンピード後(下)
「ええ。ロイルには2つ欠けているものがあるわ」
「な、に?」
ディズが2本指を立てる。
「ひとつ目は常識よっ! さっきも言ったけど、自分の魔法が規格外だとちゃんと理解することっ!」
「……う、ん」
「そして、もうひとつ。コミュ力よ。ちゃんと他の人と話せるようになることっ!」
「…………ぅ」
非常識にコミュ障――。
予想していたとおりだが、痛いところを突かれた。
俺は冒険者のことをなにも知らない。
ディズは俺のつたない言葉を理解してくれるが、他人とはまだ、まともに話せない。
自分でもなんとかしないと思っていたところだ。
「あせることはないわ。ゆっくりやっていきましょ。私が練習相手になるから。ねっ?」
「う、ん」
ディズはニッコリと笑顔を浮かべる。
「まずは、常識からだけど――」
「ごめっ……ん」
「謝る必要はないわ。ロイルが悪いわけじゃないのよ。環境が悪かっただけ。誰も教えてくれなかったんでしょ?」
「う、ん」
田舎の農村で育った俺はちゃんとした教育を受けていない。
15歳で騎士団員になってからも、門番として突っ立っていただけで、誰かになにかを教わったこともない。
北門で働く人たちの会話を耳にしたくらいで、後は冒険譚で仕入れた作り物の知識ばかり。
この街に来てから初めて、実際の冒険者と接したくらいだ。
魔法に関しても同様だ。
魔力を扱えるようになって、魔法のことも勉強したくなった。
だけど、魔導書はタブレットでは読めない。
専用の紙に魔力インクで書かれたものしかないのだ。
門番の安月給では買えないほど高額な上、特別な言語――魔法語というらしい――で書かれている
なので、魔法の勉強は諦めたのだ。
俺の魔法は全部独学だ。
だから、ディズが言う通り、非常識なんだろう。
それに独学と言えばカッコいいけど、やったのは魔力をこね回していただけ。
後は、「これできそうかな?」と思ったことを試しただけ。
そのおかげで、いくつか魔法を発明したが、きっとどれも基本的なものばかりだろう……そう思っていた。
俺もファイアボールを飛ばしたり、風の刃でモンスターを切り刻んだりしたかったけど、そういう魔法は一切ダメだった。
なので、俺の魔法はたいしたことないのだと思っていたが、ディズが言うには、それは大間違いだと。
こう考えてみると、俺は本当になにも知らないんだな……。
ディズに指摘されるまで、そのことすら気づかなかった。
――ディズによる魔法講座は続く。
「どんな魔法でも、魔法を使うには魔力を消費するの。いい?」
「う、ん」
今回みたいな大規模な魔法を使うと、身体の中からなにかが抜け落ちる感覚がある。
これが魔力を消費するということなのだろう。
「だから、魔法は使える回数に上限があるのよ。いい?」
「……えっ…………?」
上限があるなら、使いすぎると使えなくなるはずだ。
だけど、俺はそんな体験をしたことがない。
魔法はいくらでも使えると思っていた。
「まさか、自覚ないの?」
「う、ん」
「あららら、これは想像以上だわ」
「ごめっ……ん」
「アンタは悪くないわ。きっと、使い切れないほどの魔力量なのね……」
「…………」
呆れられてしまった。
「一度、魔力量を量ってみるべきねっ」
「はか……る……?」
「あら、そこから? これは相当頑張らないといけないわね」
「うっ……う、ん」
「魔力量を量る魔道具があるのよ」
「あっ…………!」
そういえば……思い出したっ!
騎士団に入団したばかりの頃、いろいろな検査を受けたが、そのときに魔力量も量られたっけ。
たしか、とんでもなく低い数字だった。
そのときの担当官は「まあ、そのガタイがあれば、魔力がなくても問題ないから気にするな」と励ましてくれた。
だが、その後、俺が武器を使えないとわかると、「おい、この役立たずのデカブツを連れてきたの誰だよッ!」と急に手のひらを返されたことをよく覚えている。
あれから15年間、暇な仕事中はずっと魔力をこねて遊んでいたんだ。
入団時に比べたら、俺の魔力量はだいぶ増えただろう。
どれくらい増えたのか――楽しみだっ!
「ギルドにも置いてあるはずだけど……止めた方がいいわね」
「……どう、し……て?」
「大騒ぎになるわ。いろんなパーティーから勧誘されたり、面倒な依頼を押し付けられたり。そんなのは望まないでしょ?」
「う、ん」
さすがディズだ。
俺の気持ちをよく理解している。
これもテンプレだ。
主人公のチート能力が発覚し、厄介な状況に追い込まれ、身動きが取れなくなる。
ずっと不思議に思っていた。
なんで、厄介事を避けたいはずの主人公が、不用意に他人に能力を明かしてしまうのか。
――そこはもうちょっと警戒しろよっ! バレないように隠せよっ!
何度そう思ったことか……。
その点、常識人のディズは慎重だった。
「後で魔道具屋で買おっか。そんなに高くないし、伯爵からもらったお金も残っているしね」
「う、ん」
「まずは魔力量を量ろっ。それから、いろいろ教えてあげるわね」
「あり……が……と」
「えへへ。お礼を言うのはこっちよ。ロイルと一緒だと、毎日楽しいものっ!」
ディズが笑顔を浮かべる。
輝かんばかりの魅力的な笑みに俺の心は掴まれる。
「さてと、こっちに報告が届くまで、まだ時間がかかるわね。今、どんな感じなの? ロイルの探知魔法で調べられるでしょ?」
「う、ん。……ちょっと……まっ、て」
さっそく、【世界を覆う見えざる手】を発動させる。
森にいるのは……50人くらいか。
森に向かっているのも……同じくらい。
それと……。
「森……50人。 むか、ってる……おな、じ」
「へえ、百人もいるんだ」
「あと…………」
「まだいるの?」
「5人…………こっち……戻る」
「なるほどね〜。だいたい分かったわ」
「う、ん」
「いきなりオークたちが消えたから、森を調査しているのね。それと、報告のために5人戻ってきている。そんなところかしら?」
「た、ぶん」
「報告が戻って来るのに後どれくらいかかりそう?」
「あと……1キロ…………」
「じゃあ、10分もかからないわね。どうする? ここで待ってダンジョン行く? それとも、魔力測定具を買いに行く?」」
うーん。
どっちも捨てがたい。
早くダンジョンに行きたいけど、自分の魔力を測ってみたい気持ちもある。
でも、どちらかと言えば……。
「ダ――」
「おっけー、じゃあ、スタンピード騒ぎが収まるまでここで待ってよっ」
俺が言い終わるまでもなく、ディズが言い切った。
というか、俺、一文字しか口にしてない。
なんで、それだけで俺の考えがわかるんだ……。
あらためて、ディズの察知力の高さに恐れ入る。
今まで誤解されっぱなしの人生だった。
それでますますしゃべるのが苦手になり……という悪循環だった。
でも、ディズと話していると、そんな息苦しさは感じない。
やっぱり、ディズは最高のパートナーだ。
これからもディズと一緒に冒険できる幸せを噛みしめていると――。
「あのっ!」
女性が俺たちに声をかけてきた。
次回――『弟子入り志願(上)』
女性は弟子入りしたいみたいです。
ロイルに? ディズに?




