表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/148

026 スタンピード後(下)

「ええ。ロイルには2つ欠けているものがあるわ」

「な、に?」


 ディズが2本指を立てる。


「ひとつ目は常識よっ! さっきも言ったけど、自分の魔法が規格外だとちゃんと理解することっ!」

「……う、ん」

「そして、もうひとつ。コミュ力よ。ちゃんと他の人と話せるようになることっ!」

「…………ぅ」


 非常識にコミュ障――。

 

 予想していたとおりだが、痛いところを突かれた。

 俺は冒険者のことをなにも知らない。

 ディズは俺のつたない言葉を理解してくれるが、他人とはまだ、まともに話せない。


 自分でもなんとかしないと思っていたところだ。


「あせることはないわ。ゆっくりやっていきましょ。私が練習相手になるから。ねっ?」

「う、ん」


 ディズはニッコリと笑顔を浮かべる。


「まずは、常識からだけど――」

「ごめっ……ん」

「謝る必要はないわ。ロイルが悪いわけじゃないのよ。環境が悪かっただけ。誰も教えてくれなかったんでしょ?」

「う、ん」


 田舎の農村で育った俺はちゃんとした教育を受けていない。

 15歳で騎士団員になってからも、門番として突っ立っていただけで、誰かになにかを教わったこともない。

 北門で働く人たちの会話を耳にしたくらいで、後は冒険譚ファンタジーで仕入れた作り物(フィクション)の知識ばかり。

 この街に来てから初めて、実際の冒険者と接したくらいだ。


 魔法に関しても同様だ。

 魔力を扱えるようになって、魔法のことも勉強したくなった。

 だけど、魔導書はタブレットでは読めない。

 専用の紙に魔力インクで書かれたものしかないのだ。

 門番の安月給では買えないほど高額な上、特別な言語――魔法語というらしい――で書かれている

 なので、魔法の勉強は諦めたのだ。


 俺の魔法は全部独学だ。

 だから、ディズが言う通り、非常識なんだろう。

 それに独学と言えばカッコいいけど、やったのは魔力をこね回していただけ。

 後は、「これできそうかな?」と思ったことを試しただけ。

 そのおかげで、いくつか魔法を発明したが、きっとどれも基本的なものばかりだろう……そう思っていた。

 俺もファイアボールを飛ばしたり、風の刃でモンスターを切り刻んだりしたかったけど、そういう魔法は一切ダメだった。

 なので、俺の魔法はたいしたことないのだと思っていたが、ディズが言うには、それは大間違いだと。


 こう考えてみると、俺は本当になにも知らないんだな……。

 ディズに指摘されるまで、そのことすら気づかなかった。


 ――ディズによる魔法講座は続く。


「どんな魔法でも、魔法を使うには魔力を消費するの。いい?」

「う、ん」


 今回みたいな大規模な魔法を使うと、身体の中からなにかが抜け落ちる感覚がある。

 これが魔力を消費するということなのだろう。


「だから、魔法は使える回数に上限があるのよ。いい?」

「……えっ…………?」


 上限があるなら、使いすぎると使えなくなるはずだ。

 だけど、俺はそんな体験をしたことがない。

 魔法はいくらでも使えると思っていた。


「まさか、自覚ないの?」

「う、ん」

「あららら、これは想像以上だわ」

「ごめっ……ん」

「アンタは悪くないわ。きっと、使い切れないほどの魔力量なのね……」

「…………」


 呆れられてしまった。


「一度、魔力量を量ってみるべきねっ」

「はか……る……?」

「あら、そこから? これは相当頑張らないといけないわね」

「うっ……う、ん」

「魔力量を量る魔道具があるのよ」

「あっ…………!」


 そういえば……思い出したっ!

 騎士団に入団したばかりの頃、いろいろな検査を受けたが、そのときに魔力量も量られたっけ。


 たしか、とんでもなく低い数字だった。

 そのときの担当官は「まあ、そのガタイがあれば、魔力がなくても問題ないから気にするな」と励ましてくれた。

 だが、その後、俺が武器を使えないとわかると、「おい、この役立たずのデカブツを連れてきたの誰だよッ!」と急に手のひらを返されたことをよく覚えている。


 あれから15年間、暇な仕事中はずっと魔力をこねて遊んでいたんだ。

 入団時に比べたら、俺の魔力量はだいぶ増えただろう。


 どれくらい増えたのか――楽しみだっ!


「ギルドにも置いてあるはずだけど……止めた方がいいわね」

「……どう、し……て?」

「大騒ぎになるわ。いろんなパーティーから勧誘されたり、面倒な依頼を押し付けられたり。そんなのは望まないでしょ?」

「う、ん」


 さすがディズだ。

 俺の気持ちをよく理解している。


 これもテンプレだ。

 主人公のチート能力が発覚し、厄介な状況に追い込まれ、身動きが取れなくなる。


 ずっと不思議に思っていた。

 なんで、厄介事を避けたいはずの主人公が、不用意に他人に能力を明かしてしまうのか。


 ――そこはもうちょっと警戒しろよっ! バレないように隠せよっ!


 何度そう思ったことか……。


 その点、常識人のディズは慎重だった。


「後で魔道具屋で買おっか。そんなに高くないし、伯爵からもらったお金も残っているしね」

「う、ん」

「まずは魔力量を量ろっ。それから、いろいろ教えてあげるわね」

「あり……が……と」

「えへへ。お礼を言うのはこっちよ。ロイルと一緒だと、毎日楽しいものっ!」


 ディズが笑顔を浮かべる。

 輝かんばかりの魅力的な笑みに俺の心は掴まれる。


「さてと、こっちに報告が届くまで、まだ時間がかかるわね。今、どんな感じなの? ロイルの探知魔法で調べられるでしょ?」

「う、ん。……ちょっと……まっ、て」


 さっそく、【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】を発動させる。


 森にいるのは……50人くらいか。

 森に向かっているのも……同じくらい。


 それと……。


「森……50人。 むか、ってる……おな、じ」

「へえ、百人もいるんだ」

「あと…………」

「まだいるの?」

「5人…………こっち……戻る」

「なるほどね〜。だいたい分かったわ」

「う、ん」

「いきなりオークたちが消えたから、森を調査しているのね。それと、報告のために5人戻ってきている。そんなところかしら?」

「た、ぶん」

「報告が戻って来るのに後どれくらいかかりそう?」

「あと……1キロ…………」

「じゃあ、10分もかからないわね。どうする? ここで待ってダンジョン行く? それとも、魔力測定具を買いに行く?」」


 うーん。

 どっちも捨てがたい。

 早くダンジョンに行きたいけど、自分の魔力を測ってみたい気持ちもある。


 でも、どちらかと言えば……。


「ダ――」

「おっけー、じゃあ、スタンピード騒ぎが収まるまでここで待ってよっ」


 俺が言い終わるまでもなく、ディズが言い切った。

 というか、俺、一文字しか口にしてない。

 なんで、それだけで俺の考えがわかるんだ……。


 あらためて、ディズの察知力の高さに恐れ入る。

 今まで誤解されっぱなしの人生だった。

 それでますますしゃべるのが苦手になり……という悪循環だった。


 でも、ディズと話していると、そんな息苦しさは感じない。

 やっぱり、ディズは最高のパートナーだ。


 これからもディズと一緒に冒険できる幸せを噛みしめていると――。


「あのっ!」


 女性が俺たちに声をかけてきた。

 次回――『弟子入り志願(上)』


 女性は弟子入りしたいみたいです。

 ロイルに? ディズに?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ディズちゃん可愛い✨✨
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ