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024 スタンピード(下)

 冒険者ギルドを後にして、門に向かう。

 いち早く駆けつけようと走る冒険者。

 急ぎ足で向かう冒険者。

 みな、スタンピードのことしか頭にないのだろう。


 彼らに交じり、ディズに手を引かれていく。

 だが、俺は別のことを考えていた。


「ダンジョン……ダンジョン……」

「なにブツブツつぶやいてるの?」

「いっ、いや……」


 頭の中がダンジョンでいっぱいだったので、つい口から漏れていたようだ。

 みんなはスタンピードだって大騒ぎしているが、正直、俺はあまり気が乗らなかった。


 なにせ、オークなんて門番時代に散々倒してきた。

 サラクン北のウルドの森で定期的にワラワラと湧いたからだ。


 スタンピードで数は多いだろうが【すべてを穿つ(オムニス・カウウス)】一発で倒せるザコだ。

 俺が出なくても、一時間もあれば討伐し終わるはずだ。


 だけど、これが片付かないとダンジョンには潜れない。

 気乗りはしないが、サクッと終わらせよう。


「ほらっ、ロイル、さっさと行こ」

「ちょ、ちょっと……待って」


 ディズは俺の腕を掴み、急かしてくる。


「ん? どうしたの?」


 ディズの問いかけには答えず、俺は体内魔力を練っていく。

 場所はエストの森。

 方角は南東で。

 距離は2キロくらいで。


『――【世界を覆う見えざる手ムンドゥス・コゥヴェ・インヴィジ・マヌス】』


 早くダンジョンに向かいたいので、今回も詠唱はナシだ。


 確認できたのは62体。

 うーん、思ったより少ないな。

 大騒ぎしているから、もっと多いかと思ったよ。

 それでも、ウルドの森にいた集団よりも数は多い。

 ちょっと強そうなのも何体かいる。

 ハイオークかな?


 都合がいいことに、冒険者たちは森の周辺で警戒していて、森の中には誰もいない。

 これなら誤射の心配もない。


 この前ハイオークに打ったときより()()()いるから、威力調整も簡単だ。

 この前みたいにクレーターを量産することもないだろう。

 多少、木が倒れたり、地面がえぐれたりするかも知れないが、森の中だから構わないよな……。


 ――まあ、大丈夫だろ。


「ねえ、どうしたの?」

「だい、じょ、ぶ……もう……おわる」

「えっ?」


 これくらいなら、一網打尽だ。


『――【すべてを穿つ(オムニス・カウウス)】』


 魔力を込めた指先から、無数の魔力弾が飛んで行く。

 近くに大勢の人がいるが、魔力弾は見えないので、俺がやったとは誰も気づかないだろう。


「ねえ、今、なんかした?」

「うん……もう……おわっ、た……」

「えっ!?」

「ぜん、ぶ……やっつ、けた」

「本気なのっ!?」

「う、ん」

「いったい、なにしたのよ?」

「ハイ、オーク…………のときと……同じ」

「そっ、そう……」

「もど、ろ?」

「えっ、ええ……」


 なぜかディズはひどく驚いているようだ。

 フローラを助けたときにも【すべてを穿つ(オムニス・カウウス)】を使ったから、知っているはずなのに。

 なにを驚いているんだろ?


 ――まあ、これで一件落着。さあ、ダンジョンだっ!


 スタンピードが解決したので、ギルドに戻ろうと振り返ったら、一人の女性が立ち尽くしていた。

 その顔は怯え切り、歯をカチカチと鳴らして震えていた。


 怖がりさんかな?


 物語から抜け出してきた魔法使いみたいな格好で、手に杖を持っている。

 きっと冒険者に成り立てなんだろう。

 初めてのスタンピードに怖気づいているに違いない。


 そして、なぜか、俺の方を恐ろしいものでも見るようにしている。

 きっと、俺の無駄にデカい図体のせいだ。

 単なる見掛け倒しなんだけど、門をくぐる旅人にも怖がられたもんなあ。


 でも、モンスターは俺なんかよりももっと怖いだろう。

 冒険者としてやっていくなら、彼女も早く慣れないといけない。


 彼女に「俺のガタイくらいでビビッてちゃダメだよ」と伝えたかったが、上手く言える気がしないので、黙って横を通り過ぎた。


「ひっ!」


 彼女が小さな悲鳴を上げる。


 そんなに怖いのかな?

 ちょっと傷つくな……。


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ロイルは知らなかった。

 怯えていたのは、この街一番の魔法使いであるサンディ。

 先日、ロイルの魔力量に震えていた女性だ。


 普通の冒険者は気がつかなかった。

 だけど、彼女は、彼女だけはロイルの【すべてを穿つ(オムニス・カウウス)】の魔力を感じ取った。


 ロイルのすぐ後ろに立っていたこと。

 この前からロイルの動向を気にしていたこと。

 そして、彼女が魔力感知に長けていたこと。


 この3つが重なり、彼女は感じ取った。

 そして、その信じられない魔法の威力に震え上がったのだ。


「ばけもの……」


 ロイルが立ち去った後、サンディはそう呟くと、その場にへたり込んでしまった。

 次回――『スタンピード後(上)』

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回もめちゃくちゃ面白かったです✨✨
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