023 スタンピード(中)
「エストの森でスタンピードだッ!!! オークの大群が襲ってくるッ!!!」
――男がもたらした一報にギルド内が騒然となる。
エストの森――街の東側に位置する森で、俺たちがフローラ嬢の馬車を助けた場所だ。
普段は比較的安全な場所で、街道を通ってもモンスターに襲われることは滅多にない。
あのときのハイオーク出現は今回のスタンピードの前兆だったのだろう。
ハイオークの件は、伯爵経由でギルドに伝わっている。
調査に向かった冒険者がスタンピードに気づいたのだろう。
スタンピードについて、俺はひと通り勉強した。
なにせ、スタンピードに備えるのが俺の唯一の役目だったから。
早期発見ができたのは不幸中の幸いだろう。
下手したら、街のすぐそこに近づくまで気づかない場合もある。
そして、街がモンスターどもに蹂躙されることも。
最悪の事態を想像し、みなが慌てるのも当然だ。
冒険者たちは色めき立ち、ギルド職員たちも手を止める。
職員の一人が駆け込んだ男から詳しい話を聞き出した後、数人で話し合いを始めた。
そして――。
「緊急依頼です。Cランク以上の冒険者はエストの森に向かい、オーク討伐の任務に当たってください。現場での指示はAランクパーティー『紅の牙』に従って下さい」
ギルド職員の女性がギルド中に響き渡る大声を上げた。
先日、冒険者登録をした際にお世話になったモカさんだ。
今日は、切羽詰まった表情をしている。
「おう、行くぞッ!」
「オークめ、ぶち殺してやるッ!」
「この街は俺たちが守るっ!」
血気盛んな冒険者たちは、早くも勇んで飛び出していった。
冒険者に成り立ての俺はFランク。
緊急依頼の対象ではない。
なにやら、オークが大量発生したらしいが、しょせんはオークだ。
早期発見できたので、なんの問題もないだろう。
それよりも俺は――ダンジョンに行きたいっ!
「あのぅ……」
「なんですかッ?」
「ひっ……」
声をかけたモカさんはピリピリしていて、つい尻込みしてしまう。
だけど、俺は決めたんだ。
これからは臆さないで他人とコミュニケーションを取っていくと――。
俺は勇気を振り絞って、モカさんに思いを告げる。
「ダンジョン……行き、たい」
「ダンジョン? はあ? こんなときになにを言っているんですかっ!」
「えっ……」
厳しい目でモカさんに叱責された。
「スタンピードを食い止められなかったら、この街が襲撃されるんですよっ。Dランク以下の冒険者もいざという時に備えて、待機していて下さいっ」
「でっ、でも……」
どうしてもダンジョンに行きたい俺は、食い下がろうとしたがモカさんに睨まれて、それ以上なにも言えなかった。
モカさんコワイ。
「ジャマしちゃって、ごめんなさいね。ほら、ロイル、行くわよ」
「あっ……」
ディズに腕を捕まれ、カウンターから離れる。
「ダンジョンに行きたいって気持ちは分かるけど、ちょっとは考えなさいよ」
「でも……」
Aランクパーティーもいるし、大勢の冒険者が飛び出していった。
オークの群れくらいすぐに全滅できるだろう。
そこまで心配する必要はないと思うのだが……。
「スタンピードが終わるまで待つしかないわね。今、ダンジョンに行っても入れてもらえないわよ」
「うぅ…………」
「それとも、ロイルもオーク退治に向かう? ロイルなら、余裕でしょ?」
ディズの言葉に、俺はいいアイディアを思いついた。
「スタン、ピード……収まったら……ダンジョン、行ける、よね?」
「ええ、やる気になった?」
「う、ん」
「じゃあ、私たちも参加していいか、聞いてくるわね」
口下手な俺の代わりに、ディズが受付嬢に訊いてくれる。
「ねえ、その緊急依頼はFランクでも受けれるの?」
「それは……可能ですが、危険過ぎます。この街で待機していてください……あっ!」
最初は「なにをバカなことを」といった表情だったモカさんが、並び立つ俺とディズの顔を見て目を見開いた。
「あなたたちは、この前ミゲルさんに勝った……でしたら、大丈夫かもしれませんね。ですが、決して無理はしないで下さいね」
「ええ、もちろんよ」
お墨付きも得たところで、受付カウンターを離れる。
「さあ、許可は下りたわよ。アンタが加われば、早く終わるでしょ。そうしたら、ダンジョンに行こっ?」
「うっ、うん……ディズ」
「なに?」
「あり、がと……」
「いいって、いいって。その代わり、カッコいいとこ見せてねっ!」
「うん」
「ほらっ、行こっ!」
ディズに手を掴まれ、ギルドの外に出た――。
次回――『スタンピード(下)』
ロイル、スタンピードに参戦!




