020 冒険者の洗礼(中)
「おれ、が……」
格好良く「俺がやる。ここは任せろ」と言いたかったが、案の定、言葉が出てこなかった。
だけど、これだけでディズは察してくれたようだ。
俺のことを見上げ、「うん、任せたっ!」と笑顔を見せる。
その笑顔に勇気づけられた俺は、前に出てミゲルと対峙する。
「おっ、おまえか……」
「…………」
ミゲルは顔をしかめた。
相手が美少女じゃなくて、おっさんなのが気に食わないんだろうか。
「名前は?」
「ロイル……」
「そうか……」
ミゲルがどう思うかなんて知ったこっちゃない。
俺は無言で槍を構え、戦意を示す。
ハッタリなのだが、ミゲルは半歩下がった。
「いく……」
俺の言葉に、ミゲルも剣を構える。
「始めっ!」
誰かが開始の合図を出した。
俺もミゲルも武器を前に構えたまま動かない。
勢いでこの場に出てしまったが――正直、俺は困っていた。
打つ手がないのだ。
なぜだか理由は分からないが、俺は武器の扱いが致命的だ。
俺が槍を振るえば、槍は俺の手を離れ、あらぬ方向へ飛んでいってしまう。
かといって、魔力で攻撃するわけにもいかない。
ハイオークを倒した【すべてを穿つ】を使えば、間違いなく勝てる。
だけど、俺の魔力攻撃は手加減が出来ない。
俺が攻撃した次の瞬間、ミゲルの身体はきれいさっぱり消失してしまう。
ただの腕試しで人を殺すわけにはいかない。
ハッタリで向こうが下りてくれることを期待したのだが、さすがはベテラン冒険者。
そんなに甘くはなかった。
さて、どうしたものか?
とりあえず防御だけは固めておこう。
『――【絶対不可侵隔絶空間】』
小声でつぶやくと同時に、フルプレートアーマーと兜を魔力の膜で覆う。
膜は薄く、目に見えず、外に魔力が漏れない。
そのように改良したのだ。
改良以前は、勘のいい人なら違和感を覚えるようだった。
それを聞きつけてきた上官のゲララに「なんかわからんが、サボるんじゃねえ」と理不尽に怒鳴られた上、給料を差っ引かれた。
それで周囲にバレないように改良したのだ。
それ以来、誰からも気づかれないようになった。
だから、ギャラリー含め、誰も俺の魔法には気づいていないだろう。
門番時代、俺の窮地を何度となく救ってくれた防御魔法だ。
これで、たいていの攻撃は防げる。
攻撃が通じなければ、ミゲルもそのうち諦めてくれるだろう。
俺も動かず、ミゲルも動かない。
そんな時間がしばらく続き――。
「早くしろ〜!」
無責任なヤジが飛ぶ。
「チッ――」
ミゲルが吐き捨て、突進してきた。
俺は動かない。
ミゲルの迫力に腰が引けそうになるが、それでも動かない。
本当は逃げ出したいが、根性で動かない。
下手に動いたら、素人だとバレてしまうからだ。
だから、俺は動かない。
その程度の攻撃は動くまでもない――と強者の風格をかもし出すために。
兜をかぶっていてよかった。
もし、素顔をさらしていたら、ビビっているのがバレバレだったところだ。
俺の泰然自若な態度に、ミゲルは一瞬ひるんだ表情をみせるが、それはすぐに消え去る。
そして、勢いそのまま、鎧の関節部を狙って連続で突きを放ってくる。
だが、プレートアーマーの弱点である関節部であっても、魔力で覆ってあるのでノーダメージ。
ミゲルの刺突はキィンと高い音で弾かれる。
「クソッ――」
その後もあの手この手で攻撃してくるが、俺は突っ立っているだけ。
【絶対不可侵隔絶空間】がすべてを弾き返してくれる。
剣での攻撃が通じないと悟ったミゲルは、戦法を切り替える。
肩を前に突き出し、俺目がけて駆けてくる。
「うおりゃああああ!」
裂帛の気勢とともに体当たり――俺を転ばせるつもりだろう。
狙いは悪くない。
フルプレートアーマーは鉄壁の守備力を誇るが、その重さが弱点になる。
一度転んだら、起き上がるのは容易ではない。
狙いは悪くないが、相手が悪かった。
ミゲルも180センチ80キロくらいの巨体だ。
普通の相手だったら、確実に倒れていただろう。
だが、俺は150キロ。
鎧の重さを含めれば、ミゲルの倍以上ある。
その上、【絶対不可侵隔絶空間】が衝撃をはね返す。
結果――弾き飛ばされたのはミゲルの方だった。
突進の勢いそのまま、ミゲルは地面を転がる。
ミゲルが起き上がる前、その首元に槍を突きつける。
「……まだ……やる?」
「……………………降参だ」
ミゲルは負けを認め、うなだれた。
次回――『冒険者の洗礼(下)』
【絶対不可侵隔絶空間】が門番時代、どんな窮地を救ってくれたのか?
次回、明らかになります。




