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146 ロイル、絡まれる

「モカ、壁は適当に埋めとけ。後で説明するけど、冒険者たちには『なんでもない』ってごまかしておけ」

「はっ、はい。わかりました」

「とはいえ、あれだけの音だもんなあ。ごまかしきれんよなあ……」


 ガラップは頭をかいて、「まいったなぁ」とぼやく。


「まあいいや、お前たちは帰っていいぞ」


 許可を得て、俺とサンディはギルマスの部屋を後にする。


「やっぱり、師匠は凄いですっ! 私だったら、あそこまでの威力は出せないですよ」


 一方のサンディは感心している。

 やらかしたことは気にしておらず、魔法のことしか頭にないのは相変わらずだ。


「では、私はディズさんに合流します。師匠、手続きはお願いします」


 サンディは続いてペコリと頭を下げた。


「うん、わかった」


 最近はできる限り、ギルドのやり取りは俺がやっている。

 コミュ力アップのためだ。

 今では、それなりに慣れてきた。


 しばらく列に並び、俺の番がやってきた。

 相手はモカさんだ。


「あっ、ロイルさん!」

「さっきは、ごめ、ん」

「ああ、壁のことですか? どうせ、ギルマスがなんかやったんですよね。気にする必要ないですよ」


 あれは明らかに俺が悪かったのだが……。

 やっぱり、ガラップはそういう扱いらしい。


「これ、今日の、納品」


 この通り、定型文なら問題なくしゃべれるんだ。


「はい、お預かりしますね」


 モンスターが落とした魔石やら、素材やらを渡すと、モカさんは一通りの処理を済ませる。


「はい、こちら、本日の報酬になります。ご確認ください」

「うん、ありが、と」


 報酬の金額が間違っていないかチェックしていると、モカさんが声をかけてきた。


「ロイルさん、明日もダンジョンですか?」

「いっ、いや……やっ、休む」


 不意打ちにはまだ、ちゃんと対応できない。


「なら、よかったですっ!」

「ん?」


 なにがよかったんだ?

 「暇なら、雑用代わってください」とかじゃないよね……。


「実は明日、私も休みなんです」

「う、ん?」

「それで、よかったら――」

「おいっ!」


 モカさんの言葉は、男の怒声に遮られた。

 後ろを振り向くと、二十歳くらいのガラの悪そうな男がこちらを睨みつけていた。


「いつまでチンタラやってんだよっ!」


 ああ、これは因縁つけられるってヤツかな?

 門番時代はよくあったけど、冒険者になってからは初めてだ。

 この街の冒険者はいい人ばっかだからね。


 このチンピラっぽい男は見覚えのない顔だ。

 つばを飛ばしながら、俺に吠えかかる。


「受付のお姉さんが困ってるだろッ! さっさとどけよッ!」


 ああ、やっぱり、俺に絡んでるな。

 でも、大丈夫。

 あっ、これ『冒険者入門』でやったところだ!


 ――暴言を吐かれたとき、どう応じるか。冒険者としての器量が試されます。

 ――誇りのない者は汚い言葉で他人を傷つけます。それをカッコイイと思っているのです。

 ――そのときどう反応するか、それはなにを傷つけられたか次第です。


 ――もし、それがあなたにとって大切なモノであれば、決して譲っては意かません。


 ――そこで一歩引くような者は、冒険者ではありません。

 ――大切なモノを守れない者は、冒険者ではありません。


 ――ですが、そうでない場合、相手をしてはなりません。

 ――若いうちはそれがカッコ悪いと思うかもしれません。

 ――だが、些末なことを流せる方がカッコイイといずれ気づきます。


 うん。


 今の言葉は俺に怒りをぶつけただけで、モカさんになにか言ったわけじゃない。

 もし、モカさんを傷つける発言だったら、一歩も引く気はない。

 だけど、俺に向かって暴言を吐かれたところで、痛くもかゆくもない。


「ああ、ごめん。すぐ……どく」


 俺は報酬をマジック・バッグに仕舞い、男に場所を譲る。


「チッ、腰抜けがッ」


 すれ違いざまに、男が吐き捨てる。

 我慢我慢。


 ――低俗な相手に合わせたら、自分も同じレベルになってしまいます。

 ――あなたの矜持はそんなに安いのですか?


 深呼吸をして、気持ちを落ち着ける。


「あのー」


 また、後ろから声をかけられた。

 今日は忙しいな。


 その声は若い女の子のものだった。

 冒険者に成り立ての二人の少女だ。

 まだまだ、初々しく、将来に胸を輝かせている年頃だ。

 俺が「役に立たないから突っ立ってろ」って言われた年頃だ。

 ちょっと羨ましい……。


「えーと、なに?」


 できるだけ怖がらせないように心がけたが、ちゃんと笑顔を作れただろうか?


「あっ、あの」

「こっ、これ」


 二人とも顔が赤い。

 熱でもあるのかな?


 などと考える鈍感系主人公ではない。

 これ、明らかに好意を持たれてるよなあ。

 どっかで、美化された俺の話を聞きつけたんだろう。


 多分、キミたちが思い描いているロイルは、ここにいるコミュ障なオッサンとは別の人物だよ――そう伝えたいが、どう言えばいいか、俺には分からない。


「「これ、読んでくださいっ!」」


 差し出された2つの封筒。

 女の子らしい、カワイイ封筒だ。


 恥ずかしかったのだろう。

 俺が受け取ると、二人は走り去っていった。


 恋愛小話ラブコメじゃん!

 恋愛小話の主人公じゃん!

 ついに俺にモテ期が……。


 などといい気分でいるとさっきの男が――。


「おう、そこのデカブツ――」

「――よう、ロイルっ!」

「ミゲル」


 だが、そこに割り込むかたちで、後ろからパンと背中を叩かれる。

 この街に来たときからお世話になっている先輩冒険者のミゲルだった。

 それを見て男は、チッと舌打ちして去って行った。


「カッコ良かったぜ」

「な、に?」

「俺も昔は血気盛んでな。ああいう輩には突っかかっていった。それがカッコイイと思ってた」


 意外だった。

 彼は落ち着いた大人の冒険者だと思ってた。

 だけど、誰でも若いときはあるもんな。


「だけどな、ある先輩に言われたんだ。お前の強さは誰かをやっつけるためにあるのか? それとも、誰かを守るためか? ってな」


 かっけー。

 その先輩かっけー。

 メモメモ。


「アイツらは最近、この街にやって来た。目立っているお前さんのことが気に食わないんだろ。どうせ、すぐにいなくなる」

「なんで、わかる、の?」

「あの調子じゃ誰も相手にしない。どうせ、どっかから追い出されてきたんだろ」

「ああ、そっか」

「まあ、また絡んでくるかもしれん。気にとめておけ」

「うん、ありがと」

「なに、そう思うなら、一杯おごってくれよ」

「もち、ろん」


 こうやってミゲルはよく俺を誘ってくれる。

 もちろん、俺にたかってるんじゃない。

 いつもは「先輩の顔を立てろよ」って、おごってくれる。


 ミゲルと話しているうちに、さっきのイヤな思いはすっかり消えていった。

 ディズたちと合流してもいいが、今日はミゲルと過ごしたい気分だ。

 ミゲルと、それから、他の冒険者も交えながら、楽しい時間を過ごしてから、ほろ酔い気分で拠点に戻った。

次回――『ファンレター』

2月22日更新です。


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