145 ガラップに魔道具報告
「おいおい、まだ何日もたってないぞ。今度はどんな厄介ごとだ?」
ギルドマスターのガラップに思いっきり渋い顔で出迎えられた。
「まあ、座れや」
間にローテーブルを挟み、向かい合うソファー。
片方にガラップはドカッと腰を下ろす。
俺たちはガラップの向かいに座る。
俺が真ん中で、右にサンディ。左にリコだ。
「つーか、また両手に花か。しかも、違う子じゃねえか。モテる男は辛いなあ。お嬢ちゃんは?」
「Dランク冒険者のリコと言います」
「おいおい、こんな若い子までたぶらかして……お前さん、俺とたいして代わらん歳だろ」
「いえ、私が頼んでご一緒させてもらってます」
「はあ、羨ましいこって。女の子たち今は『ロイル、ロイル』ってお前さんの話で持ちきりだぞ。独り身の俺に対する当てつけか?」
「ガラップさん、リコちゃんがドン引きですよ」
サンディはガラップとつき合いが長いので容赦がない。
「おっ、おう。すまんかったな」
「いえ……」
初めて出会うギルマスを前に、リコは緊張しきっている。
肩書きは立派だけど、こんなオッサンだから、気にするだけ無駄だぞ。
「ガラップさんも人気ありますよ」
「ホントか!?」
見たことのない笑顔で喰いついてくる。
「ええ、男性陣に。ミゲルさんなんか『兄貴に一生ついてくぜ』って言ってますよ」
「……いや、男にモテてもなあ」
ガラップはガクッと肩を落とす。
「で、本題は?」
今の茶番は心構えの時間だったんだろう。
ガラップの口調が変わる。
「これ、を」
ローテーブルに二丁の魔銃を乗せる。
ガラップはそれを見てもほとんど表情を変えない。
だが、彼の眉はピクリと動いた。
「知ってる、みたい……だね」
「リコだっけ? これはお前のパーティーが?」
俺の問いには答えず、ガラップはリコに尋ねる。
「はい」
リコは頷いて、短く答えた。
「こっちも調査を始めたところだ」
やっぱり、耳に入っていたか。
これは思ってた以上に、広まっているようだ。
「リコのパーティーがピンチになり、そこをオマエらが助けたってとこか」
「ああ」
さすがの推理力。
こういうところは、ちゃんとギルマスだ。
「わかった。この件はこちらで手を打っておく。リコはもう、帰っていいぞ。二度と魔道具に手を出すなよ」
しっかりと釘を刺され、リコは退出した。
それから、ガラップは大きく息を吐いて、尋ねる。
「それで? これだけじゃないんだろ?」
勘弁してくれと顔に書いてある。
口を開いたのはサンディだった。
「師匠なら、魔道具の解析・改良ができます」
「なんだとっ!?」
思わずガラップは腰を浮かす。
「おいおい、本気かよ……」
額に手を当て、大きくため息をつく。
「なんで、俺がギルマスやってるときに、こう立て続けに厄介ごとが起こるんだ? なあ、サンディ、ギルマス代わってくれよ」
「みんなに好かれてるガラップさんにしか務まりませんよ」
「どうせヤローだろ? 誰か、いい女の子紹介してよ」
「それで、魔道具の話なんですが――」
ガラップの軽口には、2割くらい本音が込められていた。
サンディはそれを華麗にスルー。
「魔道具の仕組みは基本的に魔具に用いられている魔法陣と同じです」
「ああ、それくらいは俺も知っている。だけど、完全には一致しないんだろ」
「その通りです。どの魔道具も一部だけ理解できないパーツがあるんです。魔法陣と似ているようで、まったくの別物。魔力を込めても一切作動しない部分」
「その正体が判明したのか?」
「はい、解析には時間がかかりますが、とっかかりはつかめました。師匠」
「ん?」
サンディが魔銃を手渡してきた。
「少量でいいから魔力を流してみてください」
「でも……」
「大丈夫です。やってみてください」
「うん」
さっきもやってみてもダメだったから、今回も無駄だと思うけど。
そう思いながら、魔力を流すと――。
「うん。やっぱり、ダメ。途中で……とまっちゃう」
予想通りの結果になったが、サンディは満足げに頷く。
「師匠が示したように、ここには魔力が流れません」
「おう、みたいだな」
サンディがガラップにその箇所を示してみせる。
「師匠、ここは魔力が流れないんじゃなくて、魔力は流れないんです」
「あっ!」
分かった。
サンディの言葉で、どうすればいいか分かった。
俺の答えが正しいか、魔銃を両手に握り、試しにやってみると――。
「うん」
どうやら、正解だったようだ。
魔銃に力が集まり、働き出すのが分かる。
興奮した俺は大切なことを忘れていた。
「ちょっ、おいっ、こっち向けんなっ!」
「あっ!」
魔銃はその名の通り、魔力を弾として発射する道具だ。
それが発動したら――。
――ドオオオォン!
「うおぉ……死ぬかと思ったぜ」
「あっ、ごめん……なさ、い」
発射した魔弾はガラップの頬を薄く斬り裂き、背後の壁に大穴を空いていた。
危ない危ない。ガラップの声かけが後ちょっと遅かったら、壁ではなくガラップの頭に大穴が空くところだった……。
「どっ、どうしましたかッ?」
穴の向こうから受付嬢のモカさん顔を出し、安否を確認してくる。
「ああ、なんでもねえ。そっちは被害ないか?」
「いえ、ゴンさんの顔に破片が当たって鼻血だしてるくらいです」
「ゴンなら平気だろ。他に被害がなくてよかったよかった。なあ、ロイル、よかったよな?」
「あ、ああ……すまん」
ゴンさんごめんなさい。
誰かは知らないけど、後で菓子折り持ってこう。
ともあれ、たいした被害がなくてひと安心。
俺の胸の中は冷や汗ダラダラだった……。
次回――『ロイル、絡まれる』
2月15日更新です。




