表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/148

137 サンディとお出かけ

 メルキの大迷宮、第6階層ボス『虚ろな騎士(ヴォイド・ナイト)』を倒した俺たちは、翌日から第7階層攻略にとりかかった。

 今のところ、攻略は順調に進んでいる。


 魔力回復ポーションがぶ飲みでの攻略なので、今のところは赤字だ。

 だが、伯爵資金があるので問題ない。

 今は強くなることが最優先。

 お金は使い切るつもりで、出し惜しみしない。


 そして、今日は休日だ。


「行って、くる」

「いってらっしゃーい。サンディちゃんも楽しんでねっ」

「はいっ!」

「ディズ、も」

「フローラさんによろしくお伝え下さい」

「うんっ!」


 今日は朝から、俺はサンディと一緒にお出かけだ。

 一方、ディズは伯爵家令嬢のフローラと過ごす予定だ。

 本人曰く「フローラちゃんとデートだよ~」とのこと。

 本当に、二人は仲良しだ。


 拠点を出た俺は、サンディと並んで街中を歩く。


「師匠! 魔力が増えましたっ!」

「よかった、ね」

「はいっ! この一週間で40増えて、550になりましたっ!」


 サンディの魔力が増えた理由、そして、実力を出せなかった理由。それは――。


 ――魔力こねこねだ。


 一週間で40の増加。

 このペースだと、数年で過去の俺を追い抜きそうだ。

 さすがはサンディ。魔法のセンスは俺より上だ。


「すご、いね……俺……たった、5」


 俺も魔力回復ポーションをがぶ飲みしながら魔力こねこれをしたが、ほんの僅かしか増えていない。

 魔力量は増えるにつれて、上がりにくくなる。

 この調子だと、以前の9999になるまで、どれくらいかかることか……。


「早く、師匠の魔法が使えるようになりたいですっ!」


 彼女の魔力量的には、今の段階でもいくつかは使えるはずだ。

 ただ、魔力のコントロールが追いついていないようだ。


 二人並んで、目的地に向かって歩く。

 サンディは興奮して、ずっとしゃべりっぱなしだ。


 コミュ障の俺としては、一方的に話してくれる相手の方が楽だ。

 もちろん、気の利いた返しはできない。

 でも――。


 先日、俺はタブレットで、とある書籍を購入した。

 コミュ力をあげようと思って、俺も色々勉強してるのだ。

 その本のタイトルは『モテるための会話術』。


 いや、ちょっと待って欲しい。

 勘違いをしてもらっては困る。


 別にモテようという下心ではない。

 ただ、この本がランキング上位に入っていただけだ。

 決して、モテモテハーレムなど夢見てはいない。


 ともあれ、さすが人気なだけあって、分かりやすくためになる本だった。

 タブレットが普及する前には、こんなにお手軽に情報を得られなかった。

 便利な時代になったものだ。


 『モテるための会話術』の第1章は「モテるための相槌あいづち」だ。

 会話術の本ということで、面白トークの方法が書いてあるのかと思ったが――。


 ――まずは、相槌を覚えましょう。

 ――それを使い分けるだけで十分です。


 「えっ!?」と俺は拍子抜けした。


 ――無理して話を広げる必要はありません。

 ――多くの人は人の話を聞くより、自分の話を聞いてもらいたいのです。


 話し下手の俺には、ちょっと理解できない感覚だった。


 ――話し上手より、聞き上手になりましょう。


 そのための第一歩が、相槌を使いこなすことだそうだ。

 ちょうどいいので、サンディ相手に練習しよう。

 サンディなら、ちょっとやらかしても、許してくれる。

 最初に書かれていた「相槌のあいうえお」に挑戦だっ!


「あっ、ごめんなさい。私ばっかり話してしまって……」

「ああ、だい、じょ、ぶ」


 ――「あ」で相手の言葉を受け止める。


「もっと話しても平気ですか? 私、師匠ともっとお話したいですっ!」

「いい、よ。俺……楽しい」


 ――「い」で相手を肯定する。


「こねこねについてなんですが――」

「うんうん」


 ――「う」で続きをうながす。


「なんか、掴めそうな気がするんです」

「えっ!?」


 ――「え」で驚いて見せる。


「毎日、少しずつ、魔力が自分の身体になじんでくように感じるんです」

「おお、それは……すご、い」


 ――「お」で相手を褒める。


 サンディは嬉しそうな笑顔を返す。


 うん。とりあえず、こんなところかな。

 俺にしては十分な出来だ。さすが『モテるための会話術』だ。

 他にも相槌の「さしすせそ」も載っていたけど、今の俺にはまだ早そうだ。

 焦らず出来るところから、少しずつ学んでいけばいい。


 それからもサンディ主体で話し、俺は相槌の練習。

 しばらく歩いて、目的地に到着した。


「師匠、ここですっ!」


 サンディに案内されてたどり着いたのは、裏通りに構えている店だった。

 知る人ぞ知る魔道具店で、一見様いちげんさまはお断り。

 店主が認めた者でなければ相手にされないそうだが、サンディが一緒なので問題ない。


 店のドアを開けると、老婆がカウンターに座り魔道具をいじっていた。

 まさに、物語から抜け出したような正統派魔法オババだ。


 店内は狭く、暗い。

 俺たちだけでもう満員だ。

 俺は頭をかがめるなければならなかった。


「オババさん、こんにちは」


 サンディが挨拶すると、店主の老婆が顔をあげる。

 そして、顔をしかめた。

 突き刺すような視線で、俺を射すくめる。


「サンディ、それがこの前、言っていた男かい?」

「はいっ! 私の師匠ですっ!」


 老婆は冷たい声で告げる。


「サンディ、あんた騙されてるよ。その男を連れて帰りな」


 初対面にも関わらず、取り付く島もない。

 なぜか、俺は酷く嫌われているようだ。



楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m

本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ