137 サンディとお出かけ
メルキの大迷宮、第6階層ボス『虚ろな騎士』を倒した俺たちは、翌日から第7階層攻略にとりかかった。
今のところ、攻略は順調に進んでいる。
魔力回復ポーションがぶ飲みでの攻略なので、今のところは赤字だ。
だが、伯爵資金があるので問題ない。
今は強くなることが最優先。
お金は使い切るつもりで、出し惜しみしない。
そして、今日は休日だ。
「行って、くる」
「いってらっしゃーい。サンディちゃんも楽しんでねっ」
「はいっ!」
「ディズ、も」
「フローラさんによろしくお伝え下さい」
「うんっ!」
今日は朝から、俺はサンディと一緒にお出かけだ。
一方、ディズは伯爵家令嬢のフローラと過ごす予定だ。
本人曰く「フローラちゃんとデートだよ~」とのこと。
本当に、二人は仲良しだ。
拠点を出た俺は、サンディと並んで街中を歩く。
「師匠! 魔力が増えましたっ!」
「よかった、ね」
「はいっ! この一週間で40増えて、550になりましたっ!」
サンディの魔力が増えた理由、そして、実力を出せなかった理由。それは――。
――魔力こねこねだ。
一週間で40の増加。
このペースだと、数年で過去の俺を追い抜きそうだ。
さすがはサンディ。魔法のセンスは俺より上だ。
「すご、いね……俺……たった、5」
俺も魔力回復ポーションをがぶ飲みしながら魔力こねこれをしたが、ほんの僅かしか増えていない。
魔力量は増えるにつれて、上がりにくくなる。
この調子だと、以前の9999になるまで、どれくらいかかることか……。
「早く、師匠の魔法が使えるようになりたいですっ!」
彼女の魔力量的には、今の段階でもいくつかは使えるはずだ。
ただ、魔力のコントロールが追いついていないようだ。
二人並んで、目的地に向かって歩く。
サンディは興奮して、ずっとしゃべりっぱなしだ。
コミュ障の俺としては、一方的に話してくれる相手の方が楽だ。
もちろん、気の利いた返しはできない。
でも――。
先日、俺はタブレットで、とある書籍を購入した。
コミュ力をあげようと思って、俺も色々勉強してるのだ。
その本のタイトルは『モテるための会話術』。
いや、ちょっと待って欲しい。
勘違いをしてもらっては困る。
別にモテようという下心ではない。
ただ、この本がランキング上位に入っていただけだ。
決して、モテモテハーレムなど夢見てはいない。
ともあれ、さすが人気なだけあって、分かりやすくためになる本だった。
タブレットが普及する前には、こんなにお手軽に情報を得られなかった。
便利な時代になったものだ。
『モテるための会話術』の第1章は「モテるための相槌」だ。
会話術の本ということで、面白トークの方法が書いてあるのかと思ったが――。
――まずは、相槌を覚えましょう。
――それを使い分けるだけで十分です。
「えっ!?」と俺は拍子抜けした。
――無理して話を広げる必要はありません。
――多くの人は人の話を聞くより、自分の話を聞いてもらいたいのです。
話し下手の俺には、ちょっと理解できない感覚だった。
――話し上手より、聞き上手になりましょう。
そのための第一歩が、相槌を使いこなすことだそうだ。
ちょうどいいので、サンディ相手に練習しよう。
サンディなら、ちょっとやらかしても、許してくれる。
最初に書かれていた「相槌のあいうえお」に挑戦だっ!
「あっ、ごめんなさい。私ばっかり話してしまって……」
「ああ、だい、じょ、ぶ」
――「あ」で相手の言葉を受け止める。
「もっと話しても平気ですか? 私、師匠ともっとお話したいですっ!」
「いい、よ。俺……楽しい」
――「い」で相手を肯定する。
「こねこねについてなんですが――」
「うんうん」
――「う」で続きをうながす。
「なんか、掴めそうな気がするんです」
「えっ!?」
――「え」で驚いて見せる。
「毎日、少しずつ、魔力が自分の身体になじんでくように感じるんです」
「おお、それは……すご、い」
――「お」で相手を褒める。
サンディは嬉しそうな笑顔を返す。
うん。とりあえず、こんなところかな。
俺にしては十分な出来だ。さすが『モテるための会話術』だ。
他にも相槌の「さしすせそ」も載っていたけど、今の俺にはまだ早そうだ。
焦らず出来るところから、少しずつ学んでいけばいい。
それからもサンディ主体で話し、俺は相槌の練習。
しばらく歩いて、目的地に到着した。
「師匠、ここですっ!」
サンディに案内されてたどり着いたのは、裏通りに構えている店だった。
知る人ぞ知る魔道具店で、一見様はお断り。
店主が認めた者でなければ相手にされないそうだが、サンディが一緒なので問題ない。
店のドアを開けると、老婆がカウンターに座り魔道具をいじっていた。
まさに、物語から抜け出したような正統派魔法オババだ。
店内は狭く、暗い。
俺たちだけでもう満員だ。
俺は頭をかがめるなければならなかった。
「オババさん、こんにちは」
サンディが挨拶すると、店主の老婆が顔をあげる。
そして、顔をしかめた。
突き刺すような視線で、俺を射すくめる。
「サンディ、それがこの前、言っていた男かい?」
「はいっ! 私の師匠ですっ!」
老婆は冷たい声で告げる。
「サンディ、あんた騙されてるよ。その男を連れて帰りな」
初対面にも関わらず、取り付く島もない。
なぜか、俺は酷く嫌われているようだ。
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