136 第6階層ボス戦
このメルキ大迷宮について、簡単に説明しよう。
このダンジョンでは偶数階層にボスモンスターが出現する。
冒険者ランクはこのボスモンスターに対応している。
第2階層のボスを倒せたらDランク相当。
第4階層のボスを倒せたらCランク相当。
というわけで、俺たちがこれから挑む第6階層ボスはCランク冒険者にとっての壁になる。
こいつを倒せたら、Bランク冒険者相当だと認められるのだ。
今日の目標はコイツを倒すこと。
「じゃあ、行こ」
「よーし!」「はいですっ!」
ボス部屋の大きな扉を開く――。
現れたのは鈍色に光る金属鎧の巨体。
まるでちょっと前の俺そっくりだが、兜の中から赤い光を放っており、人ではなくモンスターだとわかる。
――虚ろな騎士。
それが第6階層ボスモンスターの名前だ。
コイツを倒さなければ次の階層に進めない。
ヴォイド・ナイトは鎧自体が本体。中は空洞だ。
なので、鎧をぶっ壊せばいい。
俺たちを認識した虚ろな騎士は立ち上がり、腰の剣を抜く。
身長は俺より低く2メートル弱。
両刃の直剣は1メートル超え。
全身から威圧感を放っている。
うん。やっぱりフルプレートはカッコいい!
シンプルでストレートなカッコよさだ!!
だが――全身鎧は過去の俺だ。
その姿は今の俺には似合わない。
漆黒のローブを纏ったガチムチな巨漢。
これこそが俺だ!
…………まあ、まだ実力が伴っていないけどね。
ともあれ、コイツには生まれ変わった俺の最初の踏み台になってもらおう。
「ディズ、いい?」
「いつでもオッケー」
「サンディは、援護」
「はいですっ!」
サンディはその場で待機。
俺とディズはヴォイド・ナイトに向かう。
サンディは右手の杖で、サラッと魔法陣を描き上げる。
宙に浮かぶ、光る円環――魔法陣はいつでも発動可能な状態でスタンバイ。
その間にディズと一緒に距離を詰める。
ヴォイド・ナイトは剣を構えて立ち止まった。
先手を譲ってくれるようだ。
最初に飛びかかったのはディズ。
ガントレットで殴りつける。
そして、すぐさまバックステップで距離を取る。
ヴォイド・ナイトが振り下ろした剣は空振った。
ディズは深追いしない。
右に左に軽やかにステップ。
ヴォイド・ナイトの攻撃を華麗に躱し、ガントレットで受け流す。
ディズの役目は撹乱だ。
防御優先で敵の隙を作り出す。
ダメージを与えるのは俺の役目。
それが俺たちの連携方法だ。
ディズの動きを見て、俺は安心する。
さあ、俺は俺の仕事を始めよう。
詠唱開始だっ!
『
新しき神よ。
我は御身の定めし秩序に従う者なり。
御身より授かりし力。
ひとつにしてみっつ。
みっつにしてひとつ。
我は理に則る。
御身のために、力をここに行使する――。
』
俺が詠唱を唱える中、ディズは順調に戦いを進め、決定的なチャンスを生み出す。
大上段から振り下ろされた剣を右ステップで避ける。
ヴォイド・ナイトにとっては渾身の一撃だ。
その分、隙も大きい。
ディズは無防備な膝の裏側を蹴りつける。
巨体がぐらりと傾いた――今だ。
「サンディ」
『――ファイアボール』
最弱魔法だ。
ダメージを与えるのが目的ではない、敵の集中力を奪うためだ。
今のサンディは全力ではない。
全力を出したら、ヴォイド・ナイトごときは瞬殺。俺とサンディの訓練にならない。
そして、とある理由によって、サンディはごく少量の魔力しか使えないのだ。
火の球が飛んでいき、ヴォイド・ナイトの顔を直撃する。
大したダメージではないが、一瞬、ヴォイド・ナイトの気をそらす。
そのタイミングで、ディズは後ろに回り込み、ガラ空きの背中に拳を叩きつける。
ヴォイド・ナイトは完全に態勢を崩している。
さて、俺の出番だ。
ちょうど詠唱も完成するところ。
『
――我が魔力を獣の力に変えたまえ。
――【魔力変換:獣気】
』
俺は体内の魔力を獣気へと変換する――。
この世界には6つの力がある。
基本は4つ。
魔力。獣気。聖気。そして、邪気。
それに加えて、魔力、獣気、聖気を合成した――生気。
最後は生気に邪気を混ぜた――神気。
先のバロル戦で、俺はこれらの力の使い方をマスターした。
魔力を違う力に変換し、合成できるようになったのだ。
だが、今は魔力が少ないので、変換できるのは獣気のみ。
獣気を用いた戦い方――それが俺の新しい戦闘スタイルだ。
サンディからもらった漆黒のローブは高性能だ。
ローブのお陰で少ない魔力で獣気に変換できる。
生み出された獣気を使って――。
『――【獣化:猪】』
俺は猪へと姿を変える。
それと同時に、着ていた漆黒のローブが毛皮へと変化し、俺の身体を包み込む。
漆黒のローブは魔力消費を抑えるだけではなく、こんな効果もあるんだ。
理屈は知らないけど、最初はかなりビビった。
さすがはサンディがくれた一級品だ。
獣と化した俺は四つん這いになり、攻撃態勢に移る。
行くぞッ!!
『――【重突撃】』
俺はヴォイド・ナイトに向かって突進する。
獣人化できると知ったとき、俺はどの獣になるか考えた。
例え、獣の力を得たとしても、剣を振るえばすっ飛んでいく俺には、ヴォルクたちのように高度な戦闘は不可能だ。
俺にできるのは、力技だけッ!
獣人のパワーは俺の巨体と相性がイイ。
獣化のおかげで、デカかった俺の身体はさらにデカくなっている。体重も数倍だ。
四つ足のおかげで、走っても転ぶことはない。
後は全力の速さで突っ込むだけ。
いけええええええええぇぇぇ!
――ドオオオオン。
ヴォイド・ナイトの身体が衝撃ですっ飛ぶ。
倒し切ることはできなかったが、それなりのダメージは与えたようだ。
見ろッ!
ローブ姿なのに物理に全振りッ!!
これぞ、俺の新しい戦い方だッ!!!
魔力切れで、俺は元の姿に戻る。
今の俺では一撃が限界だ。
魔力回復ポーションを飲み干す。
もちろん、サンディからもらったヤツだ。
うん。美味い。
さて、仕切り直しだ。
ディズの撹乱が再開した――。
それからルーチンのように戦いは繰り返され――。
――ドシン。
ついに、ヴォイド・ナイトを倒した。
こちらは余力を残したまま、無傷の完全勝利だった。
次回――『サンディとお出かけ』
12月7日更新です。
楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m
本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m




