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135 俺の苦労を返せっ!

「ここ、ら……で、いい?」

「そうですね。ちょうど手頃だと思います」

「これ終わったら、お昼にしよ。お腹すいた」


 今はちょうど昼時。

 俺たちがいるのはメルキ大迷宮の第5階層だ。


 ここまでタブレットで『ダンジョン攻略ガイド』の地図を参考に、モンスターとの戦闘は最小限、最短経路でやって来た。


 第4階層まではモンスターが弱すぎて相手にならない。

 偶数階層に現れるボスモンスターを含め、サンディの魔法一発だった。


「あっ、ちょうどいいのがいますよ」


 サンディが指差す先、そこには手頃なモンスターが3体。

 あっちもこちらに気づいたようで向かってくる。


「サンディ、見て、て」

「はいっ!」

「ディズ、いこ」

「うん!」


 サンディの魔法だったら、近づかれる前に難なく倒せる相手だ。

 だが、俺とディズの二人だけで倒す。

 新しい戦闘スタイルの確認と力試しだ。


 そして、俺がリーダーとして振る舞う練習も兼ねている。

 これからは俺が二人に指示を出すのだ。


 普段しゃべるときは噛んだり、言葉に詰まったりする。

 だけど、戦闘時はそんな悠長なことをしてたら、命取りだ。

 だから、簡単な指示は間違えなく伝えられるよう、散々練習した。


 どうやら、俺のコミュ障はしゃべるときに色々考えすぎてしまうのが原因らしい。

 だから、考えずにしゃべれるようにすれば、いいそうだ。

 まだ口は上手く回らないけど、練習の成果はちゃんと表れている。


 まだ敵との距離があるので、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。

 それから、戦闘態勢を整え、敵を迎え撃つ――。




 ――俺たちは無傷でモンスターを倒した。


「楽勝だったね」

「う、ん」


 予想以上に上手くやれた。

 この調子なら、今日の目標は達成できそうだな。


「ロイルもいい感じじゃない」

「師匠の新しい戦闘スタイルもカッコいいですっ!」


 バロル戦の後遺症で、俺の規格外の魔力は失われてしまった。

 完全にゼロになったわけではないが、今までのように魔力頼みのゴリ押しはできない。

 だから、新しい戦闘スタイルに切り替えたのだ。


 俺はマジックバッグから魔力回復ポーションを取り出す。

 今の俺の魔力は20。騎士団加入当初の値しかない。

 なけなしの魔力は一回の戦闘で尽きてしまう。


 なので、一戦ごとにポーションを飲んで回復するしかない――激マズなポーションを。


 ……………………。


 初めて飲んだのはバロル戦の最中だ。

 そのときはまったく効果を感じなかった。


 だが、今の俺の魔力量だと、ちゃんと魔力が回復する――全部飲み干せば。


 俺は握りしめたポーション瓶をじっと見て、覚悟を決める。

 蓋を開け、目をつぶって、一気に――。


「あっ、師匠っ!」


 サンディに声をかけられるが、俺が反応できたのは、飲み干した――いや、流し込み終えた――後だった。


 げほっ。げほっ。げほっ。げほっ。


 うー、マズい。マズすぎる。


 すぐに水筒に手を伸ばし、果実水でポーションの残滓を洗い落とす。

 完全に後味がなくなるわけではないが、柑橘の香りでリフレッシュできた。


「――ふう」


 なんとかひと息つけた。

 そういえば、さっきサンディがなんか言いたそうだったな。


「ど、した……サンディ?」

「あのー、もしかして、そのポーション、錬金ギルドで買ったヤツですか?」

「う、ん……それが?」


 俺の言葉にサンディは「あちゃー」と額を押さえる。


「アイツら、効率厨なんですよね。魔力が回復すればそれで十分だろって、味のこと考えてないんですよ」

「う、ん」

「あんなゲロマズ、とても飲めないですよ。師匠は凄いです」


 敬意というか、畏怖というか、とんでもないヤツだという視線を向けられる。


「みんな、は……飲まない……の?」

「はい。普通は美味しくアレンジされたヤツを飲むんですよ」

「なん……だ、と!」


 衝撃の事実だ。

 こんなゲロみたいなのいつも飲んでるなんて、魔法使いの人たちはスゲえなあ、と尊敬してたのに……。

 騙された気分だ……。


「値段は倍くらいしますが、絶対にこっちの方がいいですよ」

「う、ん?」

「ほら、これ、飲んでみてください」

「う、ん」


 サンディがマジックバッグから取り出したポーションを渡してくれる。

 蓋を開ける前からわかる。

 オレンジ色のポーションはなんか、キラキラ輝いている。

 俺が飲んだ下水道の底から組み上げた色とは大違いだ。


 蓋を開けると、フレッシュな香り。

 それに誘われて、俺は一気にあおる。


 !!!!!!!!!!!


 天国が見えた!


「お、い、し、い」


 思わず「美味い、もう一杯」と言いたくなる。

 「いっそ殺してくれ」となる激マズポーションとは比べ物にもならない。


 このポーションを知ってしまった今では、絶対にあっちには戻れない。

 その分、お金はかかるけど、バロル討伐報酬の伯爵資金があるから、まったく問題はない。

 これなら、ポーションがぶ飲みの力技こねこねが可能だ。

 想定した以上のペースで魔力を増やせる。やったね!


「それ……どこ、で?」

「行きつけの店があるんです。魔技師のおばあさんなんだけど、錬金術も一流なんです」

「そこ……」

「はいっ。今度一緒に行きましょうっ!」

「あり、がと」


 それにしても――なんだったんだ。この数日間の俺の苦しみは。


 この街に戻って数日。

 休息の日々にも、俺は少しでも魔力を増やそうと「こねこね練習」を頑張ってきた。

 魔力がすぐ尽きてしまうので、何度も何度もポーションで回復しながら……。

 強くなるには、苦しい修行が必要なんだ、と自分に言い聞かせて……。


 あの地獄の日々はなんだったのか……。


「師匠、大丈夫ですか?」

「でも、良かったね。もう、飲まなくて済むんだよ」

「う、ん」


 そうだ。過去を悔いてもしょうがない。

 ディズの言う通り、前向きにとらえよう。


 これで――あの地獄とはお別れだっ!!!


次回――『第6階層ボス戦』

11月30日更新です。



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