134 『紅の牙』との別れ
「まあ、しゃあねえな。それで、どうすんだ? この街に留まってくれるのか? それとも、どっか行くのか?」
ガラップの問いに対する答えはすでに決まっている。
「この、街で……大迷宮……挑む」
「そうか。まあ、今すぐなにか頼んだりはしなから、好きに活動してくれ。その代わり、いざとなったら頼むぜ」
「うむ」
ガラップとの会談が終わり、俺たちは受付カウンターへ向かう。
「あっ、ロイルさんっ! それにお二人も」
受付嬢のモカさんが俺たちに気づき、声をかけてきた。
「あらあら、私たちはオマケ?」
「いっ、いえ、そんなことは」
ディズのいじわるな言葉に、慌てるモカさんは強引に話題を切り替えた。
「そっ、それよりも、冒険者タグの更新を」
「そう……だ……ね」
モカさんは俺とディズが渡した冒険者タグを魔道具に当てて、それから返却する。
「おめでとうございます。これでAランク冒険者ですねっ! つい、先日冒険者登録したばかりなのに、凄いですっ!」
モカさんは興奮気味だ。
なぜか、俺に手渡すとき、ギュッと手を握られた。
お釣りを高いところから落とされた門番時代とは大違いだ。
慣れないことに心臓がバクバクする。
やめてくれ、コミュ障の俺にはダメージが大きすぎる。
これじゃあ、勘違いしちゃうじゃないか。
いやいや、ダメだダメだ。
これはAランク冒険者の誕生を喜び、テンションが上ってるだけだ。
ギルド職員としての、冒険者への好意に過ぎない。
モカさんの顔が赤くなっているようにも見えるが、気のせいに違いない。
決して浮かれてはいけない。
俺はすぐに気持ちを切り替え――。
「こっ、これからも……よろ、しく」
「はいっ! 応援しています」
手をぶんぶんと振るモカさんのもとを離れると、ディズが話しかけてきた。
「ロイルもすみにおけないね」
「師匠が好かれていて、私も嬉しいですっ!」
「そっ、そんな、こと……」
そんなやり取りをしているど――。
「よう、ロイル」
声をかけてきたのは『紅の牙』リーダーのヴォルク。狼の獣人だ。
他のメンバー三人と一緒だった。
「俺たちは『獣人の里』に帰ることにした。しばらくはお別れだ」
獣人の里。
詳しくは知らないが、里という名にも関わらず、人口も領土も一国に匹敵するほど。
彼らのように里を離れる者もいるが、大半の獣人は里で暮らしている。
「……どう、し……て?」
「ああ、どうしても神獣化をマスターしたくてな」
獣人は彼らが持つ特別な力――獣気を使うことによって、獣の姿に変身し、戦闘力を高めることができる。
これは獣化という能力で、獣人であれば誰でも使える能力だ。
だが、獣人の変身には、もうひとつ上の段階が存在する。
それが――神獣化だ。
神獣になるためには、獣気だけでなく、聖なる力――聖気も必要となる。
バロル戦では俺が聖気を供給した。
それを自力でやろうという気なんだろう。
「ああ、里に思い当たる場所がある」
真剣な眼差しの中に、確固たる自信が見える。
きっと容易なことではないのだろう。
だけど、彼らならきっとできる。
「大迷宮に潜るんだろ?」
「う、ん」
「俺たちの到達階層は10層だ。その先は今の俺たちじゃあ厳しい」
大迷宮はいまだ完全攻略されていない。
現在の最高記録は二十年前に到達された12層だ。
10層といえば、今現在の最先端。
彼らでも厳しいならば、相当なものだろう。
「俺たちが戻ってくるまでにそこまで行っとけよ。まあ、お前たちならその先まで進むかもしれないがな」
ヴォルクは無邪気に笑う。
嫉妬や悪感情は一切ない。
彼のあけすけさが俺は好きだ。
「お前たちをライバルだと思ってる。今はお前たちの方が強い。だがすぐに追いつく。待ってろよ」
「ああ」
「一緒に攻略するのもいい。お互い競い合うのもいい。楽しみにしてるぜ」
「う、ん」
ライバル――いい響きだ。
俺は力強く頷いた。
「これを受け取ってくれ」
「これ、は?」
「俺の牙――親愛の証だ。獣人は真の友と認めた相手に自分の体の一部を渡すんだ」
そう言ってヴォルクは牙を渡してくれる。
俺だけじゃなく、ディズとサンディにも。
こんなに大切なものまで……。
俺たちを本当に認めてくれたんだ。
仲間に認めてもらえるのも嬉しいが、一緒に戦った冒険者に認めてもらえるのは感激だ。
「言い伝えでは武器なんかの素材にすればスゲえらしいんだが、俺たち獣人もよく知らねえんだ。お守り代わりにでもしてくれたら嬉しいぜ」
「ワシからはこれを」と熊人オルソが爪を。
「私からはこれよ」と狐人ルナールが体毛を。
「吾輩からはこれだ」と蜥蜴人ラカルティは鱗。
他の三人も親愛の証をくれる。
「あり、がと……」
彼らに恥じない生き方をしないとな……。
「んじゃ、しばしお別れだ。じゃあな」
ヴォルクたちは手を振って、去って行った。
「さ、あ……俺たちも……行こう」
「うんっ!」「はいっ!」
俺たちは大迷宮に向かう。
ようやく、ここまで来たんだ!
次回――『俺の苦労を返せっ!』
11月23日更新です!
楽しんでいただけましたら、ブックマーク、評価★★★★★お願いしますm(_ _)m
本作品を一人でも多くの方に読んで頂きたいですので、ご協力いただければ幸いですm(_ _)m
◇◆◇◆◇◆◇
【宣伝】
『異世界ベーシックインカム ~目指せベーシックインカム! 追放された伯爵息子の辺境領地開拓!~』
https://book1.adouzi.eu.org/n5223hs/
第2部連載中です。
お楽しみいただけたら幸いですm(_ _)m
◇◆◇◆◇◆◇
ボイコネでも活動始めました。
https://stage.boikone.jp/profile/157784




