132 再始動
お待たせしました。
第2部スタートです!
「まずはお疲れさん。みんな無事で安心したぜ」
メルキの街、冒険者ギルドの支部長室。
その主であるギルドマスター、ガラップは疲れた顔で告げる。
魔眼のバロルとの激戦を終え、この街に帰還して数日。
そろそろ冒険者活動を再開しようとギルドを訪れたところ、俺たちは呼び出された。
ガラップと向き合い、俺たち三人は座る。
左から、サンディ、俺、ディズの順だ。
そう、俺が真ん中に座っているのだ。
なぜかというと――。
――昨日のことだ。
「じゃあ、これからはサンディを加えて三人ね」
「はいっ、よろしくお願いしますっ。これからは私も『アルテラ・ヴィタ』の一員として頑張っていきますっ!」
――アルテラ・ヴィタ。
俺とディズで立ち上げたパーティーの名だ。
新しく人生をやり直すという意味の古代語からとった名前。
「それで、パーティーリーダーだけど……」
今までは二人きりだったので、どっちがリーダーか決めていなかった。
まあ、大体はディズが方針を考え、俺はそれに従っていただけだ。
そういうことだから、まあ、ディズがリーダーを務めるのが妥当だろう――。
「もちろん、ロイルねっ!」
「はいっ、私も師匠がいいと思いますっ!」
「えっ……」
「はーい、多数決で決定で~す。リーダーはロイルで~す」
「ぱちぱちぱちぱち」
――といった流れで、俺が意見を述べる隙もなく決まってしまった。
微妙な顔をしている俺にディズが言う。
「ロイルにとっていい経験になるよ。荒療治かもしれないけど、絶対にやっとくべきだよ」
「…………ああ」
そう言われて、ディズの意図を理解した。
俺のためだ。俺のコミュ障を克服するためだ。
「大丈夫よ。私もサンディもサポートするから」
「そうですよっ!」
「う、ん」
ディズの満面の笑み。
サンディのキラキラした目。
俺は頷いた。
――というわけで俺はリーダーとして真ん中に座っている。
「おっ、ロイルがリーダーか。よろしく頼むぜ」
ガラップが差し出してきた手を握る。
「それで、早速だが、例の件についてだ。ペルスと『紅の牙』から大体は聞いているが……」
ペルスは騎士団を率いていた女性。
『紅の牙』はヴォルクをリーダーとする四人の獣人パーティー。
ともにサラクン救援に向かった仲間だ。
「お前たちが倒したんだってな。古き神々のひとり、魔眼のバロルをな」
「うむ」
やはり、話は伝わっていた。
ペルスさんやガラップには口止めせず、「訊かれたら正直に伝えていい」と言ってあった。
こちらを窺うような視線を向けるガラップ。
以前の俺だったら、動揺して目をそらしてしまっただろうが、昨日ディズ相手に散々練習した。
俺はじっと堪えて合わせた目を動かさない。
「ほう」
ガラップは満足そうに頷く。
どうやら、練習の成果があったようだ。
「まあ、安心しろ。詳しく詮索したりしねえから」
「うむ」
「それで、どうして欲しいんだ? とくに、そっちのお嬢ちゃんは?」
ガラップはディズを見る。
ディズの方を向くと、俺を見ている。
それを確認して、俺は小さく頷いた。
リーダーである俺に許可を取ったというポーズだ。
ディズが口を開く。
「ご想像通り、私は教会関係者よ」
その言葉を聞いても、ガラップは眉ひとつ動かさない。
「どうする? 隠すか?」
「ううん。どうせ時間の問題よ。ギルド本部にも、教会にも伝えていいよ」
「いいんだな?」
「う、む……構わ、ん」
「そうか、助かる」
ガラップが俺に最終確認をし、頬を緩めた。
俺は感心する。
話の流れがディズの想定通りに進んでいくからだ。
だから、俺は練習通りに振る舞えばいいだけ。
これなら、俺のコミュ力でもなんとかなる。
「じゃあ、この話はおしまいだ。それで今回の報酬だが――」
ガラップはニヤリと口元を歪める。
いたずらっぽい笑みだ。
「二人とも今日からAランクだ」
最初の話ではサラクン救援をこなせばBランクに昇格という話だった。
それが一気に2ランクも昇格。
通常ではありえないことだが……。
「ほう、驚かないのか?」
ディズはもちろん、俺も驚いていなかった。
そのことにガラップは少し残念そうだ。
驚いていないのには理由がある。
これもまた、ディズの想定内だったから。
ともあれ、これで『紅の牙』と同じAランク。
トップ冒険者の仲間入りだ。
ちなみに、この街一番の魔法職であるサンディはもとからAランクだ。
「ひとつ……伝え、る……こと……ある」
「ほう?」
「今の……俺たち……弱く……なってる」
Aランクになると、よっぽどの理由がないとギルドからの指名依頼を断れない。
ガラップは俺たちに厄介な仕事を押し付けたいのだ。
だが、その思惑に応えることはできない。
それをちゃんと伝えておかねばならない。
「それはあの戦いの後遺症か?」
「うむ」
俺はバロル戦でムチャな魔力の使い方をした。
そのせいで、今の俺は魔力をまともに使えない。
それにディズも弱体化している。
長年溜め込んだ聖気をあの戦いで使い果たした。
今は聖気を操れず、素の戦闘能力で戦うことしかできない。
今までと同じように戦えるのはサンディだけだ。
「……そうか」
ガラップは頭を掻きむしる。
「まあ、しゃあねえな。それで、どうすんだ? この街に留まってくれるのか? それとも、どっか行くのか?」
その問いに対する答えはすでに決まっている。
昨日話し合って、決めたのだ。
「それは――」
第2部は毎週水曜日19:00更新です。
次回――『三人での話し合い』
11月9日更新です。
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