128 後日譚
――あの日から数日後。
バロルとの戦いに勝った俺たちは、その日のうちにペルスさんたちと一緒に魔動車でメルキの街に帰還した。
長いようだったが、一日の出来事だった。
人生で一番長い一日だった。
その後は、冒険者ギルドに報告したり、伯爵の祝賀会に呼ばれたり、冒険者たちに話をせがまれたり。
あっという間に数日が過ぎた。
でも、そのおかげで疲れも取れたし、十分にリフレッシュできた。
ようやく、今日から冒険者活動再開だ。
「あっ、おはようございます。用意できてますよ」
受付嬢のモカさんから、預けていた二人分の冒険者タグを受け取る。
「おめでとうございます。お二人とも今日からAランクですね」
「やったね、ロイル!」
「う、ん」
あの依頼をこなしたらBランク。
ギルマスのガラップからはそう言われていた。
だが、バロル討伐の功績は俺が思っていた以上だったようで、俺たちは一足飛びでAランクだ。
ガラップが言うには「お前たちを遊ばせておくのはもったいない」だそうだ。
ランクを上げる代わりに、厄介な依頼を押し付けようという魂胆らしい。
ディズと二人で喜んでいると、ローブをちょんちょんと引っ張られる。
「おめでとうございます、師匠っ!」
「あり、がと」
そこには自分のことのように笑顔を咲かすサンディ。
結局、サンディの熱意に根負けして、一緒にパーティーを組むことになった。
今の俺に師匠が務まるか疑問だけど、サンディは「それでも構わない」と言ってくれた。
俺は今、ローブ姿だ。
もうフルプレートは着ない。
騎士への未練は一切ない。
俺は冒険者だ。
これからもずっと。
「今日もローブ姿がお似合いです、師匠っ!」
「うん、カッコいいよ!」
「そ、う?」
二人から褒められてまんざらでもない。
サンディからもらったローブだ。
金糸で刺繍された漆黒のローブ。
チュウニ魂をビンビンに刺激してくれる最高の一品だ。
これを冴えない顔のおっさんが着ていいのか、と疑問ではあるが、フードを目深にかぶれば問題なしだ!
カッコいいローブをまとい、顔を隠した大男。
これからはこのスタイルでいくぞ!
これなら、無口なのもキャラにあってるから、なおさら、問題なしだ!
ただひとつ、気になるのが……。
サンディとペアルックな件だ。
さすがに、ちょっと恥ずかしい。
でも、サンディはすごい喜んでるし、まあ、いっか。
「これからのご活躍、楽しみにしてます!」
笑顔で送り出してくれたモカさんに挨拶し、カウンターを離れると冒険者たちの話し声が耳に入ってきた。
「やっぱ、サラクンに移るか?」
「圧倒的に足りてないらしいな」
「今なら、依頼を選びたい放題だってな」
あの騒動の後、一部の冒険者はサラクンに拠点を移した。
サラクンでは騎士が足りず、モンスター対策が追いついていない。
猫の手も借りたい状況で、割高な報酬を払って冒険者をかき集めているそうだ。
そして、冒険者だけではない。
ディン騎士団からも多くの騎士が派遣されている。
もちろん、義理人情ではない。
これをチャンスとばかり、ディン伯爵は大きな貸しを作ろうという腹づもりだ。
すでに鉱山をひとつ見返りにもらったとホクホク顔だった。
サラクン騎士団の被害については、伯爵から教えてもらった。
騎士団は半壊状態。
なかでも、最初に接敵した北方師団は壊滅的。
俺に嫌がらせをしていたヤツらはゲララを含め、全員討ち死にしたそうだ。
いろいろと思うところはあるが、門番時代のことはこれでもう終わり。
俺にとってはもう過ぎ去った過去の話だ。
騎士団に関してもうひとつ。
最大戦犯である団長のフェニルは罷免され、今は牢に幽閉中だ。
あの戦いの責任というのもあるが、今までの悪事がすべて暴かれたのだ。
資金を横領していたこと。
でっち上げで不当解雇したこと。
出入りの商会から賄賂を受け取っていたこと。
元から溜まってた騎士たちの鬱憤が爆発したのだ。
とくに、ギガ・ヒダント砲の発射命令が致命的だった。
フェニルは多くの騎士を巻き添えにしてでも自分だけは助かろうとした。
そんな彼を庇う者はおらず、誰もが積極的にフェニルの罪を告発したのだ。
まだ調査中ではあるが、極刑は免れないだろうとのことだった。
そして、もう一人の戦犯といえる魔技師団長ヒダントは行方不明だ。
戦後のどさくさに紛れ、一部の部下とともに姿をくらました。
ヒダントの悪事もバレており、指名手配中らしい。
「ロイルさまっ!」
サラクンのことを考えていると、知らない女の子から声をかけられた。
「こっ、これっ、読んでくださいっ!」
若い冒険者の女の子だ。
格好から判断するにデビューしたばかりの新人。
初々しい女の子が声を弾ませながら、手紙を差し出してきた。
思わず手に取ると――。
「返事、待ってますっ!」
女の子はペコリと頭を下げて、恥ずかしがるように逃げ去っていった。
「まただね〜。モテモテだね〜」
「師匠がモテモテで私も鼻が高いですっ!」
まだ一般市民には知れ渡っていないが、この街の冒険者の間では例の件がすでに広まっている。
しかも、尾ひれをつけて。
どうも、俺はかなり美化されているらしく、こうやってラブレターを受け取るのも五通目だ。
どの子もみんな可愛い子だった。
ディズやサンディほどではないが、以前の俺だったら「罰ゲームだよね?」と疑うくらいには可愛い子たちだ。
返事はしていない。
実際の俺が冴えないおっさんだと知って傷つけたくないからだ。
彼女たちのためにも、もうしばらくフードは外せないな。
こうやって俺たち三人が出口に向かって歩く間も、視線を向けられ、ひそひそ声が聞こえてくる。
だいぶ有名になったようだ。
――これでお前さんも有名人じゃな。
――まあ、覚悟しておけよ。
これで一般市民の間にまで広まったらどうなるか……。
考えただけでも恐ろしかった。
「よーし、早速ダンジョンに行こっか」
「はいですっ!」
「う、ん」
だが――。
ギルドから一歩足を踏み出したところで、俺は立ち止まる。
それ以上、足が動かなかった。
浮かれていた気持ちが消え去り、不安にとらわれる。
わざとテンション高く振舞っていたが、やはりこうなってしまったか……。
「やっぱり……俺…………」
「なに言ってんの」
ディズがバンと力強く俺の背中を叩く。
「そのことはしっかり話し合ったでしょ」
「そうですっ!」
「でも……」
ディズは煮え切らない俺の前に立ち、顔を見上げる。
そして、俺の両頬を手で挟んだ。
「言ったでしょ。私はロイルが強いからパーティーを組んでるんじゃないのっ! 一緒にいると楽しいから組んでるのっ!」
「そうですっ! 私もですっ! 師匠とずっと一緒にいたいですっ!」
バロルとの戦い。
誰一人犠牲者を出さずに勝てた。
みんな怪我はしていたが、ポーションと回復魔法で治るレベル。
損害はゼロだった。
――俺を除いて。
やはり、神の力を行使するにはタダでというわけにはいかなかった。
あの代償として、体内にある魔力を溜める器のようなものが砕けてしまったのだ。
あの日以来、俺は、魔力が使えない。
これが一時的なものなのかどうかはわからない。
だが、数日たっても治りそうな兆しは一向に訪れなかった。
サンディには最初からバレていたし、ディズにも伝えた。
もう一緒にパーティーを組んでもらえないかもしれない。
もう師匠って呼んでもらえないかもしれない。
それでも、二人に隠し事をする気にはなれなかった。
もちろん、二人ともそんな薄情ではなかった。
これからも一緒に冒険しようと言ってくれた。
これからも私は師匠の弟子ですと言ってくれた。
だけど――。
「……こわい……んだ……」
――役に立たねえから、門番でもやっとけ。
その一言で、俺は15年間立ち続けるハメになった。
誰からも必要とされないのはつらい。
役立たずだと捨てられるのはつらい。
また役立たずだと切り捨てられるんじゃないかという恐怖から逃れられなかった。
これからダンジョンに行って、魔法も使えず、戦えもしない、そんな俺の姿を見て、二人とも幻滅するんじゃないか――そう思うと足が動かなかった。
「ロイルは私のことを何度も助けてくれたっ! だから、今度は私が助ける番だよっ!」
ディズの目に涙が溜まる。
「ぐすっ。師匠は私に魔法の深淵をのぞかせてくれましたっ! 今度は私が師匠を治す方法を見つけるんですっ! それが私にできる恩返しですっ!」
サンディの目からも涙がこぼれる。
俺はディズの両手を握り、頬からそっと離す。
そして――。
――パーン。
思いっきり自分の両頬を平手で打って、自分に活を入れる。
…………はあ、情けない。
二人の女の子を泣かせて。
情けなさすぎるだろ。
物語の主人公にはまだまだ全然遠いな。
だが、それでも、くよくよせず前に向かって歩くしかない。
「ごめん……それに……あり、がと」
「ロイルっ!」
「師匠っ!」
「いっしょ……に……いこ?」
「うんっ!!」
「はいっ!!」
俺たちはダンジョンに向かう。
今日こそ、スライムを倒すんだ!
まさキチです。
『ガチムチコミュ障門番』第一部完結です。
ここまでおつき合いいただき、ありがとうございましたm(_ _)m
今後の投稿スタイルについてお伝えします。
第二部以降は区切りのいいところまで(5〜10万字程度)書き上げてから、まとめて投稿というスタイルにします。
本作に限らず、これからは全作品このスタイルでいきます。
第二部は現段階ではほぼ白紙です。
他作品の連載、新作、書籍化作業と、やりたいこと、やらなきゃいけないことがいっぱいあるので、すぐにとはいきませんが、お待ちいただけると幸いです。
作品の優先順位については、モチベーション次第ではありますが、皆様からの反響も反映させたいと思っています。
早く続きが読みたいと思われましたら、是非ともご支援下さい。
できるかぎりお応えしたいと思います。
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です。
ページ下部のリンクからまさキチの他作品にとべますので、第二部までのつなぎにお楽しみ下さい!




