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127 戦いを終えて3

 ――森を抜ける。


「おっ、こっちも終わったようだな」


 ヴォルクの言葉通り、街道沿いにモンスターの姿はなく、見えるのは騎士や冒険者の姿だけだった。


「にしても、ひでえな」

「うむ」


 おびただしい数の騎士の死体。

 疲弊しきった騎士たち。

 惨憺たる有様だった。


 戦いは終わり、すでに撤収作業に入っているようだが、それも遅々として進んでいないようだ。


「ヴォルク殿!」

「おう、騎士さん」


 ディン騎士団派遣隊の隊長ペルスさんが副官を伴ってやってきた。

 呼びかけられたヴォルクは軽く手を挙げて応える。


「そちらの戦況は?」

「おう、魔眼のバロルならやっつけてきたぜ。もう心配はいらねえよ」

「あのバケモノを……さすがは『紅の牙』だ」

「ちげーよ、俺たちじゃねえ」

「というと?」

「おい、ディズ、ロイル」


 ヴォルクが手招きしたので、ディズと一緒に前に出る。


「アイツを倒したのはこの二人。俺たちはちろっと手助けしただけだ」

「なんと!」


 副官の男が絶句する。

 実績と信頼のある『紅の牙』やサンディと違って、俺たち二人はぽっと出だ。

 これも当然の反応だろう。


「そうか。よくやってくれた」


 一方のペルスさんは疑問を顔に出すこともなく、深々と頭を下げた。


「詳しい話は帰り道で聞かせるとして、そっちの塩梅は?」

「ああ、なんとか勝てた。ギリギリのところで魔物が消滅したんだ――」


 ペルスさんが街道での戦いについて話してくれた。

 あわやギガ・ヒダント砲が発射されるといったときに、いきなりモンスターたちが塵となって消えたそうだ。


「そりゃ、きっと、バロルが倒されたときだな」

「うん。そうだよ。あのモンスターたちはバロルの力で動いていたからね」

「それは……本当に助かった。後十秒でも遅かったら、大変なことになっていただろう」

「だってさ、ロイル、お手柄だね」

「えっ……?」

「ロイルが力を流してくれなかったら、封印にはもっと時間がかかってたよ。だから、みんなを救ったのはロイルだよ」

「おれ……が…………」


 あのときは夢中だった。

 ディズを救うことしか頭になかった。


 俺の手をペルスさんがぎゅっと掴む。


「ありがとう。貴方のおかげで多くの命が救われた。ロイル殿、貴方は英雄だ」

「いや……おれ……は…………」


 あっけにとられる俺の手を掴み、ペルスさんが高く挙げる。

 そして、高らかに宣言する――。


「英雄ロイル万歳!」


 大声を張り上げいるというわけではないのだが、その澄んだ声はどこまでも届くようで、すっと耳に入る声だった。

 騎士たちがこちらを振り向く。

 多くの注目を集めたところで、ペルスさんはもう一度――。


「英雄ロイル万歳!」


 その声に唱和する声が重なる。


「「「英雄ロイル万歳!!!」」」


 最初に声をあげたのは、ペルスさんの部下たちだった。

 そして、それは少しずつ周囲に伝染してし、次第に大きな声になっていく。

 英雄は俺じゃなくてディズだよ――そんな俺の声はかき消されてしまう。


「「「「「英雄ロイル万歳!!!!!」」」」」


 その声はしばらく鳴り止まない。

 俺は口を開けて人事のように見ていることしかできなかった――。


「あはははっ、すごかったねえ」

「う、ん」


 ひと騒ぎあったが、それもようやく落ち着き、俺たちは帰還準備を始める。


「これでお前さんも有名人じゃな」

「……う、ん」

「これからはモテモテだぞ」

「えっ……う、そ……」

「あら、本当よ。先輩冒険者からは一目置かれ、後輩からは崇拝の眼差しを向けられ、女の子からはモテモテよ」

「もて……もて……」


 物語のハーレム主人公が思い浮かぶが、どうやっても自分がそこに当てはまるとは思えなかった。


「モテモテになっても、私のこと忘れないでね」


 ディズまで悪ノリしてくる。

 それにしても、ディズはいい笑顔だ。

 出会ってから一番いい笑顔だ。


「まあ、覚悟しておけよ」

「…………」


 最後にヴォルクから意味深な言葉を投げかけられた。


「隊長、出発準備完了しました」

「よしっ、乗り込め」


 ペルスを先頭に騎士たちが魔動車に乗り込んでいく。

 『紅の牙』が続き、最後に俺たちが乗ろうとしたところで、サンディが声をかけてきた。


「師匠……」


 今まで皆が浮かれる中、サンディだけはずっと押し黙っていた。

 そして、今、心配そうな顔で俺を見つめている。


 俺は首を横に振る。

 俺の意図が伝わったようで、サンディは小さく頷いた。


 やっぱり、サンディにはバレてるようだな。

 でも、彼女は軽々しく口にするような子じゃない。


 いずれみんなに伝えなきゃいけない。

 だけど、今はそのときじゃない。

 喜びに水を差したくはない。


 バロルを倒せたし、ディズは助かった。

 みんなも無事で、誰一人欠けていない。


 それで十分じゃないか。

 俺の身体に起こった異変なんて、大した問題じゃない。


 神が俺の願いを受け入れてくれたんだ。

 これくらいの代償なんか安いもんだ。

次回――『後日譚』


いよいよ、第一部最終話です!


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 冒頭の死体というのはモンスターなのかどうなのか? それがモンスターだとしたらバロル倒した時に消えた時に一緒に消えないのかなって疑問があります。 [一言] 執筆頑張ってください。
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