126 戦いを終えて2
――しばらくすると、五人が目を覚ました。
車座になって、これまでの経緯を説明する。
誰もが信じられないという顔だったが、話が進むにつれ、その顔には喜びと達成感が広がっていった。
「いやあ、今回ばっかは死んだと思ったぜ」
「ロイル殿とディズ殿のおかげで助かったわい」
「みんなが頑張ってくれたからだよ。二人だけだったらどうしようもなかったよ」
この勝利は七人全員で勝ち取ったものだ。
誰か一人欠けていても、バロルには勝てなかっただろう。
「しっかし、あのバケモンを倒しちまうんだからな」
「いい語り草ができたわい」
「おう。帰ったら自慢してやろうぜ」
「なに言ってるのよ。自慢話どころじゃないわよ。歴史に残る偉業よ」
「うん。私とロイルだけじゃなくて、みんなの名前も永遠に語り継がれるね」
「そうだよな。それだけのことを成し遂げたんだよな」
「我ながら信じられんわい」
みんな、あらためて自分たちが成したことの大きさに感じ入っている。
その中に俺の名前も含まれるということが、自分でも信じられなかった。
「もちろん、主役はロイルだよっ!」
「えっ、ディズじゃないの?」
バロル封印はディズじゃなきゃできなかったこと。
それに、冴えないオッサンよりも、綺麗で勇ましい聖女の方が主役にはピッタリだと思うんだが……。
みんなはそう思っていないようだ。
「なに言ってんだ」という視線が俺に集中する。
「どう考えても、お前さんが主役だろ」
「一番おいしいところを持っていったじゃろ」
「うむ、主役は間違いなくロイル殿だ」
そう……なのか。
俺みたいなコミュ障おっさんが主役でいいんだろうか……。
まあ、最近はおっさんが主役の物語も増えてきたし、それはそれでありなのかもしれない。
「俺たちも名前が残るんだ。これからは今まで以上に気合入れねえとな」
「うむ。このままだと、ただの脇役で終わってしまうからのう」
「まさか、自分が神獣化できるなんて思ってもみなかったわ」
「あれが自分の中にある力だとは、今でも信じられん」
「だが、目標ができた。いつか、自力で神獣化してみせる」
「そうだのう。あの力、もう一度ふるってみたいわい」
「とはいえ、あんな戦いは二度とゴメンだな」
「ホントよ」
「うむ」
「ああ、もう一回やれって言われても無理だな」
俺も同感だ。
あれだけの魔法を撃つ機会は二度とないだろう。
それどころか……今の俺は…………。
「なあ、ロイル?」
「なんだ?」
「お前、気づいてねえのか?」
「えっ……」
まさか、俺の異変がバレたか?
一瞬焦るが、ヴォルクが指摘したのは、まったく別のことだった。
「普通に話せるようになってるじゃねえか」
「あっ、ああ……ほんとだ」
だが、これはこれでビックリした。
ヴォルクに言われるまで、まったく気づかなかった。
思い返せば、ディズが『聖なる生贄』を使った辺りから、普通にしゃべってた気がする。
あのときは必死だったからな。
いつの間にか、噛まずにしゃべれてる。
――と思ったのだが、それを意識したとたん、口が回らなくなる。
「あっ……うっ…………」
そんな俺に温かい視線が注がれる。
「ははっ。お前さんらしいな」
「あんま気にしなくていいよ。ロイルはロイルだから。それでいいんだよ」
「うむ」
「ええ」
「そうだな」
和やかな空気が流れ、会話が一段落した。
「じゃあ、バロルを封印すっか。ディズ、任せたぞ」
「おっけー」
ディズは立ち上がる。
それに合わせてみんなも立ち上がり、ディズの後ろを囲むように並ぶ。
みなが見守る中、ディズが両手を前に伸ばすと、そこにバロルだった黒い珠が浮かぶ。
ディズは目を閉じ、詠唱を始める。
――天にまします新しき神よ。
――我ここに古き魂を封ずる。
――神の御世は末永く。
――とこしえに栄光あれ。
聖句を唱え終わると、黒い珠は地面へと吸い込まれていった。
それを見届け、ディズが大きく息を吐く。
「おわったよー」
あの激しい戦いが嘘だったかのように、その終幕はあっさりしたものだった。
「うっし、帰るぞ」
「外はどうなっとるかのう?」
「ロイルの探知魔法でわかんない?」
「ごめっ……魔力……切れ……」
「そっかー」
「あれだけやったんだし、しゃあねえな」
「むしろ、魔力が残ってたら、それこそバケモノじゃわ」
「だな」
「まあ、外の戦いは騎士さん方に任せればいいわよ」
「だな。俺たちはちゃんと仕事を果たした」
ヴォルクを先頭に歩き出す。
森を出るまで結構歩かなきゃいけない。
でも、戦いの余韻を覚ますのには調度良かった。
『紅の牙』の後を歩く俺とディズ。
ディズは堰を切ったように、興奮気味でしゃべり続けた。
よっぽど嬉しかったんだろう。
俺が凄かったとか、格好良かったとか、手放しで褒めるので、慣れていない俺は顔を赤くするしかなかった。
帰ったらあれしようとか、これしようとか、ずっとしゃべっている。
元のように口が回らなくなったので、相槌を打つくらいしかできなかったけど、俺は幸せだった。
ディズは死の淵にありながらも、俺と冒険者生活を続けたいと願っていた。
その願いを叶えられた。
これ以上の幸せはないだろう。
ただ、ひとつ気がかりが。
それはサンディだ。
皆が浮かれる中、サンディは一言もしゃべっていない。
今も浮かない顔で最後尾を黙ってついて来る。
それだけが、唯一の気がかりだった。
次回――『戦いを終えて3』




