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125 戦いを終えて1

 サラクンの街北門。

 俺はその脇に立つ。

 動かず、しゃべらず、静かに立つ。

 それが俺の仕事だ。


 代わり映えのない日々。

 変わるのは空模様くらいだ。


 あいにくと今日はどんより曇り空。

 俺の人生を表すような灰色の空。


 額にぽつりと、ひとつの雫。

 雫は頬を伝い流れ落ちる。


 雫?


 どうしてわかるんだ?


 兜をかぶっているのに、どうして肌で雫を感じるんだ?


 疑問が浮かび、それとともに、意識が収束していく。


 そうだ。


 俺は――。


「――ロイル。ロイル。ロイル。ねえ、起きてよ、ロイルぅ」


 雨ではなかった。

 それは涙の雫だった。


 ポタポタと垂れる涙。

 くしゃくしゃな顔で泣きじゃくる少女。


 地面に横たわった俺の身体が揺すられる。

 後頭部は柔らかい感触に支えられている。


 そうか、俺は――。


「ディズ」

「ロイルッ!!!」


 目が合うと、ディズに頭を抱きしめられた。


「よかったっ。ほんとに、よかったよっ!」


 ディズの柔らかさと暖かさに包み込まれる。

 俺も両腕で抱き返す。


 ――俺は守れたんだ。


 身体の奥底から喜びが湧き上がり、腕の力をいっそう強める。

 命の温もりを抱きしめる。


 身体の内側には違和感がある。

 だが、これくらいは想定していた。

 ディズの命が救えたんだから、これくらい安いものだ。


 しばらく二人抱き合ったまま、時間が流れる。

 感極まって抱きしめてしまったが、冷静になるにつれ、恥ずかしさがこみ上げてくる。


「「あっ……」」


 それはディズも同じだったようで、どちらともなく身体が離れる。


 ディズが赤くなった目を拭う。

 俺は上体を起こして立ち上がる。

 それに合わせてディズも立ち上がった。

 ディズの残り香がふっと鼻をくすぐった。


 お互い照れくさい。

 でも、それも生きているからだ。


 上を見上げると、雲ひとつない青空。

 バロルの結界は消滅している。


 ――終わったんだ。


「ロイル、身体の調子はどう? 痛いところない?」

「ああ」


 起き上がった俺は、身体を軽く動かす。

 ディズがポーションで癒やしてくれたんだろう。

 外傷はすべて治っている。

 痛みもまったく感じない。


「元気だよ。でも、魔力が空っ穴だ」


 嘘はついていない。

 怪我はないし、魔力を使い果たしたのも事実だ。

 ただ、俺の身体に起こった異変を伝えなかっただけだ。


「そう。よかったっ!」


 ディズは疑いもせず、笑顔を浮かべる。


「ディズは?」

「元気すぎるよっ! 身体が軽くって、戦う前より強くなった気がするっ!」


 その場でぴょんぴょんと飛び跳ねてみせる。

 俺がディズに注ぎ込んだ力のせいだろう。

 回復させるだけでなく、強化させる効果まであったようだ。

 あのバカバカしいほどの力だったら、それくらい起こっても驚きはしない。


「相変わらず、神聖魔法は使えないみたいだけどね」


 そう言ってはにかんだ。


「ロイルが助けてくれたんだよね?」

「ああ」

「また、借りができちゃったねっ!」


「みんなは?」

「みんな無事だよ。意識を失ってるだけで、もう少ししたら目覚めると思う」

「そっか」

「バロルはどうなったの?」

「ほら、これ。封印したから、もう大丈夫だよっ!」


 ディズが指し示した先には、黒光りする小さな球。

 禍々しさは一切感じない。


「後は埋めるだけっ」

「じゃあ、終わらせようか」

「ううん。せっかくだから、みんなが起きてからにしよ?」

「ああ、そうだね……」


 俺たちは勝ったんだ。

 一人の犠牲も出すことなく。


 そう思うと、足の力が抜けた。

 俺はその場に座り込む。

 ディズも隣に腰を下ろした。


 ディズの手が伸びる。

 その手を俺はギュッと握る。

 ディズが握り返す。


 それ以上、言葉はいらなかった――。

次回――『戦いを終えて2』

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