表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

119/148

119 魔眼のバロル28:俺にできること

 俺は駆け出すッ!

 今、この瞬間も、ディズの身体からは血が失われ、命も失われていく。


「死なせないッ! 絶対に、死なせないッ!」

「ううん。いいよ、ロイル。これが神のさだめだから」


 ディズに飛びつき、後ろから抱きしめる。

 俺がすっぽりおおえるほど、ディズは小さかった。


 こんなに小さな身体で……。


 金属鎧ではなく、ローブ越しに伝わってくるディズの柔らかさと暖かさ。

 俺は初めて人肌の暖かさを感じた。


 そうか。俺は今まで鎧で人を遠ざけていたんだ。

 物理的なだけではなく、精神的にも他人を拒んでいたんだ。

 人と話すのが怖くて、人と関わるのを恐れて、鎧の中に閉じこもっていたんだ。


 だけど、ディズと出会って変わった。

 ディズのおかげで変われた。

 ディズは人の暖かさを教えてくれた。


 それなのに、その暖かさは――流れる血とともに失われつつある。


「やっぱり、神の掌の上だったね。役立たずだからって教会を飛び出した私が、結局、聖女の仕事をやってるんだもん。ロイルと出会ったのも、神のお導きだったんだね」


 サンディからもらったローブがディズの血でぐっしょりと染まる。

 残り少ないディズの命の雫が染みる。

 失うわけにはいかない。

 ディズを。この暖かさを。


「神よ、ありがとうございます。ロイルと出会えたことに感謝いたします」


 なぜだッ! なんでだッ!

 どうして、これから死ぬっていうのに、そんな笑顔ができるんだッ!


「ロイルもありがとうね。ロイルがいなかったら、私は世界を救えなかった。自分の使命を果たせなかった。ロイルのおかげで、私の人生に意味があったって思えたよ。ほんとうにありがとね」


 白い笑顔。

 血の気の失せた顔。


 違う。そうじゃない。

 俺はなにもできていない。

 ちょっと人より魔力が多いだけだ。


 サンディのように、魔法を極めんと死ぬ気で努力してきたわけじゃない。

 ヴォルクたちのように、命がけで戦ってきたわけじゃない。

 ディズのように、世界のために命を捧げられるわけじゃない。


 俺に感謝するくらいなら、いまここを生き延びてくれッ!


「ごめんね。嫌な役目を押しつけちゃって。でも、これは私が望んだこと。ロイルが気にすることじゃないよ。ロイルも世界を救った一人だよ。胸を張って、メルキに帰ってね」


 世界を救えても、ディズを救えないなら意味がないッ!


 なにができる?

 今の俺になにができる?

 ディズを救うためになにができる?


「短い間だったけど、私、楽しかったよ」


 俺は必死で探る――。


 自分の魔力を。

 獣人の獣気を。

 バロルの邪気を。

 ディズの聖気を。


「あ〜あ、もっと一緒にいたかったな」


 その言葉を最後に、瞳が弱々しく閉じられた。


「大丈夫。俺が助けるから、一緒に帰ろう」


 俺の言葉にディズはかすかに口元を緩めた。

 大丈夫。まだ命は尽きていない。


 一生懸命、頭を回転させろッ!


 【大いなる生命の息吹グランディス・ヴィータ・スピィリートゥム】では回復できない。

 バロルの邪気に遮られてしまう。


 聖なる生贄(サクリファイス)とロンギヌスによって、バロルの邪気とディズの聖気は急速に減少している。

 邪気が尽きればなんとかなるだろうが、その前にディズの命が失われてしまいそうだ。

 今も、ロンギヌスの先端から血は流れ続けている。


 クソッ!

 魔力も、獣気も、邪気も、聖気も――ディズには届かない。

 ディズと繋がるパスはひどく細い。

 どの力を流そうとしても、弾かれてしまう。


 なにか別の方法が必要だ。

 よく考えろ。よく考えろ。


「ねえ、ロイル」

「うん」


 ディズはうわ言のようにつぶやく。

 俺は耳をディズの口元につける。


「私は聖女を辞めて、ロイルは門番を辞めて。二人で冒険者になったんだよね」

「ああ、そうだね」

「これからもいっぱいいっぱい冒険するんだよね」

「ああ」


 俺の返事が聞こえているかわからない。

 目を閉じたまま、消え入りそうな声だ。

 返事をしながらも、俺の意識は救う方法を探し続ける。


 怪我を治すにはいくつか方法がある。

 一番多く用いられるのは「ヒール」などの回復魔法やポーションだ。

 どちらも、対象の魔力に干渉して、身体を修復させる方法だ。

 俺の【大いなる生命の息吹グランディス・ヴィータ・スピィリートゥム】も同じようなものだ。


 それと聖女や教会の聖職者が使える神聖魔法だ。

 実際に見たことはないが、きっと聖気を使うのだろう。


 後は……。


「二人で歴史に残る冒険者になろうね。私たちならAランク、ううん、Sランクだってすぐなれるよ」

「そうだね」


 そういえば、獣人の中には高い自己回復力を持つ者もいるらしい。

 多分これは獣気を操作しているのだろう。


 しかし――。


 魔力、聖気、獣気。

 どれもダメだ…………。


「ロイルも魔法が上手になったしね。帰ったら、もう一度『始まりのダンジョン』に行こうよ。今のロイルなら、ちゃんとスライム倒せるよね」

「うん」


 原因はバロルだ。

 バロルの黒い邪気とディズの白い聖気が混ざり合っているから、上手くいかないんだ。


「それから、またいっぱいモンスター倒して、解体場のウルスをビックリさせようよ」

「うん」


 邪気も聖気も今日、初めて触れるもの。

 俺はなんの知識も持ち合わせていない。

 今から解析していたら、とてもじゃないが間に合わない。


「そうだ。フローラちゃんにこの戦いの話を教えてあげないとね。ロイルはカッコ良かったし。私も頑張ったし。きっと、喜んでくれるよ」


 …………………………………………いや。


 !!!!!


 知っている。

 たったひとつ。

 俺の知識にひっかかるものがあった。

次回――『魔眼のバロル29:最後の力』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ