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117 魔眼のバロル26:ディズVSバロル

 対峙するディズとバロル。

 両者がまとう白と黒のオーラがひしめき合う。

 最初に口を動かしたのはバロルだった。


 白い光をかきわけるようにして、ゆっくりとディズに歩み寄る。

 その禍々しさに俺は反射的に――。


『――【絶対不可侵オムニノ・ノモレスト・遷移空間(トランジ・ロゥクス)】』


 ディズの前に魔法障壁を張るが、バロルの二歩目で――パリンと容易く砕け散る。


「なっ!?」


 今までバロルの攻撃を防いでいた障壁が、こんなにも簡単に破られるとは!


 バロルは虹色の両目を閉じる。

 そして、額の黒目がぐるりと回り、俺に向けられる。


 心臓を鷲掴みにされるような不快感。

 バロルの圧力に思わず後ずさる。


 クッ。

 ディズはこんな重圧と向き合っているのか。


「魔力ナゾ、今ノ我ニハ通ジナイ」


 バロルの黒いオーラを見て直感する。

 俺の魔力では攻撃が通らない。

 いや、魔力だけではない。

 獣気でも、邪気でも、聖気でも、俺の攻撃は無効だ。

 ディズが言ったように、聖女でないとバロルにダメージを与えられない。


「ロイル、バロルの相手は私にしかできない。ここまでやってくれただけで十分。後は私に任せて」


 悔しいが、ここは黙って見ているしかない。

 俺にできるのは、ディズの勝ちを神に祈るばかりだ。


 バロルは俺への興味をなくしたようで、黒い瞳でディズを見つめる。


「キサマモ新神ノ使イ、聖女トイウ奴カ、忌々シイ」


 そう言い放つと、バロルは一瞬で距離を詰め、ディズの顔めがけて拳を振るった。


 ――パン。


 振りぬかれた拳はディズの顔があった場所に突き出されていた。

 だが、ディズは首を傾けてかわしていた。

 それに、今の音。

 俺には見えなかったが、バロルの拳の軌道をそらしたようだ。


 ディズはすぐに反撃に移る。

 同じように拳を放つが、バロルの掌に軽々と受け止められてしまった。


「我ラヲ追イ出シ、地ノ底ニ封ジ込メタ憎ックキ者ドモヨ。一度ナラズ、二度マデモ、我ヲ封ジ込メヨウト言ウノカ」

「もう、あなたたちの時代じゃないよ」


 憎々しげに言うバロルに向かって、ディズは首を横に振る。

 その瞳には憐憫の感情が含まれていた。


「フンッ」


 バロルはディズの拳を握り、腕を振る。

 ディズは放り投げられるが空中でくるりと一回転。

 体勢を整えて、軽やかに着地する。


「新参者ガ偉ソウナ口ヲ利クナ。コノ世界ハ我ラノモノ」


 バロルが腕を前に突き出す。

 その手から黒いオーラの弾が発射される。

 ディズも同じように構え、手から白いオーラ弾を放つ。


 黒と白が衝突し――相殺される。


「そうね。あなたたちが先住者。後から来たくせに偉そうにするな。そう言いたいのわかるよ。でも、あなたたちが暴れると世界が壊れてしまう」

「ソレガドウシタ。壊レルトイウナラ、壊レレバヨイ。世界ガドウナロウト、我ノ知ッタコトデハナイ。我ハ思ウガママニ、チカラヲ振ルウノミ」


 バロルの手から次々と黒弾が撃たれる。


「あなたの気持ちはわからなくはないよ。あなたはただ生きているだけ。でも――」


 ディズは白弾で撃ち落としていく。


「私たちとあなたたちは相容れない存在。私たちが生きるためには、あなたたちにはおとなしくしてもらうしかないんだよ」

「邪魔スルナラバ、キサマラヲ滅ボスダケダ」

「なら、私は自分の使命を果たすだけ」


 オーラ弾の撃ち合いが途切れる。


「ホウ、キサマニデキルノカ?」

「やるしかない。今まで救えなかった生命のためにも」

「ナラバ、示シテミセヨ」

「ええ、望むところよ」


 二人とも前に飛び、殴り合いが始まった――。


 壮絶な打ち合いだ。

 速すぎて、目で追えない。

 気の流れで二人が殴り合っているだろうと、かろうじて分かる。


 二人の殴り合う音が響く。

 お互い、防御無視のノーガードだ。


 ディズの拳がバロルをとらえるたび、バロルの黒い邪気が失われる。

 バロルの拳がディズをとらえるたび、ディズの白い聖気が失われる。


 ともに、ここが決め所としたようだ。

 どちらかの気が先に尽きるまで、殴り合いは続く。

 それならば――。


『――聖気供給』


 俺はディズのサポートをしようと試みたが――。


「なッ!?」


 ダメだ。

 聖気が供給できない。

 ディズと繋がるパスは固く閉ざされているようだった。


 クソッ。

 だが、聖気操作を覚えたての俺ではデイズに聖気を届けられない。

 俺がもっと上手に聖気を操れていれば……。

 悔しさがこみ上げてくる。


 それだけではない。


『――【大いなる生命の息吹グランディス・ヴィータ・スピィリートゥム】』


 回復魔法も今のディズには届かなかった。


 ディズが口から血を吐く。

 純白の聖衣がまだらに赤く染まる。


 俺は黙って見ていることしかできない。

 ディズは命を賭して戦っているというのに。

 自分の不甲斐なさに、握りしめた拳から血が滴る。

 痛みはこれっぽっちも感じなかった。

次回――『魔眼のバロル27:聖女の役割』


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