116 魔眼のバロル25:ディズの想い2
今回もディズ視点です。
ある日突然、私は急に無力感に襲われた。
――古き神々なんて本当にいるの?
記録によると、最後に現れたのは千年前。
当然、それを知る人は生きていない。
書物に記された記録だけが、それを伝えている。
たとえ、その記録を信じたとしても……。
――私の時代に現れるの?
千年も現れていないのに……。
教会内でも古き神々の存在を信じているものはほとんどいない。
無知蒙昧な民衆にわかりやすく教義を伝えるためのたとえ話だと思われている。
――もし、現れなかったら、私の人生っていったい……。
その日のために鍛え続け、それが無になるとしたら、私が生きる意味ってなんなんだろう……。
そんなときに教会の偉い人に言われた。
「神聖魔法を使えないおまえは聖女失格だ」
神聖魔法しか知らず、封印魔法を知らない者にとっては、私は用無しだろう。
「冒険者の真似事などして、聖女の品格を汚しおって。役立たずなら役立たずらしく、礼拝堂にこもって祈りを捧げていろ」
ああ、そっか。
私なんか、いらないんだ。
どうせ、古き神々なんか復活しないよ。
だから、私なんかいてもいなくても、おんなじだ。
心の糸がプツンと切れた。
――もうここにいる意味ないよね。
私は聖女である意味を失った。
教会を出ようと決心した。
最後にフェリス様に挨拶に行った。
引き止められて決心がにぶるかもしれない。
それでも、フェリス様からいただいた大きな恩を、ないがしろにはしたくなかった。
「聖女は重荷です」
別れを告げる私に、フェリス様はいつもと同じ優しい笑顔と柔らかい口調だった。
「ひとりの少女に背負わせるには重すぎます。私だって何度も逃げ出そうと思いましたよ」
「フェリス様でもですか?」
完璧な聖女そのものであるフェリス様にそんな過去があったとは意外だった。
「ええ。だから、あなたの気持ちはよく理解できますよ。持ちきれない荷物なんか捨てちゃいなさい」
フェリス様は穏やかな笑みをたたえている。
引き止めるどころか、背中まで押してもらえるとは思わなかった。
「あなたが誰よりも頑張ってきたことを、私は知っています。今までよく頑張りましたね」
その言葉に涙がボロボロとあふれた。
誰にも認められなくても、フェリス様は私を見てくれていた。
それだけで、これまでの苦労が報われた。
泣きじゃくる私の頭をフェリス様が優しくなでてくれる。
最近ではご無沙汰だったが、小さい頃はこうやってよく頭をなでてくれた。
懐かしい思いとフェリス様の暖かさで、胸の中がいっぱいになる。
「聖女を捨てるのはかまいません。でも――」
泣き止んだ私に、フェリス様が優しく諭す。
「その前に世界を見て来なさい。この世界に生きる人々を見て、話して、触れ合って。自らを犠牲にしてまで彼らを救う価値があるのかどうか、自分の身で確かめるのです」
――この世界に生きる人々。教会の外にいる人々。
意志が定まった。
「はいっ!」
私は聖女の礼服をビリビリに引き裂き、教会への未練と一緒に捨て去った。
「相変わらずおてんばですね」
顔が赤くなる。
「でも、それがあなたらしいですよ」
フェリス様の笑顔を胸に、私は一歩を踏み出した――。
次回――『魔眼のバロル26:ディズVSバロル』




