110 魔眼のバロル19:聖獣
「できる……こと……ある」
「なっ!? 本気か?」
「う、ん」
「お前の規格外も大概だな」
「協力……して」
「協力?」
「う、ん」
この作戦には彼ら獣人の力が必要だ。
「わかった。お前を信じる。なんでもやってやるぜ」
「ありがと」
「この戦いに加われるなんて、血が騒ぐな」
「そうじゃのう。歴史に名を残すいい機会じゃ」
「ドキドキするわね」
「胸が高鳴るのう」
みんな、俺を疑いもせず信じてくれる。
これは期待に応えないとな。
俺は自分の魔力を調整していく――。
この戦いで魔力調整はかなり上達した。
――実戦は練習の何倍も成長する。
ある物語の主人公の台詞だったけど、本当にその通りだ。
こんな作戦はこの戦いの中じゃなければ思いつかなかった。
獣人の獣気。聖女の聖気。
両者を注意深く観察して解析してきたからこそ、思いつけたのだ。
ヴォルクたちに魔力を供給してわかったのだが、獣人には普通の魔力と獣気のふたつを供給するパスがある。
そして、獣化した彼らにはもうひとつのパスが生まれた。
最初はそれがなんなのか、俺にはわからなかった。
だが、ディズの聖気を分析してわかった。
獣化した状態の彼らには、聖気を供給できるのだ。
とはいえ、実際に聖気を流したらどうなるかわからない。
俺が扱い方を間違えれば、彼らの命に危険が及ぶかもしれない。
それでも――俺は自分を信じる。
みんなが信じてくれた自分を信じる。
大丈夫。
俺は何年も何年も、ずっと魔力をこねくり回してきた。
誰にも負けないくらい、魔力と付き合ってきた。
魔力をこねることなら誰にも負けない。
絶対に成功させてみる。
俺は大きく息を吐き出してから、『紅の牙』の四人とパスを繋ぐ。
「なんだこりゃ?」
「ぞくぞくするのう」
「不思議な感覚」
「これは……」
彼らに流すのは、魔力でも、獣気でもない。
まったく新しい力だ。
それは獣気と聖気を混ぜあわせたもの。
しいて言うならば、聖獣気とでも呼べばいいのか。
『――聖獣混合・供給』
獣化した彼らの身体は、この新たな力を受け入れる準備ができている。
俺が流す聖獣気が彼らの身体に染みこんでいく――。
「なあ、これって?」
「ああ」
「ええ、そうね」
「うむ」
彼らは知らなかったが、彼らの身体は知っていたようだ。
「おいおい、マジかよ……」
ヴォルクは今までで最大の驚きを見せる。
「これは……」
オルソは口を大きく開ける。
「どうやら、伝説は本当だったようね」
ルナールは笑みを浮かべる。
「うむ」
ラカルティは頷く。
「みんなわかってるようだな」
「ああ」「ええ」「うむ」
獣人に隠された真の力が、今、覚醒する――。
『聖獣化――孤狼』
『聖獣化――巨熊』
『聖獣化――妖狐』
『聖獣化――古龍』
四人は巨大化し、神聖な気をまとった聖獣へと姿を変えた――。
次回――『魔眼のバロル20:最大戦力』




