109 魔眼のバロル18:天使召喚
『――聖気供給』
俺は自分の魔力を聖気に変換してディズに送り込んでいく。
変換効率は極めて低い。
バロルからあふれた膨大な邪気がなかったら、とても追いつかなかっただろう。
無尽蔵な邪気が俺というフィルターを通して、聖気に変換されてディズに届く。
空になった容器をいっぱいにするよう、ディズの聖気が満たされていく。
――しばらくして、ディズが目を開いた。
「ロイ、ル?」
虚ろだった視線はすぐに焦点を結び、手足にも力が入ったのがわかった。
「これが聖気本来の力……」
血色も元に戻っている。
それだけではなく、ディズの全身は淡い光に包まれていた。
「あはは、私ぜんぜん使いこなせてなかったんだ。やっぱ、ロイルはすごいな」
ディズはよいしょと立ち上がった。
「よーし、じゃあ、カッコいいとこ見せてあげないとね」
笑顔を浮かべるディズだったが、すぐにその表情が陰る。
「ねえ、ロイル。なにがあっても驚かないでね」
「う、ん」
さっきも聞いた言葉。
念を押すように繰り返された言葉。
寂しげな顔。
この顔を見るのは今日何度目だろうか。
翼が生えた姿をすでに見ているので、今さらなにが起こっても驚かないとは思う。
ただ、ディズの言葉はなにかそれ以上の重さを含んでいるようだった。
いずれにしろ、俺は頷くしかない。
「じゃあ、行ってくる」
降り注がれる飛礫の雨を気にすることもなく、ディズは飛び立つ。
飛礫はディズを包む光に触れると消滅していく。
ディズは再度、バロルを見下ろす。
じっと見つめ合う両者。
バロルはディズを標的に飛礫を放つが、ディズを包む光がすべてを無効化する。
ディズは聖句を唱え始めた――。
――天にまします新しき神よ。
――願わくは御名の威光で世を照らしたまえ。
――我ここに古き妄執を断たんと欲す。
――神の御使いをいざここに顕現させたまえ。
『――天使召喚』
ディズの背中に生えた翼が大きく開かれる。
さっきまでの何倍もある大きな大きな翼だ。
広げられた翼の中から光の粒子が降り注ぐ。
そして、天使が次々と生まれ出る。
白く整えられた彫像のような姿。
背中には一対の翼。
お伽話や聖典に出てくる天使の姿そのものだった。
その数十二。
その手には剣、槍、弓矢。
さまざま武器が握られていた。
「行けッ!」
ディズの一声で、天使たちが武器を構え一斉に襲いかかる。
バロルは両腕を振り回して落とそうとするが、天使はその腕をかいくぐり、次々と攻撃を加えていく。
絶え間ない波状攻撃。
一撃ごとにバロルの身体が縮んでいく。
「すげえ……」
目の前で繰り広げられているのは、まさに神話の世界だ。
地上の俺たちは立ち尽くし、その光景に目を奪われていた。
「こりゃあ、俺たちの出る幕はないな……」
人智をはるかに超えた戦い。
ヴォルクのつぶやきも当然だ。
天使による攻勢が続き、俺たちの心にゆとりが生まれる。
だが、バロルの瞳の色が変わると状況は一変した。
額のまぶたが閉じられ――開くと金色の瞳が現れる。
空気が歪む。
それほど暴力的な邪気だ。
バロルの反撃が始まった。
バロルが振るう腕。
スピードも威力も、今までとは桁違い。
それにくわえて、金色の瞳から光線が放たれる。
天使たちも善戦する。
バロルにダメージを与えていくが、天使も反撃を食らう。
傷つき、動きが鈍る天使たち。
バロルを縮ませると同時に、天使も数を減らしていく。
バロルはすでに体長10メートルほどに縮んでいる。
だが、天使の数は残り三。
どちらが先に尽きるか、予断を許さない状況だ。
「くそっ、指を加えて見てるしかねえのか」
ヴォルクが忌々しげにバロルを睨む。
たしかに、このままではなにもできない。
だけど――。
次回――『魔眼のバロル19:聖獣』




