108 魔眼のバロル17:聖気
力なく落ちてくるディズ。
俺は落下場所に向かって駈け出した。
必死に両腕を伸ばし、ギリギリでディズをキャッチする。
「だいじょぶ!?」
「うん……ありがと」
思わず大声が出る。
ディズは青ざめていた。
力が入らないのか手足はダランと垂れたままだ。
今の光矢で力を使い果たしてしまったようだ。
「あああ……やっぱり未熟だったかあ……」
消えてしまいそうな細い声。
「ディズ、しっかりっ!」
「ごめんね……ダメだった……みんな、逃げて」
みんなの視線が俺たちに注がれる。
「ここまでやって、逃げるわけにはいかねえだろ」
「おう。最後まで戦おうぞ」
「仲間を置いて逃げられないわよ」
「同意だ」
「私も逃げませんっ!」
「なあに、これくらいのピンチ今まで何度でもあった。それを乗り越えてきたから、今の『紅の牙』があるんだ」
「最後まで悪あがきしてみせよう」
「まだまだ魔法は撃てるわよ」
「吾輩もまだ暴れ足りん」
「極大魔法をお見舞いですっ!」
決死の覚悟が伝わってくる。
命は捨てた。だけど、捨鉢になっているわけではない。
僅かな可能性に命を賭けるのだ。
これが一流の冒険者だ。
胸が熱くなる。
「だい、……じょ、ぶ……。策が……ある」
まだ諦めるには早い。
俺にはまだやれることがある。
ディズが光矢で戦い、バロルの攻撃を引きつけてくれた。
そのおかげで、俺は光明を見出した。
「なんか考えあるん……だな?」
「う、ん」
俺は力強くうなずく。
皆を安心させるように。
「みん、な……俺を……まも、って……時間……かせいで」
「よしっ。死ぬ気でやるぞ」
「守りは任せい」
「守り切るわ」
「誇りにかけて」
「今度は私が師匠を守る番です」
俺たちが一致団結したそのとき、バロルのまぶたが開いた。
額の瞳は――緑色だ。
こちらもすぐさま戦闘態勢を整える。
俺を庇う陣形だ。
サンディは俺の前に立ち、短い詠唱とともに魔法障壁を発動させる。
バロルはこちらを見下ろし、無造作に腕を払う。
その腕から無数の飛礫が降り注ぐ。
バロルが腕をふるう度に、飛礫がばらまかれる。
一発当たりの威力は今までの攻撃に比べてはるかに小さい。
だが、それこそ、どしゃ降りの雨のように避ける隙間がない。
単純な物理量に任せた攻撃。
それだけに、対応する方法はただひとつ。
――耐えるしかない。
五人は俺とディズをかばい、飛礫の雨を防ぐ。
障壁は削られ、傷が作られていく。
血が飛び散り、肉が抉られる。
だが、それでも――五人は怯まない。
だから、俺もみんなの期待に応えるッ!
魔力というのは一種類だけだと思っていた。
人によって微妙に異なるが、本質的にはひとつ――そう思っていた。
だが、昨日から今日にかけて――それが間違いだったと知った。
この世界には俺が知っていた魔力と同じような力がいくつかある。
そして、俺はそれらの力を変換して取り扱うことができる。
吸収したり、他者に分け与えたり。
最初に気づいたのは昨日の『紅の牙』との模擬戦だ。
彼ら獣人は獣化する際に、人間の魔力とは別の「獣気」という力を使う。
そして、バロルの邪気。
初めて体験する異質な力だった。
だが、俺はバロルの邪気も解析して、自分のものにできた。
それによって、ピンチを脱出できた。
そして、もうひとつ――。
ディズが用いた力だ。
「神身一体」で姿を変え、光矢の雨を降らせた力。
聖女しか扱えない力。
聖気と呼ばれる力。
聖気は異質だった。
異質さではバロルの魔力以上だった。
そのせいで、解析に時間がかかった。
解析が完了したのは、ディズが光矢を打ち終わるのとほぼ同じタイミングだった。
あそこまでディズが保っていなかったら、ほんとうに絶命だった。
だが、間に合った。
俺は聖気を理解した。
ディズほど巧みに聖気を操ることはできない。
だけど――。
俺は抱えているディズの手を取る。
そして――。
『――聖気供給』
ディズに聖気を送り込むことなら可能だ!
次回――『魔眼のバロル18:天使召喚』
明後日の更新です。




