107 魔眼のバロル16:光矢
地上に、そして、ディズに向かって光線が連発される。
ディズはその光線をかいくぐって、バロルの額に槍を放つ。
『――アンティオキア・バースト』
光輝く聖槍が額の眼に向かって投げられる。
だが、バロルは首を傾け、瞳への直撃を避ける。
聖槍は額に深々と刺さり、バロルがうめき声を上げる。
ディズはアンティオキアを掴み、引き抜く。
それとともに光線の雨が途切れた。
ディズが一矢報いたが、バロルの赤眼から放たれた光線の被害は甚大だった。
俺だけでなく、『紅の牙』の四人も大ダメージを負っていた。
四人ともギリギリで回避して、直撃は避けたようだが、それでも被害は甚大だ。
「あぶねえ。獣化してなかったらヤバかったな」
「なんたる威力」
『――【大いなる生命の息吹】』
『――【絶対不可侵遷移空間】』
回復魔法と障壁魔法を全員にかけ直す。
魔力はいくらでも補強可能なので出し惜しみはナシだ。
さて、どうするか。
切り札を切るべきか……それとも。
そのとき――バロルの額の瞳が閉じられる。
そして、再び開いたとき、瞳の色は青くなっていた。
「この色のときは普通の攻撃は通らないよ。ロイルはみんなを守って」
「わか、った」
「ここは私がやるから――」
『――【絶対不可侵遷移空間】』
『――【絶対不可侵遷移空間】』
『――【絶対不可侵遷移空間】』
『――【絶対不可侵遷移空間】』
『――【絶対不可侵遷移空間】』
みんなを守るように障壁を何重にも重ねて発動させる。
これだけあれば、ダメージは防げるだろう。
ディズはそれを確認すると、天高く昇っていく。
バロルを下に見下ろす高さまで翔んでいく。
バロルはディズをチラリと見たが、俺たちを標的に定めたようだ。
その口が開き――。
――ヴォオォォォォオッォォ。
その口から圧縮された魔弾が地上に向けて何発も撃ち出される。
狙いは適当だ。それよりも数で押そうしている。
光線のときよりも、はるかに多い。
地面に向かって、手当たりしだいに連発される。
――ガン。パリンッ。
魔弾が障壁にぶつかり、障壁が破られる。
『――【絶対不可侵遷移空間】』
その端から、俺は新たに障壁を張り直していく。
魔弾が破壊するよりも、俺が張り直す方が早い。
これなら、防ぎきれる!
ディズは高みからバロルを見下ろす。
空中に停止し、両腕を横に伸ばし、両足は閉じられる。
十字姿勢をとったディズは詠唱を開始し――。
『――光矢の雨』
負けじと光矢の雨を降らせる。
光矢はバロルの身体に降り注ぐ。
たまらずバロルは上を向く。
そして、今度はディズに向かって魔弾を撃ちまくる。
光矢と魔弾のぶつかり合いだ。
この勝負を制したのはディズだった。
光矢は魔弾を打ち消しても余りある。
その光矢がバロルの身体に直撃する。
一方的な攻撃が続き、やがて、途切れる。
バロルの額の眼は閉じられていた。
「おい、見ろっ」
「縮んでるな」
バロルの身体はひと回り小さくなっていた。
まだまだ、十分に巨大だが、それでも小さくなった。
「いい調子じゃのう」
「イケる気がするぜ」
皆がバロルに注目している中、俺はディズを見ていた。
ふらりとディズの身体が傾く。
そして、そのまま糸の切れた凧のように、ディズは落下を始めた。
俺は慌てて落下地点に駆け出した――。
次回――『魔眼のバロル17:聖気』




